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回想~出逢い~

よんわめ そのいち

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 ゆらゆら──
 ──ふわふわ

 あたしはいつの間にか寝ていたらしい。
 これは夢だ。
 だって何もないもん。

 微睡みから目を覚まし、きょろりと目だけを動かして周囲を見渡せば真っ白な世界にぽつんと独りきり。
 地面がどこで、天井はどこか。
 何もない空間で揺蕩たゆたうあたし。
 目を閉じたらどちらが上でどちらが下かわからない。
 ふと海やプールを思い出す。
 こうやって浮かぶのがあたしは好きだったから。
 何も考えずぼんやりと波間の揺籃ゆりかごに揺られているのは気持ちがいい。

 《でもそろそろ妾に気付いて欲しいのじゃぁ……》

 何処からかしょんぼりとした声が聞こえてきて思わずぱっちりと目を開く。
 何処から聞こえたのか、と腹筋に力を入れて体を起こそうとするとその声の持ち主らしき子があたしのお腹辺りで膝を抱えて座っているのが見えた。
 見た目小学生の女の子っぽい。
 キラキラ光る柔らかそうな金色の髪は風もないのにふわりふわりと揺らめき、ギリシャ神話の神様のような服を着ている。
 しかし重さを感じないな、と思ったら浮いてるよこの子。
 そりゃ重さなんて感じないわ。
 それに見た目小学生っぽいけど、それよりも更に一回りは小さいような気がする。

 《妾を無視するなぞ許さんのじゃあ!》

 抱えた膝に顎を乗せて、恨めしそうにあたしを睨むその瞳はうるうると潤んでいた。
 可愛いなぁ。

 《かっ、……ふ、ふんっ!》

 真っ赤になったその子はぷいっとそっぽを向いてしまった。
 それも可愛いんだけどね。
 子猫みたいで。

 《そ、そんなことより!妾は其方そちにお願いがあるのじゃ!》

 お願い?
 お願いってなぁに?

 《妾はのぉ、愉しい事が好きなのじゃあ。じゃがちとやり過ぎたようでの?淫邪神扱いになってしまってなぁ。漸く復活したんじゃがまだまだ力は足りぬ。故にこの様な幼子の姿しか今はとれぬ。それでだ、其方そちに力を貸して欲しいのじゃ!》

 ほうほうなるほど。
 ……いんじゃしんとはなんぞや。

 《淫邪神とは……そうじゃのぉ、淫らな事が大好きな悪神と言えば伝わるかの?》

 へえ……淫らな事が大好きと?
 子供が?

 《わ、妾は子供ではないぞ!》

 え、でも子供……。

 《ち、力が戻れば妖艶な美女じゃ!》

 あ、自分で言っちゃうんだ。
 まあそれはいいんだけど、あたしのこの状況はどういうことなのかな?

 《……妾に興味無さすぎじゃろぉ……何度も妄想を語り合った仲であるに……》

 泣きべそで唇を尖らせるお子様に首を傾げる。
 こんなお子様と出会った事はないんだが……?

 《『びーえる至上主義』と言ってもわからぬか?》

 …………うん?
 そんな名前の知り合いは……あ、いた。
 SNSでの知り合い……えっ!?
 あのBL異種姦大好き妄想全開はっちゃけ『びーえる至上主義』さん!?

 《妄想全開はっちゃけ……あながち間違いではないが……まあそうじゃ。妾がその『びーえる至上主義』じゃ》

 こんなお子様があんなえぐい妄想してたの!?

 《だから妾は元は妖艶な美女じゃ!!》

 今の状況じゃあ信じられないけど、まあいいや。
 どうもはじめまして、『BLうまうま』です。

 《知っとるわ、『BLうまうま』──いや、藤村泡姫》

 なんであたしの名前……。

 《ふふん、妾にとって其方のことを知ることは容易いのじゃ》

 ……ドヤ顔も可愛いねぇ。
 それであたしのこの状況はどういうことなんでしょ?

 《相変わらずBL以外に興味が薄いのぉ……。まあよい、其方は今とある世界へと召喚されている途中じゃ》

 …………What's?

 《そこに妾がちょいちょいっとお邪魔しとってのぉ。あまり時間もないのじゃ、説明するぞ》

 そうして聞かされたのはどこのラノベか、っていうね。
 異世界の勇者としてあたしは召喚されているらしい。
 現代日本とは全然違うファンタジー世界へ。
 そしてこの召喚によってあたしには勇者としてのチートが備わるけれど、それだけじゃ面白くない、とこのお子様が横槍を入れている最中らしい。
 今召喚されているのがあたしじゃなかったら横槍入れるのにSNSであたしに声を掛けようかとは考えていたらしい。
 どっちにしろあたしに異世界転移しろってことかよ。

 《勇者としてのチートに加え、妾からも能力を授けよう》

 あたしの都合スルーされてるけど……ま、いいよ。
 愉しい世界なんでしょうね?

 《ふふ……リアルBLの世界じゃ》

 よしのったぁ!!
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