冷宮の人形姫

りーさん

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第一章 虐げられた姫

第16話 治療と付与

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「フィレンティア皇女殿下が自分の魔法で人形姫になったと言うのですか?」
「全部がそうだというわけじゃないけど、主な原因はそうじゃないかな」

 さすがは悪妃の娘なだけはある。魔法が不安定な状態だから、多分無意識で発動している。不安定な状態とはいえ、無意識に魔法を発動させるのは、相当に強い魔力がないとまず不可能だ。あの結界内ならなおさら。魔法が不安定になるのは、まだ形としてできていないということ。

 魔法は、大抵が自分の意志で、目的をもって発動するから、大抵のものは安定しているけど、たまに不安定な状態のものもある。それは、目的もなくただ使ってみたいという思いで発動したものか、無意識に発動したせいで、安定させられないかの二つ。皇女は多分後者だろう。

 どちらにしろ、魔法なら皇宮医は専門外だろうし、帰ってもらった方がいいかも。

「メルビアさん……だったけ?専門外になるから、帰っていいんじゃない?」
「……あなたを残していくのは、少し不安なのですが……分かりました」

 そう言って去った。うん、一言余計だよ。まぁ、僕自身もあまり嬉しくはないけど。自分みたいな奴に治療されるのは。

「なら性格改善すればいいのでは?」
「そういう僕を見たいならやるけど?」

 そう言ったら、だんだんと顔が歪んできた。ボソッと、「それはそれで気持ち悪いわね」と言われた。

 君ももう少し可愛い性格ならいいのに。まぁ、こういう関係は気を張らないでいいから楽だけど。

「魔法を解除できないのですか?」

 話題を変えてきたね。

「不安定な状態だから無理だよ。無理に解いてしまえば、魔法の反動が来るから、皇女様は本当に壊れるよ?」

 魔法が安定していれば、解除はたやすい。形が変わらないからだ。だが、不安定な状態だと、形を変える。さっき、少しだけ流れてから弾かれたのもそれが理由。

 中級魔法以上には、見えていなくても術式があり、術式によって、通す魔力の属性、通す量などすべて違う。その術式が魔法の形を作っているので、形が分かれば、解除することができる。でも、不安定な状態だと、形を変えてしまうため、秒単位で解除の方法が変わってしまうことになる。

 正しいやり方でやらなければ、反動が大きくなり、より強い魔法で自身に帰ることになる。僕としては、そうなっても別にどうでもいいけど、そんなことをしたら、あのおっかないはとこに殺されそうなので、無理矢理解くのはしない。

「おっかないが余計な気がしますが、解けないのならどうするのですか?」
「弱めるだけならできないこともない」

 解除するには、術式を解く必要があるが、効力を弱めるなら、新たに付与するだけなので、不安定な状態でも可能。

 まぁ、魔法は精神状態と比例するから、気休めにしかならないかもしれないけど。

「気休めでも構いません。やってください」

 ……うん。気にしないようにしてみたけど、やっぱり無理だ。本当は全部声に出ていたんじゃないかと思ってしまうくらいに心が読まれている。

「な~んで僕の考えてることが分かるかなぁ……あまり読まないんでほしいんだけど……」
「あなたのような単純な方の思考はすぐに分かります。私も読みたくて読んでいるわけではありません」

 ……バカって言われた気がするのは、僕の考えすぎかな?一応、魔法の知識では負けてないはずなんだけど?名ばかりみたいになってるとはいえ、僕は皇族専属だからね。

 実力以外にも、ある程度知識がないとなれないんだよ、皇族専属って。“影”になって長いくせに変なところでうろうろしているハリナの方が……と思わず考えてしまい、真横からナイフが飛んできた。ナイフは皇女の前を通って壁に刺さる。

「余計なお世話です。速くやりなさい」

 ちょっと?場所によっては、皇女に当たってたよ?君の行いの方がまずいんじゃない?まぁ、当たったところで、ピクリとも表情を変えないんだろうけど。

 事実、目の前をナイフが横切ったのに、見えてすらいなかったかのように、ボーッと座っている。認識阻害のせいで、ナイフすら認識できなかったのか?

「やるけど、応急措置にもならないと思うよ。皇女様がまた強めてしまったら意味ないからね」

 もともと、皇女が自分でかけている魔法は、結構強い。冷宮で、具体的に何があったのかは知らないけど、精神的に参ったんだろうなぁ……

 弱体化を付与するついでに、魔法の傷も治しておくか。目立つ外傷は全部治しておけばいいけど……問題は臓器だな。毒でも飲んだのか、妙に傷ついているのもチラホラ確認できる。

 でも、毒を飲んでいたとして、誰が持ち込んだ?皇宮内は、どこでも毒の持ち込みは許可がない限り禁止されている。当たり前といったら当たり前だけど。だけど、あそこも冷宮とはいえ皇宮内だ。放置されていたとはいえ、そもそも皇宮に簡単には入れないはずなんだが……

 もちろんで、ルメリナは外出は禁止されていたから、自分で手に入れるのは不可能だ。

 それに、皇女に毒を飲ませて得する奴なんているのか?他の皇女達ならあるかもしれない。でも、忘れ去られたも同然の皇女に、危険を犯してまで毒を持ち込む必要があるのか?

「ありませんね。可能性があるとすれば、ルメリナ皇妃の実家ですが……彼らの手の者は、立ち入りは禁じられていますし……」
「だからさ、さらっと心を読まないでくれないかな?」
「何の話をしているのですか?」

 ハリナが僕の心を読んで勝手に答えたので、セリアが話についてこれていない。ハリナが簡単に説明している。君にだけ聞こえるように話していたのというくらいに正確に話している。

「それで、フィレンティア皇女殿下が毒を……?」
「いや、分からない。分かっているのは、臓器が傷ついているということだけ。毒かもしれないし、強い魔力が暴走したのかもしれないし、両方かもしれない。可能性はいくつかあるけど、断定はできない」

 毒ならいい。でも、魔力の暴走だったら厄介だ。治してもまた傷つく可能性がある。下手すれば、治しては傷つき、治しては傷つきの無限ループになってしまう。それは、皇女に負担がかかるし、何より、そのたびに治さないといけないのは、ものすごく面倒くさい。

「まぁ、治してはおくよ。でも、毒であろうと、魔力の暴走であろうと、陛下に報告しないといけないのは事実だ」

 あぁ~……本当に、めんどくさい!ぱぱっと治して帰るつもりだったのに、次から次へと用事が増えてくる。

 ひとまず、外傷も臓器の傷も治して、魔法の弱体化もしておいた。これで、ちょっとはマシになるといいけど。効果がなくなってたら、またやらされるかなぁ……めんどくさい。

「終わったのでしたら、話し合いをしましょうか。先ほどからフィレンティア皇女殿下にめんどくさいなどと考えているようなあなたは、マナーを叩き込むだけでは足りませんね。セリア、後は任せたわ」

 そう言いながら、襟を掴んで僕を引きずり始めた。そういえば、マナーを叩き込むとか話し合いがどうとか言ってたな。はぁ……今回はいつになったら終わるんだろうなぁ。ハリナの説教は長いんだよ。セリアはセリアで「かしこまりました」って言って助けようとはしてくれないし。

「ついでに、その壁のものも頼むわ」
「もうやらないでくださいね?」
「こいつが失礼なことをしなければやらないわ」

 失礼なことをしては・・・いないだろ。考えてた・・・・だけで。まぁ、こいつからしたらたいして違いはないとか言いそうだけど。

「私はしばらく戻らないから、今日一日はフィレンティア皇女殿下のことも頼んだわよ」
「はい。一日くらい私一人でも大丈夫ですよ」

 一日……?終わるまで、後半日はあるよ?というか、午後にもなっていないと思うんだけど。こいつの説教以外は、陛下に報告するだけだから……こいつ、半日くらい説教するつもりなの?さすがの僕も聞き流せな──

「聞き流す?」

 あっ、ヤバい。

「では、多少聞き流しても問題のないようにお話ししましょう。長くなりますが・・・・・・・構いませんね?」
「はーい……」

 こんなやりとりしてるから、姉と弟みたいに見られるのかなぁと考えながら、僕は引きずられて部屋の外に出た。
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