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新しい出会い

じゅうななわめ

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「シオンの体液は人間じゃなかったよ」

 実験が終わったらしきエルさんが地下室から出てきての第一声がそれでした。
 俺とジュークはリビングで朝ごはん中で、2人してスプーンを片手にぽかーんとしてしまった。

「え、俺人間じゃないんですか」

 ビックリな事実である。
 でもよくよく考えたら、勇者として召喚される時に造り変えるとか言われてたし、お子様も手を加えるみたいな感じだったからそうなっちゃったのかもしれない。

「端折るな」
「ああ。正確には人間の細胞がベースではあるんだけど、何か違うんだよね。僕の手持ちの道具じゃ詳しくは調べられなかったよ」
「へえ……元は一応人間ですけど、勇者として召喚された時に何かあったのかもしれないですね」

『勇者』って単語は色々ある俺にはいい免罪符だ。
 何かおかしい、とか言われても勇者だから、とか召喚の時に何かあったのかも、で大体誤魔化せる。
 その時に何があったかなんて誰も証明出来ないからね。

 エルさんがするするとテーブルまで移動してきて、俺の隣に腰かける。
 ジュークはそんなエルさんにスープをよそい、差し出す。
 ジュークってなんか面倒見いいよね。
 エルさんはスプーンじゃなくて器に口をつけてくいーっと喉に流し込んだ。

「え、エルさん……ちゃんと噛まないと……」
「お腹すいてたから」

 お腹すいてたらゴロゴロ野菜を丸飲みするんですか……。
 どんな体の造りしてるんでしょうね。
 あ、妖魔だからか?

「……なんか違う」
「え?」

 器を空にしたエルさんが首を傾げている。
 一体どうしたのか。

「シオンが作った」
「ああ、それでか」

 なんだ、スープのことか。
 エルさんに採取されたのが一昨日のこと。
 昨日は昼まで寝て、情報収集と買い物をしてきたジュークと話し合いをして、異空間収納にある食料とか足りないものを調べて旅の準備。
 今も朝ごはんだけど、エルさんがいなかったしゆっくりしようってことで遅めの朝ごはん中なのだ。
 そして、ジュークにはお世話になってるから、って俺がご飯を作った。
 といっても食材や調味料のわかる範囲での料理なので手抜き感がハンパない。
 美味しいってジュークは言ってくれたけどね。

 エルさんの口に合わなかったのかと思ったけど、ジュークに空の器を差し出して、それにおかわりをよそうジュークを見ると味に問題はなさそうで、ほっと胸をなで下ろす。

「いつ出るの?」

 ご飯を終えて片付けも完了して、お茶を飲んでいたら不意にエルさんがそう聞いてきた。
 ジュークの方を見れば肩を竦められた。

「飲んだら出る」
「え?早くない?」
「昨日1日休んだからな」
「あれ?1日?」
「……お前は地下室に籠っていたからな……。丸1日は経っているぞ」
「え、待って。僕も行く」
「は?」

 どうやらエルさんは実験に夢中で気付いてなかったらしい。
 これは徹夜してるんだろうな。
 出発するというジュークの言葉に慌てて立ち上がると地下室に走っていった。
 といってもするるる、って感じで静かなものだったけど。
 そしてついてくるつもりなのか。

「ジューク……」
「どうするか……。だがここで置いて行ったとしても追いかけてくるつもりだろう」
「危険だと思うんだけど……大丈夫なのかな?」
「ああ見えて腕っ節は強いからな。そこは問題ないだろうが……」

 なんだか歯切れが悪いジュークだけど、問題ないのなら俺はどっちでも構わないと思う。
 ジュークの判断に任せようとじっと見ていたら、溜め息を吐かれた。

「仕方ない。手伝ってくる」
「あ、じゃあ俺も。収納に入れるよ」
「ああ、頼む」

 ジュークの後ろについて地下室に下りると乱雑な部屋が更にバッタバタになっていた。
 実験道具も持っていくつもりらしい。
 俺が異空間収納を持っているから問題はないけど、これ普通の旅だったら荷物の為に馬車か何か必要じゃない?

「エル、何を持っていくつもりだ」
「えっと、これとそっちの箱とあっちの1式と……」
「旅に必要のないものは減らせ。身の回りの物を用意しろ」
「ええ?でも実験……」
「減らせ」

 すっぱり言い切ったジュークにエルさんは物凄く肩を落としていた。
 でも俺も実験道具は必要ないと思います。
 それでも地下室で色々纏めて、これだけは持って行きたいと箱を3つ分指し示された。
 中身はすり鉢とかそういう細々した道具と、薬品に素材らしい。
 ジュークが何に使うのか聞いていたけど、回復薬とか作るのに使うって言ってて許可が出た。

「この3つはわかった。後は身の回りの物を纏めろ」
「わかったよ」

 名残惜しそうに地下室のあちこちに視線を向けていたエルさんだけど、すすすと階段を上って行ったので、大丈夫だろう。

「シオン、いいか?」
「うん。……そうだ、本」
「ん?」
「俺も読みたい」
「そうか」

 荷物を異空間収納に仕舞ってジュークを見上げると優しく微笑んで頭を撫でられた。
 そういえば、ジュークと旅を始めて、昨日は初めてジュークとシなかったな、と思う。
 1週間にも満たない期間だけど、もうジュークがいない旅は考えられない。
 甘えているという自覚はあるけど、ジュークは嫌じゃないのかな?

「ジュークはさ」
「ん?」
「俺と居ること、後悔してない?」
「……なんだ、急に」
「俺はジュークに一緒に居て欲しいけど、ジュークは危険な旅に付き合わされるハメになったでしょ?いいのかなぁ、って」

 そう言ったらジュークは一瞬眉を寄せた。
 けれど、ふっと力を抜いて俺の頬にそっと指を這わせて顎を捉えた。

「俺が共に居たいから居るんだ」
「……うん、ありがとう」

 知らず体に力が入ってたみたいだ。
 優しげに俺を見下ろすジュークに肩から力が抜けた。
 擦り寄るようにジュークの服を掴んで1歩近付くとジュークが身を屈めてきた。
 近付くお互いの顔に、俺はそっと目を閉じる。
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