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第五章 面倒事はいつも突然やってくる
《no side》
しおりを挟む「続いて美術部の表彰にゃー。美術部部長の比良山 美笹君前に来てにゃ」
舞台に上がる仮面をつけた生徒を目にしながら風紀委員長である緋賀 永利は静かに苛立っていた。
壁際にひとり立ち腕を組んでいる。組んだ腕は苛立ちのせいか指先でトンッ、トンッ、トンッ.....と速いリズムを刻んでいた。
眉間によるシワも凄まじいもので、彼の近くに座っている生徒達は放たれる苛立ちのオーラを浴び、みなが縮こまっている。
(なんであいつは居ねぇんだよ!!!)
しかし自身の放つオーラに気付かぬまま永利は憤慨する。その対象はもちろん隣にいない副委員長である一条 燈弥だ。
(あれほど言ったのにすっぽかしやがった!.....これはもう首輪つけて連れ回すしかねぇな)
湧き出る仄暗い感情に永利から凶悪な笑みがこぼれ落ちた。それをたまたま見た生徒は顔を青く染め直ぐに下を向き、震える。それほどおぞましく、直視できないものであった。
周りの反応に気づくことなく、首輪の色を考え始めた永利は機嫌が良さそうに目を細め舞台を眺める。たとえ美術部部長に表彰状を手渡す不倶戴天の男が視界に入ろうと腹も立たなかった。
今なら生徒会に何言われても笑って流せそうだと思っている。
(緋賀の家紋を与えてもいい.....)
自身が考えたことに熱い吐息が出そうで、思わず手で口を抑えた。
そしてハッとする。
(.....俺は今なにを考えた?)
呆然と立ち尽くす。永利はあの五大家『緋賀』の次期当主だ。緋賀は五大家の中でも異能者達をルールに則って裁く特別な立場にあり、それゆえ何事にも惑わされてはいけない。だから緋賀という名を安易に与えてはならないし、他人に心許すこともしてはいけないと永利は幼い頃から言われ続けていた。
なのに、なのに出会ってまだ数ヶ月の男に緋賀の家紋を与えようとした。
それだけでなく己の弱った姿を見せ、懇願するという行動まで――
(何してんだ俺は.....俺が緋賀の禁を破ってまで心許すのは過去にも今にもアイツだけだと言うのにっ。それなのに一条にあんなことを思っちまうなんて.....!俺にはアイツだけだ。アイツだけが俺の救いだ、代わりなんて要らねぇ。一条とアイツは違う人間だ!!一条はただの部下だ。部下なんだ)
足元がぐにゃりと歪む。
さっきまでの気分の良さが嘘のようになくなり、冷水をあびせられたように寒く感じた。
(アイツに会いたい、会いたいっ.....!)
瞼を閉じればあの優しい瞳が鮮明に思い出せる。
天使の輪を作った艶やかなか黒髪が揺れ動き、困ったように笑う顔はいつも慈愛に満ちている。
夢で見る『アイツ』はいつも永利の手を引いて前を歩いていた。それは何にも変えられない尊い時間で、永利の救いだった。
だが、目を覚ますと『アイツ』はいない。
そのせいか永利はいつからか眠ることが出来なくなったのだ。
夢と現実の差に耐えきれなくて。
(限界だ)
(限界なんだ、もう。あの日から俺はとっくに――)
「委員長」
涼やかでいて優しい声が永利の鼓膜を揺らす。
その声に虚ろだった瞳ははっきりと自身の足元を映し出し、そして永利は何事も無かったかのように顔を上げた。
「......なんだ一条」
「なんだじゃないですよ。この事態をどう収拾するのか指示を早くください」
「事態....?というかいつの間に来たんだお前」
「はァ?まさか立って寝てたんですか?今の今まで」
燈弥の呆れたような物言いに永利は眉を寄せながらも周りを見渡せば、全校集会とは思えないほど喧しく、興奮冷めやらぬ雰囲気が漂っているように見えた。
「何があった?」
「....どうやら今日の委員長はお疲れのようですね。僕と哀嶋君で指示を出すので委員長は休んでいてください」
特に何か話すわけでもなく燈弥は永利に背を向けその場から離れる。
そう、永利に背を向けたのだ。
「.......ん??」
その時、燈弥から疑問の声が上がる。
燈弥は引っ張られる感覚に内心首を傾げながら振り向くと、驚いたように赤い瞳を瞬かせる永利の姿があった。その姿に燈弥も同じようにメガネの下の瞳を瞬かせる。
「な、んで裾を引っ張てるのですか?」
燈弥の言葉に永利が視線を下げればギュッと軍服の端を掴む見慣れた手があった。
瞬間、永利は光の速さで燈弥のそれから手を引く。
「~~っ、なんでもねぇ!」
「ぇ、あ――はい。では僕は行きますね」
何事も無かったような態度に、また遠くなる背。
その光景に永利はどうしようもないほど胸を掻きむしりたくなった。
喉元までせり上がった言葉は吐き出せず、腹に溜まるドロドロとしたナニカ。
永利はその感情がなんなのか知っている。
その感情を過去に味わったことがある。
その感情が自分を弱くすると分かっている。
(駄目だ.....ここは人目があるっ、崩れるわけにはいかねぇ!!緋賀の俺がそんな姿を見せる訳には――)
「委員長」
「ぁ.....」
遠くなった背が振り返った。
「夜ご飯、委員長の好きなもの食べましょうか」
燈弥の笑顔が過去の『アイツ』と重なり永利は咄嗟に手を伸ばすも燈弥はもう永利を見ていない。
伸ばされた手は力なく下ろされる。
「どうしてお前は.....アイツみたいに眩しいんだ」
小さく呟かれた苦痛滲む言葉は誰の耳にも届かない。
《side end》
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