冷宮の人形姫

りーさん

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第一章 虐げられた姫

第14話 全部失くせばいい

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 目が覚めて起き上がる。あのまま寝てしまったんだ。眠たかったのかな……?多分、起きていようと思えば、それはできたと思う。冷宮ではまともに寝れたときの方が少なかった気がするし。

 じゃあ、何で思わず寝たんだろう?寝てるときが一番楽だと、感じているのかな?静香のときも、逃げたいと思ったときは、寝ていた気がする。寝て起きたら、そのことはどうでもよくなっていて、気にしなくなっていた。

 それは、今も同じ?なら、私は逃げたいと無意識に思っているの?一体、何から?

 人形は、壊れたら直る。いや、直される。私は、逃げたいという思いを、直された?だから、私は何かから無意識に逃げたいと思うようになったの?生まれ変わったと気づいたときは、逃げ出したくてたまらなかったような覚えがある。でも、逃げられなかった。部屋から出ようとしたら、すぐにルメリナに捕まる。ルメリナじゃなくても、使用人達に捕まる。

 痛くて、辛くて、泣いていた。今は、泣き方が分からない。痛いも辛いも、分からない。多分、理解したら、痛みも辛さも大きくなるからだ。精神が完全に壊れないための、私なりの防衛本能だ。

 私は、最初は感情を、感覚を、理解したくないから失くした。そうすれば、楽になると思ったから。でも今は、理解しようと思っても、分からなくなった。転んだら、普通は痛いもの。でも、私は痛いのが分からなかった。

 そもそも私に、痛みを理解しようという思いがあったのだろうか。いや、多分なかった。その必要がないと思っていただろうから。あの冷宮で必要だったものは、丈夫な体くらい。あと、見るための目と聞くための耳。言葉も、自分の意思も、感情も感覚も必要ない。

 ……うん?ふと下を見てみたら、私が何か服のようなものを掴んでいるのに気がついた。……これ、誰のだろう?私のではないし、ハリナとセリアはこんなもの着ていなかったような気がしたし……

「おはようございます……いえ、今は夜ですから、こんばんはの方が正しいでしょうか」

 セリアが声をかけてきた。……?ハリナはいないのかな?

 まぁ、いいや。それよりも、この服だ。

 これは何?と服をセリアに突き出してみる。

「あぁ、そちらは陛下のものです。フィレンティア皇女殿下は、陛下に抱えられお帰りになられたのですが、その際にその服を掴んで離さなかったそうです」

 そうなのか……私が掴んでいたから、置いていったということ?無理やり引き剥がしても別に気にしなかったのに。

「それで……皇女殿下。お聞きしたいのですが……」
「……?」

 人形姫に何か聞くことがあるの?

「どんな夢を見ていたのですか?ずいぶん、うなされているように見えたのですが……」

 ……うなされてた?人形姫も、夢は見るらしい。でも、うなされてた……ってことは、私は声を出せるってことだよね?じゃあ、口を開いても話せないのは何でなんだろう?感情を表に出せないのは?感覚を感じられないのは?感情を理解できないのは?

 私は……無意識なら、声を出せるの?表情も変えられるの?一体、どうして?分からないことが多すぎる。

 ……いや、今は考えなくてもいいや。まず、質問に答えないと。でも、どんな夢を見たのかって、私はそもそも夢を見たことを覚えてない。どう答えればいいの?首を振ればいい?

 分からない、分からない。何も分からない。分からない……分かりたくない。

「……殿下。フィレンティア皇女殿下!」

 名前を呼ばれて、セリアの方を向く。いつの間にか、私の真っ正面に移動していた。

「答えたくないのなら、構いません。ただ……フィレンティア皇女殿下が、お声を出されるのを初めて聞いたものですから……」

 だって、話せないもの。話し方なんて、忘れてしまった。普通の子供は、言葉を聞けば、自然とその言葉を話すようになるという。だから、私も罵る声は聞こえたから、話すことはできた。

 でも、私が何か話すと、ルメリナは顔を歪める。だから、話さなくなった。多分、嫌われたくはなかったから。

 でも、それが嫌だった。そして、耐えられないと感じた。だから、感情を失くそう、話さないようにしようと考えたんだと思う。声は簡単に失えた。でも、感情は簡単にはいかない。痛みとか、体に直接何かを感じると、顔が歪んで、涙も出る。

 なら、全部失くせばいい。ご飯がまずいと感じるなら、味覚を失くせばいい。痛いと感じるなら、痛覚を失くせばいい。熱いと感じるなら、温度も感じれないようにすればいい。

 全部全部全部……失くなればいい。そう思ったら、全部失くなった。痛みも、辛さも、苦しさも……何も、感じなくなった。すべて……どうでもよくなった。


「あっ、そうです!フィレンティア皇女殿下、明日は、皇族専属の治癒術を使う者が来るそうですよ」

 ふぅん。どうでもいいや。誰が何人来ようと、どんな目的で来ようがどうでもいい。観察だろうと、邪魔だと処分に来ようとも、どうでもいい。
 私は、抵抗しないから。好きしてくれればいい。

「ほら、そのためにも、もう休みましょう」

「ほらほら」と言って、私に布団をかけてきた。休めと言われたから、休まないと。眠ればいいんだよね?

 それにしても……と自分の手に握られているものを見る。この服は、持ち主に返さないといけないんじゃないの?と思いながらも、まぁいっかと思って眠りについた。
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