43 / 75
第一章 虐げられた姫
第43話 狙われた兄
しおりを挟む
「もうちょっと向こうまで行こうか」
私が目覚めたときからもう一週間以上が経った。
私はまだ話すことはできない。今はローランド兄様と散歩している。少し離れた位置には、ハリナがいる。
「ティアはどこに行きたい?」
「……」
たとえ行きたいところがあったとしても、話せない。感情とかもまだうまく外には出せないし。
「ティアが行ってないところに行きたいよね~」
どうせ勝手に決めるだろうから、私は周りの景色を見ることにした。光が見える。いろんな色の光が。でも、すぐに消えてしまう。
見られるのを嫌うのは本当みたい。近づいてくるのは、頼られているということだけど、もう近づいてくることがない。
他には、草木が生い茂っているくらい。花もところどころに咲いてはいる。
────誰かいる?
黒いのが人の形をしているように見える。いつもはもう少し大きさが小さいし、色が濃いし、丸かった。それに、私がそれに気づいたらすぐに消えていた。
でも、今見えているのは、人の形をしていて、大きくて、色も薄くて、全然消えない。あれは精霊とかの類いではないのかも。
人だけじゃない。何か持っているようにも見える。
そしたら、その一部が塊から飛び出すように近づいてきた。速いんだろうけど、それがスローモーションのように映っている。
当たったら、普通は痛いんだよね?
それは、ローランド兄様の方に向かっていたので、私の方に引き寄せた。
「わっ!」
ローランド兄様は倒れて、その頬を掠めるように何かが通って地面に刺さった。
これ……矢だ。兄様が狙われたのかな。
「痛っ……ティア、大丈夫?」
心配するのは自分の方じゃないの?
「皇女殿下、皇子殿下、お下がりを」
ハリナは、ナイフをあの人の形をした黒い光に投げつける。そしたら、黒い光はどこかに消えていった。
「申し訳ありません。気づくのが遅れまして……」
「いや、大丈夫だよ。こっちが油断してたのもあるし」
ハリナはローランドの怪我を魔法で治しながら謝っている。
「魔法で姿を隠してたみたいだね。ティア、よく気づいたね」
「おそらくですが、魔力の光が見えたのではないですか?」
ハリナの言葉にうなずいた。言われてそうだと思ったから。あれは魔力の光だ。普段見ているものとは形が違ったからすぐには分からなかったけど。
「奴にもらったのはうっすらと見える程度だから、あれは見えなかったのよね……もうちょっと強いのをくれてもいいのに」
「お師匠様から何かもらったの!?」
「魔眼と同じような効果があるという魔道具です。精霊の光がボヤけて見える程度ですけどね」
「あぁ、僕に預けてたやつね。そんな効果があったんだ」
もう狙われたことは過去のことのようになって、魔道具の話になった。
このまま外にいるのは危険だということで、私は部屋に戻ることになった。と言っても、シトリン宮じゃない。一人だと危ないからと言って、兄様のサファイア宮に行くことに。
「しばらくはなかったから大丈夫だと思ったけど……」
狙われたことにはあまり驚いていないみたい。これが普通だったのかな。
「ティアは今のところ大丈夫みたいだけどなぁ……ティアが狙われるのも時間の問題だよね……」
何か考え込んでいるみたい。私も矢で狙われるということ?でも、また前みたいに痛みは全然感じなくなっているみたいだし、刺さったとしても大丈夫だと思うけど。
「ティーア!別に大丈夫とか思ってないよね?ティアは大丈夫でも、僕らが大丈夫じゃないんだから」
「…………」
「いよいよここまで入り込んでいるとなると、フェル兄様とトリー姉様に言った方がいいかもね」
フェル兄様って誰なんだろう。トリー姉様は名前は聞いたことあるんだけど……
「トリー姉様は婚約者と交流していたはずだし、フェル兄様のところに行こうか」
ハリナに連絡を入れてくれるように頼んだら、私を抱えた。宮の外に出ると、浮かび上がった。
「今度は気をつけるから大丈夫だよ」
そして、結構な速さを出して、飛んでいく。あまり風はこちらに来なかった。どういう仕組みなんだろう。辺りを見ても、黒い光のようなものは見えない。今回は大丈夫かなと思っていたら、奥の方で光った。
ローランド兄様の服を引っ張る。兄様がこっちを見たのを確認して、光がある方を指差した。
「あっちね。分かった」
兄様は私が指した方を気にしながら飛んでいる。そして、また何か飛んできたけど、今度はそれに当たることはなかった。逆に、兄様が飛んできた方に魔法を放った。それは命中したように思える。そのまま、光が地面の方に落ちていった。
「あれは回収を命じておくから。ありがとね、教えてくれて」
そう言って笑った兄様の顔を見ることができなかった。
私が目覚めたときからもう一週間以上が経った。
私はまだ話すことはできない。今はローランド兄様と散歩している。少し離れた位置には、ハリナがいる。
「ティアはどこに行きたい?」
「……」
たとえ行きたいところがあったとしても、話せない。感情とかもまだうまく外には出せないし。
「ティアが行ってないところに行きたいよね~」
どうせ勝手に決めるだろうから、私は周りの景色を見ることにした。光が見える。いろんな色の光が。でも、すぐに消えてしまう。
見られるのを嫌うのは本当みたい。近づいてくるのは、頼られているということだけど、もう近づいてくることがない。
他には、草木が生い茂っているくらい。花もところどころに咲いてはいる。
────誰かいる?
黒いのが人の形をしているように見える。いつもはもう少し大きさが小さいし、色が濃いし、丸かった。それに、私がそれに気づいたらすぐに消えていた。
でも、今見えているのは、人の形をしていて、大きくて、色も薄くて、全然消えない。あれは精霊とかの類いではないのかも。
人だけじゃない。何か持っているようにも見える。
そしたら、その一部が塊から飛び出すように近づいてきた。速いんだろうけど、それがスローモーションのように映っている。
当たったら、普通は痛いんだよね?
それは、ローランド兄様の方に向かっていたので、私の方に引き寄せた。
「わっ!」
ローランド兄様は倒れて、その頬を掠めるように何かが通って地面に刺さった。
これ……矢だ。兄様が狙われたのかな。
「痛っ……ティア、大丈夫?」
心配するのは自分の方じゃないの?
「皇女殿下、皇子殿下、お下がりを」
ハリナは、ナイフをあの人の形をした黒い光に投げつける。そしたら、黒い光はどこかに消えていった。
「申し訳ありません。気づくのが遅れまして……」
「いや、大丈夫だよ。こっちが油断してたのもあるし」
ハリナはローランドの怪我を魔法で治しながら謝っている。
「魔法で姿を隠してたみたいだね。ティア、よく気づいたね」
「おそらくですが、魔力の光が見えたのではないですか?」
ハリナの言葉にうなずいた。言われてそうだと思ったから。あれは魔力の光だ。普段見ているものとは形が違ったからすぐには分からなかったけど。
「奴にもらったのはうっすらと見える程度だから、あれは見えなかったのよね……もうちょっと強いのをくれてもいいのに」
「お師匠様から何かもらったの!?」
「魔眼と同じような効果があるという魔道具です。精霊の光がボヤけて見える程度ですけどね」
「あぁ、僕に預けてたやつね。そんな効果があったんだ」
もう狙われたことは過去のことのようになって、魔道具の話になった。
このまま外にいるのは危険だということで、私は部屋に戻ることになった。と言っても、シトリン宮じゃない。一人だと危ないからと言って、兄様のサファイア宮に行くことに。
「しばらくはなかったから大丈夫だと思ったけど……」
狙われたことにはあまり驚いていないみたい。これが普通だったのかな。
「ティアは今のところ大丈夫みたいだけどなぁ……ティアが狙われるのも時間の問題だよね……」
何か考え込んでいるみたい。私も矢で狙われるということ?でも、また前みたいに痛みは全然感じなくなっているみたいだし、刺さったとしても大丈夫だと思うけど。
「ティーア!別に大丈夫とか思ってないよね?ティアは大丈夫でも、僕らが大丈夫じゃないんだから」
「…………」
「いよいよここまで入り込んでいるとなると、フェル兄様とトリー姉様に言った方がいいかもね」
フェル兄様って誰なんだろう。トリー姉様は名前は聞いたことあるんだけど……
「トリー姉様は婚約者と交流していたはずだし、フェル兄様のところに行こうか」
ハリナに連絡を入れてくれるように頼んだら、私を抱えた。宮の外に出ると、浮かび上がった。
「今度は気をつけるから大丈夫だよ」
そして、結構な速さを出して、飛んでいく。あまり風はこちらに来なかった。どういう仕組みなんだろう。辺りを見ても、黒い光のようなものは見えない。今回は大丈夫かなと思っていたら、奥の方で光った。
ローランド兄様の服を引っ張る。兄様がこっちを見たのを確認して、光がある方を指差した。
「あっちね。分かった」
兄様は私が指した方を気にしながら飛んでいる。そして、また何か飛んできたけど、今度はそれに当たることはなかった。逆に、兄様が飛んできた方に魔法を放った。それは命中したように思える。そのまま、光が地面の方に落ちていった。
「あれは回収を命じておくから。ありがとね、教えてくれて」
そう言って笑った兄様の顔を見ることができなかった。
41
あなたにおすすめの小説
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる