冷宮の人形姫

りーさん

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第一章 虐げられた姫

第44話 変化する残滓

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 二回ほど狙われたけど、無事にフェル兄様のところについた。

「フェル兄様!」
「ローランドか。何しに来たんだ?」

 本を読んでいたようで、こっちに気づいたら、その本を閉じた。

「……それで、なんでフィレンティアを抱えているんだ?」
「だって、ティアは飛べないから」

 飛べなくても、普通に歩くくらいならできるんだけど……こっちの方が速いからかな。

「それは理由にはなっていないが……ネズミが入り込んだからか?」

 ネズミって……普通のネズミのこと?それとも、そういうたとえなのかな。隠語は私には分からない。使ったことはないし、教えてもらったこともないから。

「そう。魔法で姿を隠しててさ」

 ネズミってあの大きな黒い光のことなのか。

 ローランド兄様がさっきまでのことを説明していた。

「そういうわけで、兄様にティアを預けようかなって思って。兄様は精霊も見えるからちょうどいいでしょ?」
「……分かった。だが、ずっとは無理だぞ」
「じゃあ、どれくらい?」
「長くても一週間くらいだな」
「それだけあれば充分だよ」

 さっきまでの笑顔とは違う笑顔を浮かべている。何か嬉しいことでもあるのかな。

 笑いながら私をフェル兄様の膝の上に置いた。

「じゃあ、兄様。害獣退治してくるから、ティアをよろしくね!」

 そう言って、部屋から出ていった。ここには、私とフェル兄様しかいない。すると、フェル兄様が頭を撫でてくる。

「言ってなかった気がするから言うが、私はフェリクス・イルト・アベリニアだ」

 この人……お茶会で見た、無口で頭を撫でてくれた人だ。

「ローランドが魔法以外でああなるのは珍しいんだ」
「……?」

 普段からあんな感じだから、あの様子以外が想像できない。

「想像できないだろうが……普段は私やエドニークスよりも無口だからな」

 ふーん、そっか。……ダメだな。人形に戻り始めてる。何にも興味が持てない、感情が出せないあの人形に。

 視線を感じて、上の方を見ると、私の方をじっと見ている。

「まだ残滓があるのか?もうなくなってもおかしくないが……」

 残滓って何の話だろう。聞いてみようかな。話せるか分からないけど。話してみようか。

 そして話そうとしたら、胸が熱くなった。

 ……?今まで、こんな感覚はなかったのに。そもそも、私は熱さは分からない。炎に当たっても、何か触れているかなと思うくらい。それくらいに感覚がないのに。

 今は確かに熱かった。話そうとしたから?話してはいけないということなの?話したくないと無意識に思っているから、こんな風になったのかな。

「周りに何体かいるな。見える者には普通は寄ってこないんだが……」

 それは、エド兄様も言っていた。自分達を見られるのを嫌うから、見つかったら姿を消してしまうと。

 寄ってくるのは、助けを求めていると。

 ハリナが、泉にフェレスが行っていると聞いた。だから、魔力を暴走させないようにと。魔力切れなら治せるけど、魔力暴走を治せるのはフェレスだけだからと言っていた。

 父様はフェレスも精霊が見えると言っていた。フェレスが行っているなら、もう精霊が助けを求めることはないと思う。なのに、寄ってきている。

お前に・・・何かあるのかもしれないな」

 私に?一体、何があると言うんだろう。あったとしても、なんで今、近づいてきたのかな。ローランド兄様といるときは全然寄ってこなかったのに。

「ローランドにも言われたからな。私が側にいる限りは、精霊には触れさせないから安心しろ」

 そういえば、この人も見れるのかな。父様が言うには、第一皇子と第一皇女は見ることができるらしいけど。

 フェル兄様の服を引っ張って、光が見える方を指差してみる。

 少し間が空いたけど、その間も光を指差していたら、やっと伝わった。

「私にも精霊は見えるぞ。後は、トリリウムか。トリーと呼ばれている第一皇女だ」

 ローランド兄様が言っていた人だ。確か、婚約者と交流があると言っていた。

「トリリウムは、気位は高いが、家族思いの方ではある。私と違ってな」

 フェル兄様はエド兄様と似たような感じだと思うけど……本人が違うと言うなら違うんだろう。

「私もトリリウムも、子供から怖がられることが多いからな。接し方がよく分からないんだ」

 施設で育ったから子供のことはなんとなく分かるけど……私は怖いと思ったことはない。ただ無口なお兄ちゃんという感じだから。無口であまり笑わなかったら、怖がられるのかもしれない。

「話せないのか。残滓のせいか?」

 その質問にうなずいた。でも、話せなくてもいいかと思っている自分もいる。私が話せようと話せなかろうと、対応は変わらないから。

「私はフェレスほど視るのは得意ではないが……何か変化しているように見える」
「……?」

 変化ってどういうことだろう。

「精霊の魔力であることには間違いないだろう。魔法を強めているのも。だが、それだけではないな」

 それって、話そうとしたら熱いと感じたことかな。あれは精霊の魔力のせいだったんだ。

「まぁ、心配することはない。悪意はおそらくないだろう」

 悪意はない。それなら、放っておいてもいいか。心配するなと言われたから、もう気にしないでおこう。

「今は少し眠るといい」

 そう言って、おでこに手を当てられたら、急に眠気が襲ってきて、兄様の膝の上で意識が途切れた。
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