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第一章 虐げられた姫
第25話 第五皇子との出会い
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「それから十数年ほど会いませんでした。あの後どうなったのかは私は知りません。後は奴に聞くしかないと思います」
その人とルメリナは似ている気がする。親戚……だったりして。そして、ハリナが話したがらなかったのもなんとなく分かった。その公爵夫人とルメリナが似ているから、私が怖がるようなことをしないかと思ったんだろう。
最初は怖かったけど、今はどうでもいい存在になっている。ときどきうなされたりもしているらしいけど、どちらかと言えば、使用人の方に怯えていた覚えがある。ルメリナに会うよりも、使用人に会う方が怖かった。
今は……どこにいるんだろう。会いたくはないけど、死んでいろとも思わない。一緒に過ごしたから、情が移ったとかそういうわけではない。でも、どうでもいいと思っているわけではない。なぜなのかは分からないけど、死んでいろとは思えない。
「でも、今はフェレス様が当主でしたよね?」
そうなんだ。じゃあ、腹違いの妹はどうなったんだろう。どこかに嫁いだのかな?
「ええ、あいついわく、前公爵夫人は今隠居中らしいわよ?まぁ、ただの隠居ではないだろうけど」
ただの隠居ではないってどういう意味だろうか。
「あぁ……そうでしょうね」
セリアが納得したようにそう言った。分かってない私がおかしいの?セリアの反応が普通なの?
弱体化しているとはいえ、まだ私に“理解”は難しいんだろうか。多分、今も自分の意思で感情を出すのは無理だと思う。
皇族なら、できないといけないだろうに。感情を出すことにまだ恐怖感があって。無意識になら大丈夫。でも、意識してしまったら、感情も感覚もすべて奥に引っ込んでしまう。
魔法を壊せばいいのかな。でも、前にそうしようとしたら、倒れてしまった。なんでだろう。やり方を間違えたのかな。
「でも、確かに今よりは仲がよく見えるわね」
「あいつ、多分気にしてるのよ。私を巻き込んだって。だから私を苛立たせるような態度をとるんでしょうね。私がくっつかないように」
「分かっていてなぜ離れないのよ?」
「素直に離れたら、何か負けた気がするし、私まで見放したら、あいつを孤独にしてしまいそうだし」
その言い方はまるで、弟みたいに思っているように見えた。
「……やっぱり仲がいいじゃない。まぁ、あなたの言動もちょっと問題があるけど」
「いやね。頭では分かってるのよ。本心じゃないだろうってことは。でもね、むかつくのよ!だからね、私も対抗してやろうかと……」
「あなたの方がひどいんじゃない?」
「そうかしら?」
セリアとの扱いに差はあると思う。でも、それは本心から言っているような感じではないし、冗談の域を超えてるかもしれないけど、本人も本心から嫌がっている感じはない。
昔からそういう扱いだったからなのかもしれないけど。そう思いたいだけなのかもしれないけど。
「フェース、会う。らめ?」
あまり話さなかったせいか、どうにも片言になる。うまく文にして話すことができない。
「いけないことはないですが……」
「……?」
なんで言葉を濁しているんだろう。
「あの人、自分の時間に邪魔が入るのは嫌うんですよ。無礼なことはさせませんが、無意識にやりかねませんので……」
変に気を遣われるよりは、あんな感じの方が私は気楽。ハリナとセリアの接し方が嫌というわけではないけど、少し“堅苦しさ”というものは感じてしまう。私が孤児として育ったからかもしれないけど。
「らいじょーぶ」
「皇女殿下がそうおっしゃられるなら、私は構いませんが……」
「……仕方ありませんね。奴は第五皇子殿下のところから帰っているところでしょうし、捕らえましょうか」
わざわざ捕まえなくてもいいのに……
その言葉は、口には出せなかった。
部屋から出て、フェレスのところに向かう。セリアとハリナは私の歩きに合わせてくれている。セリアは分からないけど、ハリナは私よりもずっと速いはずなのに。
そういえば、私は声は取り戻したけど、感覚や感情はどうなんだろう。無意識なら感じても、意識したら引っ込んでしまうのは、取り戻したとは言えないんじゃないだろうか。
もし、また魔法が強くなったら──また話せなくなって、人形になるのかもしれない。でも、それを……嫌だとは思わない自分がいる。人形でいるのは辛いとは思わない、むしろ、楽だと思っている。だから……魔法を壊すことができないのかもしれない。
私が、魔法はいらないと思えないと、きっと解けない。壊せない。
ずっと考え事をしていて、前から人が来ているのに気づかず、ぶつかってしまった。横からぶつかったから、多分角でぶつかったんだろう。後ろに転んだけど、あまり痛いとは思わなかった。
「あっ、ごめん!大丈夫?」
伸ばされた手を握って立ち上がると、そこには私よりも何歳か年上であろう子がいた。
……多分、初めましてだよね?
「金髪にマゼンタ……君がフィレンティア?」
その質問にうなずいて答えると、「やっぱり!」と言ってきた。
「僕は、ローランド。ローランド・ヤルト・アベリニア。この国の第五皇子だよ」
その人とルメリナは似ている気がする。親戚……だったりして。そして、ハリナが話したがらなかったのもなんとなく分かった。その公爵夫人とルメリナが似ているから、私が怖がるようなことをしないかと思ったんだろう。
最初は怖かったけど、今はどうでもいい存在になっている。ときどきうなされたりもしているらしいけど、どちらかと言えば、使用人の方に怯えていた覚えがある。ルメリナに会うよりも、使用人に会う方が怖かった。
今は……どこにいるんだろう。会いたくはないけど、死んでいろとも思わない。一緒に過ごしたから、情が移ったとかそういうわけではない。でも、どうでもいいと思っているわけではない。なぜなのかは分からないけど、死んでいろとは思えない。
「でも、今はフェレス様が当主でしたよね?」
そうなんだ。じゃあ、腹違いの妹はどうなったんだろう。どこかに嫁いだのかな?
「ええ、あいついわく、前公爵夫人は今隠居中らしいわよ?まぁ、ただの隠居ではないだろうけど」
ただの隠居ではないってどういう意味だろうか。
「あぁ……そうでしょうね」
セリアが納得したようにそう言った。分かってない私がおかしいの?セリアの反応が普通なの?
弱体化しているとはいえ、まだ私に“理解”は難しいんだろうか。多分、今も自分の意思で感情を出すのは無理だと思う。
皇族なら、できないといけないだろうに。感情を出すことにまだ恐怖感があって。無意識になら大丈夫。でも、意識してしまったら、感情も感覚もすべて奥に引っ込んでしまう。
魔法を壊せばいいのかな。でも、前にそうしようとしたら、倒れてしまった。なんでだろう。やり方を間違えたのかな。
「でも、確かに今よりは仲がよく見えるわね」
「あいつ、多分気にしてるのよ。私を巻き込んだって。だから私を苛立たせるような態度をとるんでしょうね。私がくっつかないように」
「分かっていてなぜ離れないのよ?」
「素直に離れたら、何か負けた気がするし、私まで見放したら、あいつを孤独にしてしまいそうだし」
その言い方はまるで、弟みたいに思っているように見えた。
「……やっぱり仲がいいじゃない。まぁ、あなたの言動もちょっと問題があるけど」
「いやね。頭では分かってるのよ。本心じゃないだろうってことは。でもね、むかつくのよ!だからね、私も対抗してやろうかと……」
「あなたの方がひどいんじゃない?」
「そうかしら?」
セリアとの扱いに差はあると思う。でも、それは本心から言っているような感じではないし、冗談の域を超えてるかもしれないけど、本人も本心から嫌がっている感じはない。
昔からそういう扱いだったからなのかもしれないけど。そう思いたいだけなのかもしれないけど。
「フェース、会う。らめ?」
あまり話さなかったせいか、どうにも片言になる。うまく文にして話すことができない。
「いけないことはないですが……」
「……?」
なんで言葉を濁しているんだろう。
「あの人、自分の時間に邪魔が入るのは嫌うんですよ。無礼なことはさせませんが、無意識にやりかねませんので……」
変に気を遣われるよりは、あんな感じの方が私は気楽。ハリナとセリアの接し方が嫌というわけではないけど、少し“堅苦しさ”というものは感じてしまう。私が孤児として育ったからかもしれないけど。
「らいじょーぶ」
「皇女殿下がそうおっしゃられるなら、私は構いませんが……」
「……仕方ありませんね。奴は第五皇子殿下のところから帰っているところでしょうし、捕らえましょうか」
わざわざ捕まえなくてもいいのに……
その言葉は、口には出せなかった。
部屋から出て、フェレスのところに向かう。セリアとハリナは私の歩きに合わせてくれている。セリアは分からないけど、ハリナは私よりもずっと速いはずなのに。
そういえば、私は声は取り戻したけど、感覚や感情はどうなんだろう。無意識なら感じても、意識したら引っ込んでしまうのは、取り戻したとは言えないんじゃないだろうか。
もし、また魔法が強くなったら──また話せなくなって、人形になるのかもしれない。でも、それを……嫌だとは思わない自分がいる。人形でいるのは辛いとは思わない、むしろ、楽だと思っている。だから……魔法を壊すことができないのかもしれない。
私が、魔法はいらないと思えないと、きっと解けない。壊せない。
ずっと考え事をしていて、前から人が来ているのに気づかず、ぶつかってしまった。横からぶつかったから、多分角でぶつかったんだろう。後ろに転んだけど、あまり痛いとは思わなかった。
「あっ、ごめん!大丈夫?」
伸ばされた手を握って立ち上がると、そこには私よりも何歳か年上であろう子がいた。
……多分、初めましてだよね?
「金髪にマゼンタ……君がフィレンティア?」
その質問にうなずいて答えると、「やっぱり!」と言ってきた。
「僕は、ローランド。ローランド・ヤルト・アベリニア。この国の第五皇子だよ」
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