冷宮の人形姫

りーさん

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第一章 虐げられた姫

第43話 狙われた兄

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「もうちょっと向こうまで行こうか」

 私が目覚めたときからもう一週間以上が経った。

 私はまだ話すことはできない。今はローランド兄様と散歩している。少し離れた位置には、ハリナがいる。

「ティアはどこに行きたい?」
「……」

 たとえ行きたいところがあったとしても、話せない。感情とかもまだうまく外には出せないし。

「ティアが行ってないところに行きたいよね~」

 どうせ勝手に決めるだろうから、私は周りの景色を見ることにした。光が見える。いろんな色の光が。でも、すぐに消えてしまう。

 見られるのを嫌うのは本当みたい。近づいてくるのは、頼られているということだけど、もう近づいてくることがない。

 他には、草木が生い茂っているくらい。花もところどころに咲いてはいる。

 ────誰かいる?

 黒いのが人の形をしているように見える。いつもはもう少し大きさが小さいし、色が濃いし、丸かった。それに、私がそれに気づいたらすぐに消えていた。

 でも、今見えているのは、人の形をしていて、大きくて、色も薄くて、全然消えない。あれは精霊とかの類いではないのかも。

 人だけじゃない。何か持っているようにも見える。

 そしたら、その一部が塊から飛び出すように近づいてきた。速いんだろうけど、それがスローモーションのように映っている。

 当たったら、普通は痛いんだよね?

 それは、ローランド兄様の方に向かっていたので、私の方に引き寄せた。

「わっ!」

 ローランド兄様は倒れて、その頬を掠めるように何かが通って地面に刺さった。

 これ……矢だ。兄様が狙われたのかな。

「痛っ……ティア、大丈夫?」

 心配するのは自分の方じゃないの?

「皇女殿下、皇子殿下、お下がりを」

 ハリナは、ナイフをあの人の形をした黒い光に投げつける。そしたら、黒い光はどこかに消えていった。

「申し訳ありません。気づくのが遅れまして……」
「いや、大丈夫だよ。こっちが油断してたのもあるし」

 ハリナはローランドの怪我を魔法で治しながら謝っている。

「魔法で姿を隠してたみたいだね。ティア、よく気づいたね」
「おそらくですが、魔力の光が見えたのではないですか?」

 ハリナの言葉にうなずいた。言われてそうだと思ったから。あれは魔力の光だ。普段見ているものとは形が違ったからすぐには分からなかったけど。

「奴にもらったのはうっすらと見える程度だから、あれは見えなかったのよね……もうちょっと強いのをくれてもいいのに」
「お師匠様から何かもらったの!?」
「魔眼と同じような効果があるという魔道具です。精霊の光がボヤけて見える程度ですけどね」
「あぁ、僕に預けてたやつね。そんな効果があったんだ」

 もう狙われたことは過去のことのようになって、魔道具の話になった。

 このまま外にいるのは危険だということで、私は部屋に戻ることになった。と言っても、シトリン宮じゃない。一人だと危ないからと言って、兄様のサファイア宮に行くことに。

「しばらくはなかったから大丈夫だと思ったけど……」

 狙われたことにはあまり驚いていないみたい。これが普通だったのかな。

「ティアは今のところ大丈夫みたいだけどなぁ……ティアが狙われるのも時間の問題だよね……」

 何か考え込んでいるみたい。私も矢で狙われるということ?でも、また前みたいに痛みは全然感じなくなっているみたいだし、刺さったとしても大丈夫だと思うけど。

「ティーア!別に大丈夫とか思ってないよね?ティアは大丈夫でも、僕らが大丈夫じゃないんだから」
「…………」
「いよいよここまで入り込んでいるとなると、フェル兄様とトリー姉様に言った方がいいかもね」

 フェル兄様って誰なんだろう。トリー姉様は名前は聞いたことあるんだけど……

「トリー姉様は婚約者と交流していたはずだし、フェル兄様のところに行こうか」

 ハリナに連絡を入れてくれるように頼んだら、私を抱えた。宮の外に出ると、浮かび上がった。

「今度は気をつけるから大丈夫だよ」

 そして、結構な速さを出して、飛んでいく。あまり風はこちらに来なかった。どういう仕組みなんだろう。辺りを見ても、黒い光のようなものは見えない。今回は大丈夫かなと思っていたら、奥の方で光った。

 ローランド兄様の服を引っ張る。兄様がこっちを見たのを確認して、光がある方を指差した。

「あっちね。分かった」

 兄様は私が指した方を気にしながら飛んでいる。そして、また何か飛んできたけど、今度はそれに当たることはなかった。逆に、兄様が飛んできた方に魔法を放った。それは命中したように思える。そのまま、光が地面の方に落ちていった。

「あれは回収を命じておくから。ありがとね、教えてくれて」

 そう言って笑った兄様の顔を見ることができなかった。
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