冷宮の人形姫

りーさん

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第一章 虐げられた姫

第32話 決着

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「陛下。お越しいただき感謝いたします」

 白々しくルメリナの父親が出迎える。意識を乗っ取られないように、フェレスからもらった魔力強化と精神魔法を弾く魔法を込めた腕輪をはめている。

 確か、母親はすでに亡くなっているんだったな。

 侯爵は私達を客室に迎え入れた。

「本日は何のご用でございましょうか?」
「来た理由は知っているだろう?お前の孫に当たる、フィレンティアのことだ」

 そう言うと、侯爵の顔は一瞬強ばった。本当に瞬きほどの短さ。

「……もう少し詳しくお願いできますか」
「とぼける気か?お前の手の者を冷宮に送り、フィレンティアに危害を加えただろう」
「そんなまさか……皇族に危害を加えるような真似はいたしません」

 素直に認めるわけはないか。

「フィレンティアには虐待という言葉では片づけられないような状態だった。刃物の後もあったしな。娘がやったことは重罪だ」
「確かに、そうでしょう。ですが、やったのは私の娘と使用人です。家としての責任はとるべきかもしれませんが、私のやるべきはそこまででしょう」

 逃げるのはうまい奴だ。そして、愚か者。繋がっているという証拠がなければ、自分は処分できないと思っている。まだ契り・・が生きていると本気で思っているようだ。

 そして、口を滑らしているのに気づいていない。

「私はフィレンティアが虐待を受けていることと、それはルメリナがやった・・・・・・・・ということしか言っていない。なぜ使用人もやっていた・・・・・・・・・ということを知っている?」
「……!」

 そう突きつけると、さすがに動揺を示した。

 今までの会話で一度も“使用人”という言葉を使っていない。そして、一般的な考えでは、使用人は下々の者と見ている者が多い。この侯爵もそうだ。
 
 そして、下の者が上の者に危害を加えるのは、考えられないことと言われている。まず、使用人は大抵、自分の派閥の娘か、自分の領内の者を雇うのが一般的。そのため、敵はほとんどいないも同然だ。そのため、貴族が皇族にというのはもちろんのこと、使用人が仕えている者に危害を加えるのはまずあり得ないと。皇族ともなればなおさらだ。貴族なら、ただ投獄されるだけですむだろうが、皇族の場合は死刑もあり得る。……なかには自分達で処分するのもいるだろうが。

「……ルメリナは刃物を嫌っておりますから。刃物の痕が残っているのなら、ルメリナ以外だと思っただけです」
「……下手な言い訳は見苦しいだけだ。私がやろうと思えば、適当に罪をでっちあげてお前を裁くことも可能だ。そう言ってもまだ認めないか?」
「陛下といえど、それは暴政でございます!何の証拠もないのに……!」
「私が一度ルメリナの精神魔法にかかったのは知ってるか」

 急に話題を変えた私に侯爵は驚きを隠せないでいる。だが、絞り出すように、「い、いえ……」と言った。

「あれはフェレスに解いてもらった。その意味が分からないほど愚か者ではあるまい」
「……!」

 ここまで言ったら感づいたようだった。

「使用人を視てもらえばすぐに分かる。精神魔法は痕が残るそうだからな。そして、魔力の質は、血縁関係が近いほど似る傾向にあるそうだ。時間はかかるかもしれないが、確実に分かるだろう」

 もう言葉も出なくなっているようだった。だが、ここで止めるほど私も優しくはない。

「私にたいしてならまだ見逃せた。私が問題にしなければいいだけだからな。それに、精神魔法によりやらされたのは子作りだけだった。だが、まだ幼い皇女の体に傷をつけ、あまつさえ殺害しようとしたなら見逃すわけにはいかない」
「お、お待ちください!殺しは知りません!確かに、使用人を精神魔法で操ったのは事実です!ですが、私がやらせたのは、皇女の監視と魔力の強さを測らせることだけです。ルメリナに子を作るように指示したのも私です。強い子供が欲しかったので……そんなに欲しがった子供を殺害などいたしません!」

 急にそのようなことを早口で言い出した。取り繕っているかと思ったが、妙に真剣だった。

「そうか。なら、殺害については洗い直そう。だが、魔力の強さを測ろうとしたがゆえに、彼女を人形姫にしたのか?」
「そこまでするつもりはありませんでしたがね。人間は追い詰められるほど、真の強さというものを発揮する生き物ですから。てっきり、攻撃魔法でも使ってくれるかと思いましたが、まさか人形になるとは思えませんでした」

 ヘラヘラしながらそのようなことを言った。もう怒る気もしなかった。

「間接的でも危害を加えたことになる。協力者ではなく、指示をしたなら首謀者だ。牢送りになるのは分かるな」
「……本当にそんなことができると?」
「どうやら侯爵は勘違いをしているようだな。契りならとっくに切れている」
「何!?」

 正確には、皇宮を出る前のことだが。皇室とスピライト侯爵家は、数代前に契りを結んでいる。当時の皇帝が、彼らの精神魔法と強い魔力を恐れたが、失くすのも惜しいと考えた結果、ある程度の自由を許す変わりに、自国を出るのを禁止した。旅行で行くのも禁じ、商売で行くのも許さなかった。もちろん、嫁ぐことも。嫁いだ者が生んだ子が他国に行くのも。

 そしてさらに、領地も持たせていない。間接的な反逆を防ぐためだ。そして、私兵を持つのも許していない。決まった金額以上の金を持つことも。さらに、その魔力で皇族に傷をつけるのも。

 そして自由は、普通の貴族として生活できるくらいの援助。さらに、魔法の行使。愚かな皇帝は、魔法の対象に皇族を除くのを忘れていた。そして、下の代まで続いていく契りを当時の皇帝とスピライト侯爵家当主が結んでいた。

 契りは、最も重い契約だ。違えれば命を落とす。だが、解く方法がないわけではない。

「侯爵は知らなかったようだな。確かに、契りによって死ぬのは結ばれている本人だけだ。だが、血縁者も・・・・対象なんだ。お前の娘は私の娘に何をしたか分かるか?」
「確かに虐待をしたかもしれません。ですが、禁止されているのは魔法による・・・・・攻撃の禁止ですよ」
「彼女が魔法でフィレンティアに危害を加えていたとしたら……どうだ?」
「そんな……まさか──」

 さすがに理解したようだ。娘が自分の首をしめたことを。

「そのときだ。私とお前の間に結ばれている契りがなくなったのは。最も、なくなったことすら、魔法による切り傷があり、それをやったのがルメリナだという報告を受けるまで分からなかったがな」

 契りは、たとえなくなっても自分ではそれが分からない。あったとしても分からないが。私も、帝位を継承する前に父に聞いて知っただけで、帝位についたときに縛られているという感覚はなかった。

「レクト。奴を地下牢に放り込んでおけ。後始末はお前に任せる」
「……はい、陛下」

 一瞬、嫌そうな顔をしていたな。これか?レクトが言っている振り回しているというのは。皇帝としておかしくないことだと思うんだが……

 やっと皇宮に帰れるな。会ったら軽蔑されたり、もう顔すら忘れられていそうだが、私の家族は今ごろどうしているだろうか。
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