異世界でもマイペースに行きます

りーさん

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第一章 伯爵家の次男

13 初めてのパーティー 1

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 リオンティールは憂鬱だった。
 従魔を手に入れてしばらくは、悠々自適な日々を送っていたが、従魔を手に入れてからおよそ半年。ついにこの時が来てしまったからだ。
 リオンティールが、鏡の前でくるくると回りながら、身だしなみを確認していると、こんこんという音が部屋に響く。

「リオン。準備はできたかしら」
「はい、母上。支度が終わってしまいました」

 そう言いながら、リオンティールは扉を開けた。
 訪ねてきたのは、リオンティールの母であるアイリーシアだった。
 はぁとため息をつきながら出てきたリオンティールに、アイリーシアも軽くため息をつく。

「まだ不満なのですか」
「当たり前です。パーティーなんて行きたくありません」

 今日は、以前に両親から聞いていた、王家主催のパーティーがある。
 リオンティールは、全力で拒否したいところだが、伯爵家が王家からの招待を断れるわけもない。
 嫌々ながらも、服を仕立てたり、マナーやダンスを学んだりして、この日に備えていた。
 それでも、行かなくて済むなら行きたくないと思っている自分がいる。
 リオンティールは、自分が思っているよりも諦めが悪いところがあった。

「パーティーに行けば、お友達ができるのよ?」
「友達なんていりませんよ」

 蓮のような存在なら、リオンティールだって歓迎するところだが、あんな人間は、貴族社会では生き残れないだろう。
 それに、リオンティールは五歳とはいえ、中身の梨央は十を余裕で越える。話が合うような友人ができるとは思えなかった。
 相手は梨央に合わせられないだろうし、梨央は相手に合わせることが苦手だ。

「そうです。母上。リオンには友達なんていりませんよ」
「ええ。リオンには私がいれば充分なのですから!」

 いつの間にか側まで来ていたアリアーティスとベルトナンドが、アイリーシアに声を荒らげる。
 だが、その言葉に真っ先に反応したのは、互い同士だった。

「アリアはおかしなことを言うな。リオンに必要なのは私だろう」

 呆れるようにそう言うベルトナンドに、アリアーティスは冷たい目を向けて返す。

「お兄さまこそ何をおっしゃっているのです。私だけで充分ですわ」

 互いに睨みあっている兄姉を、リオンティールが冷たい目で見ていると、母がわざとらしくため息をつく。

「どうやら二人とも、相当に暇なようですね。旦那さまにお相手をお願いしておきますわ」

 冷ややかな笑みを向けてそう言う母に、兄姉たちは顔を青くして震えだした。

「そ、そういえば、学園の課題が残っておりましたので、失礼いたします!」
「わ、私も、お手紙の返事を書かなければなりませんので!」

 どう聞いても言い訳にしか聞こえないような言葉を残し、二人はすたこらとその場を後にする。

(あの二人も父上は恐ろしいのか……)

 先ほどまで冷たい目を向けていたのに、年相応の子どもにしか見えなかった反応に、リオンティールは苦笑いしてしまう。
 アイリーシアはため息をつき、リオンティールの手を引く。

「ほら、行きますよ」

 その言葉で、リオンティールはこの後のパーティーを思い出し、再び憂鬱な気分がぶり返した。

「はぁーい……」

 母に連れられて、リオンティールは屋敷を出た。

 ◇◇◇

「うわぁ……広い」

 会場へと入ったリオンティールは、その広さに圧倒される。
 普通の日本人として暮らしていた梨央にとっては、ロウェルト家の屋敷も立派なものだったが、やはり王宮には敵わない。

「リオン。私から離れないようにね」
「はい、母上」

 アイリーシアに声をかけられて、リオンティールは後をついていく。
 しばらく歩いて、動きが止まったので、リオンティールも傍らに立った。
 リオンティールは、辺りをキョロキョロと見渡す。

「たくさんの人がいますね」
「当然よ。すべての貴族が集まるのだもの」
「すべてのですか!?」

 リオンティールはそう声をあげて驚いたが、冷静に考えると、王家主催のパーティーなのだから、小規模なはずもない。
 でも、すべての貴族というのはさすがに少ないようなような気もする。
 リオンティールがパーティーのために、他の貴族のことを勉強していたが、リオンティールが記憶した貴族も、何人かは見当たらない。

「その割には少なくないですか……?」

 リオンティールが浮かんだ疑問も口にすると、アイリーシアはふふと笑う。

「会場入りするのは、身分順なのよ。位が低い貴族から会場入りするから、侯爵や公爵位の人たちはこれから入ってくるの」
「へぇ~……」

 リオンティールが入り口のほうに意識を向けると、会場入りしている人たちがちらほらと見える。
 遠目から見ているだけなので、はっきりと判別できるわけではないが、貴族の家を勉強したときに、侯爵やロウェルトより上の伯爵として名が上がっていた者たちのように見える。
 そして、その者たちは、自分達の横を通りすぎていった。そして、まるで決められているかのように、そこに真っ直ぐ向かって立ち止まる。
 後から来る者ほど、入り口からは遠くの位置に立っているようだった。

「母上。会場での立ち位置も身分が関係しているのですか?」
「そうよ。間もなく王家の方々が会場入りするけど、身分が高いほど、玉座に近づけるのよ」

 アイリーシアが、高位な貴族のほうを指差している。
 リオンティールがそちらのほうを見ると、明らかに高価な椅子が三つ置かれていた。あれが、王家の方々の座る椅子なのだとリオンティールも理解する。

(王さまは中央かな。小さいのは王子か王女か)

 椅子の大きさや位置から、どこに誰が座るのか推測していると、会場内に声が響く。

「ルーカディウス国王陛下、シャーロット王妃殿下、レンノラード殿下のご入来!」

 その声と共に、会場の貴族たちは一斉に礼を取る。
 アイリーシアも頭を下げていたので、リオンティールも慌てて礼を取った。
 だが、王家がどんなものか気になったリオンティールは、チラリと視線だけを王家のほうに向ける。

(あれが王さまと王妃さま……?)

 視線の先には、ふくよかなおじさんという風貌の男と、傾国のという冠が付きそうな美しい女性がいた。あの入来の声の後に登場したので、おそらくは、その二人が国王と王妃なのだが、ギャップがありすぎて、違和感しかない。十は年が離れているんじゃないかと疑うほどだ。親子と言われたほうが納得する。それとも、王妃が美魔女なのだろうか。
 リオンティールは、次に王子のほうを見る。
 王子は、自分と同い年というのは聞いていたが、自分とはちがい、凛々しい顔立ちをしている。だが、視線だけ小刻みに動かしていて、まるで何かを探しているようだった。
 ふと、王子がこちらのほうを見る。そのとき、王子はにやりと表情を変えた。
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