冷宮の人形姫

りーさん

文字の大きさ
33 / 75
第一章 虐げられた姫

第33話 皇族の瞳

しおりを挟む
 ルメリナのことがある程度は片づき、魔道具を返すためにフェレスのところに寄った。

「フェレス。借り物を返しに来た」
「それが夜中じゃなかったらよかったんだけどなぁ……」
「昼間に行っても寝てる奴が何を言う」

 留守にしていた間の急ぎの業務を片づけたら夜中になっていただけなんだがな。こいつは仕事を与えない限り寝ているから、睡眠時間という点では一般人よりも長いはずだから、夜中に起こしても問題はない。

「眠いんだから仕方ないでしょ。それで、全部片づけたの?」
「いや、一つ問題が残ってはいるな」
「へぇ~、何なの?」
「一応、軽く調べてはみたが、侯爵がフィレンティアを殺害しようとした、またはその指示をしたという裏は取れなかった」

 半信半疑で調べてみたが、殺害を命じられたという使用人も、侯爵のことは知らなかったと言っている。嘘の可能性もあるが、それならそもそも皇女殺害を自白しないはずだ。

「本人に聞いてみれば?」
「本人……?」
「あぁ、カイルは知らないのか。フィレンティア皇女様、もう話せるみたいだぞ。まだ片言で口足らずだけどな」

 私がいない間にそんなことになっていたのか。

「話せるようになったのは喜ばしいことだろうが、話を聞くにはまだ早いな」
「どうして?」
「お前は過去のことを聞かれたらどうする?」
「とりあえずそいつを始末するかな」

 変なところでハリナに似ている奴だ。はとこだからか?あいつは自分の過去を聞かれると話す場合もあるが、大抵が「あなたに関係がありますか?」と冷たくする。

 だが、自分がむかついたら攻撃的になるのは同じだ。ハリナが攻撃的になるのはフェレスにたいしてくらいだが。

「お前でもそう思うだろ。だから、聞かない方がいい」

 私は、父親に愛情を向けられなかっただけだ。邪険に扱われたりはしなかった。だが、彼女は邪険に扱われるどころか、虐待……いや、それ以上の扱いを受けていた。それを掘り返すのはよくない。もうただの過去として片づけられるようになってからにするべきだ。

 そう思っての発言だったが、フェレスは何かおかしなものでも見るような目で見ている。

「……なんだ」
「君、本当にあのカイルなの?それとも僕が寝ぼけてるのか……?」
「どういう意味だ」
「お前が人を気遣うなんてするわけないだろ!本物のカイルはどこだ!あの冷血漢は!」
「お前が私をどんな目で見ていたのかはよく分かった」

 だが、間違っているとも言えない。確かに、人の暮らしを考えたりはしていたが、気遣うことはあまりしなかった。だから、妃達に父親失格だとか言われるんだろうが……

 父親とまともに接した記憶がないので、どうすればいいのかよく分からない。私からしてみれば、妃達の求める基準が高いように感じる。あれが普通だと言われてしまえばそうなのかもしれないが……

「あっ、そうだ。皇女様のことで伝えたいことがあってさ」
「なんだ?」
「“光”を見てるんだ。君も確か見えるよね?」
「あくまでボヤけて見えるだけだ。お前みたいにはっきり見えるわけではない」

 皇族にだけ受け継がれる魔眼と呼ばれる瞳がある。魔力に色があるように見える瞳。魔力が強くないと見ることはできない。魔眼の力が強ければ強いほど、光もはっきりと見え、微細な量の魔力でも見ることができる。

 私が見えるのは強い魔力を持つ精霊や妖精くらいだが。それも、ボヤけたように。

「魔力が強い奴ほど見えるからね。今まで見えたことがなかったのがちょっと気になるけど……」
「シトリン宮に移ってから今までか?」

 普通なら、目が見えるようになってから、強い魔力は意識しなくても見えるようになるはずだが……むしろ、意識したら見えにくくなる。

「……認識阻害か」

 納得したようにそんなことを呟いた。

「認識阻害?」
「あぁ、言ってなかったか。皇女様が人形姫になったのはね、自分の魔法のせいなんだ。不安定な状態で発動したから、解除もできずに弱体化をかけたんだ」

 フィレンティアも冷宮で魔法が使えるほど魔力が強かったのか。そして、そんなことをするほど追い込んでいた。

「そのあとまた強くなったりとかしたけど、もう一回かけて、そのときに目を強化したんだよな。だから、もしかしたらその残滓的な感じかもしれない」
「なら、はっきりと見えないか、あまり長く見えないかのどちらかか」
「僕はそれくらいの方がいいけどね。魔眼を使おうとすると、瞳の色が赤に変わるからさ。嫌なんだよ、カイルと同じだから」
「どういう意味だ」
「だって、僕もお前みたいな冷血漢になりそうだから」
「お前も充分冷血漢だろ」

 自分のことだけを考えて、他人が何をしていようと、何を考えていようと自分に関係がないならどうでもいいという奴だ。

「僕は自分がやりたいことをやっているだけだから」
「その割には、フィレンティアのことを気にかけているな」
「僕と似ているから、放っておけないだけだよ」

 自分と重なって見えるからということか。それなら気にかけてもおかしくはないな。

「皇女の宮に行くか」
「今からか?」
「いや、明日からだ。フィレンティアに会うという意味もあるが、そろそろ返してもらわねば」

 あそこで掴まれてからずっとフィレンティアのところに私の上着があるはずだからな。あの二人が気を遣って届けてくれたかもしれないが。

「それに……」
「それに?」
「娘を訪ねるのに理由はいらないだろう?」

 わざわざ理由がないと訪ねてはいけないわけではない。一応、連絡はいれてからにするが。

 フェレスは、なぜか驚いて固まっている。

「やっぱりお前カイルじゃないだろ!」
「確かに。私はカイルではなくカイラードだからな」
「そういうことじゃない!」

 他にも何か言っていたが、全て無視してフェレスの部屋を出た。
しおりを挟む
感想 154

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...