【完結済】愛が重め故断罪された無罪の悪役令嬢は、助けてくれた元騎士の貧乏子爵様に勝手に楽しく尽くします

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第二章 生き急ぐように去って行く美少年の背中を切なく見送りたい

思慮深い大人になるのは難しい(side リュシアン)

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不意打ちのキスにアーデが真っ赤な顔をして出て行った後で―

ズボンの左右のポケット、上着の左右のポケット、そして内ポケットから次々取り出した紙を灰皿の上に乗せ、イライアスの祖国であるネザリアから僕に贈られた魔道具でボッと火をつけた。

『マカロン』
『クッキー』
『ケーキ』
『パイ』
『キャンディー』
『スコーン』
『ビスケット』

思いつく限りの菓子が書かれた紙は、僕の目の前であっという間に燃え上がり白い灰と化す。


アーデは僕の言葉を中々信じてくれない。

タイミングなんて関係ない。
僕はアーデが僕の事を思って時間を割いてくれたこと、それ自体がいつだって本当に嬉しいというのに。


いつになったらこの思いが届くだろう。

自分としては、彼女に会った時よりもずっと大人になったつもりではあるのだけれど。
年の差の様に埋まらないこの思いがもどかしい。


少し感傷的に浸ってみた後。
そうだったと思い出し、この国を攻め落とす為戦略を書き込んだ地図を隠しポケットから取り出した。

改めて冷静に眺めて見て、更なる詰めは必要だが割合良い線を行くのではないかと自画自賛した後、先ほどの菓子を書いた紙と同様に火をつけ燃やした謀反の証拠の隠滅を図った




イライアスは天性の人たらしだった。

彼が城に滞在している間、普段は冷静な侍女や従者達が彼に魅せられ彼の関心を引く為、彼の気持ちを察し我先に自ら率先して様々なものを彼に差し出していた。

その姿ははっきり言って異常だったが、イライアスからすれば生まれた時からそれが普通だったのだろう。
彼は何の疑いも、さしたる感動も無く、それどころか酷くつまらなさそうにそれを享受していた。

僕は生憎魔術には詳しくない為正確な所は分からないが、確かイライアスの母の家系は強い魔力を有する魔女の家系だ。
もしかしたらイライアスには生まれながらに魅了チャームの魔法の様なものがかかっているのかもしれない。


イライアスは遊学と称してこちらに滞在していたが。
その真の目的はその魅了の力によりアーデを懐柔し、自らの後ろ盾に引き込もうと思ってのことだったと僕は思っている。

イライアスの母国であるネザリアの王都は一見華やかだが、古参の貴族の中にはイライアスの父である現王の治世に不満を持つ者も多く、先日僕の元にもクーデターを起こそうと画策している辺境領主から助力を乞う使節が内密に送られてきたばかり。

魅了の魔法は直接彼の前に姿を現さない政敵には効果が及ばず、イライアスは彼らの政敵と我が国が結託してネザリアを滅ぼしに来る前に何とかせねばと、一人勝手に焦れ単身この国に乗り込んで来たのだろう。






◇◆◇◆◇

狩でうっかり従者達とはぐれた風を装って―
二人きりになったタイミングでイライアスに

「アーデやこの国ではなく、僕個人につけ」

そう言ってやった。

「そうすれば僕の母国と、この国両サイドに接触してきた不穏分子の情報をやるし、もしアーデが僕を捨てる時が来るならこの国を滅ぼして国土の一部をお前にやる」

そう言いながら木立の中見えた鹿に狙いを定め

「どうだ? 悪い話ではないだろう?」

弓を引き絞ったまま、完全に油断していたイライアスの方を振り返り嗤えば、イライアスは僕が想像していた通り青ざめさせた。

しかし……。
酔狂なのだろうか。
イライアスはすぐ腹を抱える様にして笑い出しながら

「いいでしょう。貴方個人につきますよ」

そう即答してみせた。


弓を降ろしつつ、イマイチ読めないイライアスの存在を改めてうっとおしく思った時だった。

「そのかわり、僕と友達になってください」

イライアスが更に予想の斜め上を行く事を言いだした。

余りに悪趣味な提案に、思わず学生だった頃のように繕う事も忘れ、盛大に顔を引きつらせれば

「ボクに好意以外の感情を向けて来たのは貴方が初めてです。みんなボクが何をしようと同じ様な反応しか返さなくて飽き飽きしてたんですよ。そうだ! 来年の夏には今度は貴方がボクの国に友人として滞在しに来てください」

イライアスはそんな追い討ちまでかけてきた。

「ボクずっと兄弟が欲しかったんです。でも父も母も『兄弟など煩わしいだけだ』と言ってその願いだけは叶えてくれなかったんです」

イライアスのそんな言葉を聞いて、久しぶりに自国の弟の顔を薄ぼんやりと思い出す。


「嬉しいな、兄のような友人が出来て」

イライアスのそんな呑気そうな声を聞いて。
駆け引きが上手な大人になったつもりで調子に乗っていた自分の浅はかさを思い知った。

あぁ、思慮深い大人になるという事はどうしてこうも難しいのだろうか。
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