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第十一章 月の下で貴方とワルツを①
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しおりを挟む水族館に行った次の日。
寝苦しくもなく、締め付けられる感触もなく、自然と目が覚めた。まだ覚醒しきってない脳は昨日の記憶を懐かしむように再生する。
水族館楽しかったな。
イルカ可愛い。
僕が少しでも離れるとオロオロするヒナちゃんも可愛いかった。
貝美味しそう。
アワビ美味しかった。
鎖真那双子の反応面白かったな。
サマ臣君はオレん家に泊まれ泊まれと、最後ら辺は五月蝿かったな。
対照的にヒナちゃんは最後ら辺静かで、心在らずだったし....
あと、なんかサマ臣君のヒナちゃんへの当たりが強いし。
「ヒナちゃん.....?」
脳が覚醒する。ここ数日、僕を抱きしめて眠っていた彼が隣にいない。パッと見、辺りを見渡しても姿が見当たらな─────おや?ソファにはみ出ている足は.....。
近づいてみると、紙束を片手にソファで眠っているヒナちゃんが居た。
テーブルには茶色封筒。これは確か、僕がモッチー先生に渡されたやつだ。
.....渡すべきじゃなかったかな。でも、もう熱もだいぶ下がってるし少しくらいは仕事してもいいんじゃ?どうやらヒナちゃんは仕事中毒らしいし。
はぁ、このまま寝かせとこう。僕は洗面所に行って、朝支度を済まして....朝ご飯だ。仕方ないからヒナちゃんの分も作ってあげるか。
「────どこへ行くんだ」
「っ、びっくりさせないで.....起きてるなら言ってよ。危うく心臓が止まりかけた」
洗面所へ向かおうと背を向けた瞬間に声をかけられた。マジで心臓が跳ねた。
ちょっとヒナちゃん??
狸寝入りは可愛くないぞ?
「俺様も一緒に行く」
「はいはい、あと仕事はほどほどにね」
「分かってる」
ほんとかなぁ。
朝ご飯も済ませて、自由時間。ゴロゴロダラダラ。時間を贅沢に使う。この家で開くパーティとやらも、もう2日後に迫っている。一条家に帰ればこうしてダラダラと過ごすことはできないため、今のうち存分に堪能するのだ。
最初は暇・暇・暇と暇で死にそうだったが、今はその暇すら恋しい。もう1回あの暇を味わいたい。今の僕ならもっとその暇を有意義に過ごせる。
例えば映画だったり、ドラマだったり、本読んだり....暇が欲しいなぁ。
「燈弥君できたよ!!!」
と、この至福の時間を邪魔するのはやっぱり笹ちゃんで....。
読んでいた小説から顔を上げる。
笹ちゃんは手に黒い服を持っていた。
彼は興奮気味に近づいてくると、僕の手を握り引っ張る。無理矢理立たせられた僕は大人しく差し出された服を身体に当ててみるのだが....
「え、何この服」
「燈弥君のパーティ用正装」
「殺されたいの?」
「えっ、じゃあ笑顔でお願い」
このやり取り前もやったなー。
なんでそこで受け入れるのよ?そこはもっとこう、慌てて謝るとか....まぁいいや。
はい、笹ちゃんはやってくれました。美コンに続くトンチキ衣装。
実際に着てみる。....でもやっぱりトンチキ衣装に変わりはなかった。
黒のフェイスべール(目下から覆うようなベール)と、小さな黒い帽子が乗った黒のマリアベール(折り返さず頭にかけたベール。顔周りがベールで包まれている)をかけた全身真っ黒衣装。
ゴテゴテとボタンがいっぱいついたゴシックなジャケットに、ピッタリと脚にフィットしたパンツ。そして黒のハイヒール。
どう見ても仮装。どう見ても正式なパーティで着るような正装ではない。
なんか喪服を連想させる。あと未亡人味を感じるのは僕の気のせいだろうか?
僕の着こなし方が悪いの?
確かにこの衣装なら顔が隠れていて、弥斗だとはバレないだろうが....確実に浮くね。
「ヒナちゃん.....どう?」
「あー.....まぁ、いいんじゃねぇの」
顔が隠れているためか、ヒナちゃんがこちらを向きながら言葉を返してくれた。それだけでもこのトンチキ衣装は役に立っていると言えるけど....。
絶対、好奇の目が向く。目立つ。それを考えると『良い』とは言えなくない?
「マジで言ってる?」
「開くパーティが政界のお偉いさんとかが来る顔繋ぎの場ならアウトだが、今回は仮装パーティだろ?おかしくはねぇと思うが....」
「ストップ!!仮装パーティって言った!?初耳なんだけど!!」
「は?仮装パーティを考えて比良山の作る衣装に口出ししなかったんじゃねぇのか?.....まさか、1度も比良山の作る衣装の進捗を見ていないとか言うなよ」
......見てません。
僕が顔を逸らすと彼は深々とため息をついた。
「俺様はてっきり、お前が仮装パーティを望んでいるもんだとばかり.....だから急いでパーティの参加者に仮装用衣装を用意しろと伝えたんだが。ファインプレーか」
「ヒナちゃん大好き」
「っば、か野郎!何言ってんだ!?」
そんなに照れないでよ。
「仮装パーティ.....ヒナちゃんの衣装は?」
「使用人がお前のその衣装と合うものを用意した」
「へぇ気になる」
「.......騎士だそうだ」
「えっ、かっこいいじゃん」
見たい!!
え、ダメ?なんで。
使用人が出てこないから??
ここの使用人は姿を見られたら死ぬ呪いでもかけられているのかな。
「うーん、もうちょっとヒール高くてもいいなー。高くしよっか」
「笹ちゃん!!これ以上高くするとかやめて!!今でさえ歩けるか不安なのにこれ以上高くされたら歩けない!」
「そこは練習だよ燈弥君」
「パーティは2日後に迫ってるよ!?」
「大丈夫大丈夫。燈弥君はポテンシャルが高いから。すぐに履きこなせるよ。そうだ!いっその事ピンヒールに.....」
「だからやめてってば!!」
ただでさえ足がプルプルして、立つのがやっとだというのに。プラスで顔全体を黒いベールで覆っているため前が見にくい。1歩歩けばコケるよ??
これじゃせっかく練習したダンスも覚束無い。
「ダメだ。やっぱピンヒールにしよう。譲れない。ピンの方が似合う。僕は燈弥君に関して妥協は一切できないから」
「頼む人間違えたなぁ」
「服は全部回収するね。ピンヒールの練習はこれ履いてやって。じゃあ、後はよろしく頼むよ緋賀君」
「「はぁ?」」
僕の身ぐるみを剥ぐと、ピンヒールだけ置いて笹ちゃんは出ていった。
......とりあえず服着よう。それでヒナちゃんに練習を付き合ってもらおう。あ、ヒナちゃんが僕をまともに見れるよう変装もしなきゃ。
「ヒナちゃんもピンヒール履く?」
「ぜってー嫌だ」
「いつか履く機会があるかもよ?」
「ねぇよ」
─────カン、カラ.....
室内にものが落ちる音がした。
ヒナちゃんと揃って音の発生源へ顔を向けると、そこには地面に転がる黒いピンヒールが.....。
明らかに僕のよりサイズがでかい。
「.....ほら、使用人の人達がせっかく用意してくれたんだよ。一緒に練習しようよ」
「嫌───」
「お願い」
必殺、素顔でお願い。
さぁ、こっち向こうねヒナちゃん。ちゃーんと僕の目を見て『嫌』って言おうね?
「ぐっ、ずりぃぞ!!」
「なにが?ほら一緒にやろう。手を取って、僕の体重を支えて?」
「っ、っ~~!!わかった!わかったよ!!一緒にやるからその顔でこっち見んな!!」
よし!道連れ1人確保!!
さぁピンヒールを履いて練習だ。
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