7 / 22
7
しおりを挟む
「それは、ロッド従兄さんとお前にはどんな困難でも跳ねのける実力があるからだろ。好きなように生きたって周りを黙らせて、唸らせる。でも俺は違う。魔力も実力も中途半端だ。たった一人で知らない街に来て、誰の力も借りずに自分の力だけで生きて行こうだなんて、エドみたいな覚悟もできない。俺なんて兄さんやお祖父様の威光の下でおこぼれを貰って、細々と生きるのが似合いなんだ」
皮肉気に唇を歪めて笑うと、ユーディアは俯いた。
ロイは真ん丸な目を細めて、慰めるようにユーディアの肩に手を置いてきた。
「確かにエドゥアルドは『ここで目的を叶えるまで故郷には戻らない。自分の力で必ずやり遂げたい』そう言ってたよな」
「そうだ」
「これからも傍に居続けたい人がいるからこそ、余計に自分の足で立ちたいんだろうと俺はおもうけどな」
そうロイはごにょごにょと続けて小さく呟き、フードの影の奥に潜むユーディアの優美な顔を見上げた。だがユーディアはお決まりの物思いに浸ってしまったようで聞いていないようだ。
(かっこいいよな、エドゥアルド。故郷を離れてこっちに来て、王都で自分の力を試して生きて行こうとしてる。ああいうとこ、すごく憧れる)
眩しい存在だった彼の傍に居られなかったこの半年、寂しくて切なくて堪らなかった。だけど自分から彼の元へ出向く勇気も出なかった。構内で見かけると目で追ってしまい、食堂では常に彼が目に入る位置に後から座った。だけど声はかけられなかった。
(嫌いだって態度をはっきり取られたら、流石に凹んで立ち直れない)
「……とりあえずリリーはエドを誘って上花会で華々しく踊れればいいみたいだから、それとなく誘導してみる。あんな人だけど、一応姉だからさ。リリーには明るく幸せにしていて欲しいんだよ。機嫌悪いと怖いし。色々ありがとう。エドを探しに行ってくる」
「エドゥアルドなら多分、温室にいるかも。僕ちょっと前に、温室に向かう彼に会ったんだよね。育ててた希少な花が咲そうだから一晩見守るって」
「花が、咲く……」
ユーディアはその言葉を噛み締めるように呟くと何かを決心した顔つきになった。
「俺、差し入れ持って行ってみる」
「ユーディア、あのさあ」
言うないなや、話を最後まで聞くこともなく、ユーディアはフードが取れるほど勢いよく立ち上がると、細い白金の巻き毛をフワフワさせながら走り去って行った。
「エドゥアルドの家系って歴史を紐解くと凄い反転魔法の使い手なんだけど、そういう相手に読心魔法使うとどうなるんだろう。すごく興味深い」
※※※
(食堂のおばさんにミートパイと果物と果実酒分けて貰えた)
ユーディアは日頃、金属をピカピカに磨きあげる得意の魔法で、食堂のおばさん達にとても重宝されている。その感謝の印が焼きたてのパイに変身した。食欲をそそる香りの立てる籠を手に意気揚々と歩いて来たが、日が傾き薄暗くなった植物園の前に来ると緊張から足が止まってしまった。
(なんて声掛けよ、久しぶりすぎて。もし、歓迎されなかったら……)
愛想がいい方ではないエドゥアルドは、ユーディア以外には不機嫌なのかと疑われるほどにこりともしない。だからこそ彼が自分を特別扱いしてくれているようで、内心嬉しくてしょうがなかった。
だが今、けんもほろろに追い返されたら、寂しくて途方もなく落ち込んでしまうだろう。ひっそり泣いてしまうかもしれない。ユーディアは中に入ろうか入るまいかこの期に及んで逡巡しながらブラブラと籠を振り回していた。
すると後ろから優しくぽんっと肩を叩かれた。
「ひやっ!」
「すまん。やはりユーディアか。ここで何してる?」
皮肉気に唇を歪めて笑うと、ユーディアは俯いた。
ロイは真ん丸な目を細めて、慰めるようにユーディアの肩に手を置いてきた。
「確かにエドゥアルドは『ここで目的を叶えるまで故郷には戻らない。自分の力で必ずやり遂げたい』そう言ってたよな」
「そうだ」
「これからも傍に居続けたい人がいるからこそ、余計に自分の足で立ちたいんだろうと俺はおもうけどな」
そうロイはごにょごにょと続けて小さく呟き、フードの影の奥に潜むユーディアの優美な顔を見上げた。だがユーディアはお決まりの物思いに浸ってしまったようで聞いていないようだ。
(かっこいいよな、エドゥアルド。故郷を離れてこっちに来て、王都で自分の力を試して生きて行こうとしてる。ああいうとこ、すごく憧れる)
眩しい存在だった彼の傍に居られなかったこの半年、寂しくて切なくて堪らなかった。だけど自分から彼の元へ出向く勇気も出なかった。構内で見かけると目で追ってしまい、食堂では常に彼が目に入る位置に後から座った。だけど声はかけられなかった。
(嫌いだって態度をはっきり取られたら、流石に凹んで立ち直れない)
「……とりあえずリリーはエドを誘って上花会で華々しく踊れればいいみたいだから、それとなく誘導してみる。あんな人だけど、一応姉だからさ。リリーには明るく幸せにしていて欲しいんだよ。機嫌悪いと怖いし。色々ありがとう。エドを探しに行ってくる」
「エドゥアルドなら多分、温室にいるかも。僕ちょっと前に、温室に向かう彼に会ったんだよね。育ててた希少な花が咲そうだから一晩見守るって」
「花が、咲く……」
ユーディアはその言葉を噛み締めるように呟くと何かを決心した顔つきになった。
「俺、差し入れ持って行ってみる」
「ユーディア、あのさあ」
言うないなや、話を最後まで聞くこともなく、ユーディアはフードが取れるほど勢いよく立ち上がると、細い白金の巻き毛をフワフワさせながら走り去って行った。
「エドゥアルドの家系って歴史を紐解くと凄い反転魔法の使い手なんだけど、そういう相手に読心魔法使うとどうなるんだろう。すごく興味深い」
※※※
(食堂のおばさんにミートパイと果物と果実酒分けて貰えた)
ユーディアは日頃、金属をピカピカに磨きあげる得意の魔法で、食堂のおばさん達にとても重宝されている。その感謝の印が焼きたてのパイに変身した。食欲をそそる香りの立てる籠を手に意気揚々と歩いて来たが、日が傾き薄暗くなった植物園の前に来ると緊張から足が止まってしまった。
(なんて声掛けよ、久しぶりすぎて。もし、歓迎されなかったら……)
愛想がいい方ではないエドゥアルドは、ユーディア以外には不機嫌なのかと疑われるほどにこりともしない。だからこそ彼が自分を特別扱いしてくれているようで、内心嬉しくてしょうがなかった。
だが今、けんもほろろに追い返されたら、寂しくて途方もなく落ち込んでしまうだろう。ひっそり泣いてしまうかもしれない。ユーディアは中に入ろうか入るまいかこの期に及んで逡巡しながらブラブラと籠を振り回していた。
すると後ろから優しくぽんっと肩を叩かれた。
「ひやっ!」
「すまん。やはりユーディアか。ここで何してる?」
192
あなたにおすすめの小説
【完結】《BL》溺愛しないで下さい!僕はあなたの弟殿下ではありません!
白雨 音
BL
早くに両親を亡くし、孤児院で育ったテオは、勉強が好きだった為、修道院に入った。
現在二十歳、修道士となり、修道院で静かに暮らしていたが、
ある時、強制的に、第三王子クリストフの影武者にされてしまう。
クリストフは、テオに全てを丸投げし、「世界を見て来る!」と旅に出てしまった。
正体がバレたら、処刑されるかもしれない…必死でクリストフを演じるテオ。
そんなテオに、何かと構って来る、兄殿下の王太子ランベール。
どうやら、兄殿下と弟殿下は、密な関係の様で…??
BL異世界恋愛:短編(全24話) ※魔法要素ありません。※一部18禁(☆印です)
《完結しました》
記憶喪失になったら弟の恋人になった
天霧 ロウ
BL
ギウリは種違いの弟であるトラドのことが性的に好きだ。そして酔ったフリの勢いでトラドにキスをしてしまった。とっさにごまかしたものの気まずい雰囲気になり、それ以来、ギウリはトラドを避けるような生活をしていた。
そんなある日、酒を飲んだ帰りに路地裏で老婆から「忘れたい記憶を消せる薬を売るよ」と言われる。半信半疑で買ったギウリは家に帰るとその薬を飲み干し意識を失った。
そして目覚めたときには自分の名前以外なにも覚えていなかった。
見覚えのない場所に戸惑っていれば、トラドが訪れた末に「俺たちは兄弟だけど、恋人なの忘れたのか?」と寂しそうに告げてきたのだった。
※ムーンライトノベルズにも掲載しております。
トラド×ギウリ
(ファンタジー/弟×兄/魔物×半魔/ブラコン×鈍感/両片思い/溺愛/人外/記憶喪失/カントボーイ/ハッピーエンド/お人好し受/甘々/腹黒攻/美形×地味)
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
婚約破棄を提案したら優しかった婚約者に手篭めにされました
多崎リクト
BL
ケイは物心着く前からユキと婚約していたが、優しくて綺麗で人気者のユキと平凡な自分では釣り合わないのではないかとずっと考えていた。
ついに婚約破棄を申し出たところ、ユキに手篭めにされてしまう。
ケイはまだ、ユキがどれだけ自分に執着しているのか知らなかった。
攻め
ユキ(23)
会社員。綺麗で性格も良くて完璧だと崇められていた人。ファンクラブも存在するらしい。
受け
ケイ(18)
高校生。平凡でユキと自分は釣り合わないとずっと気にしていた。ユキのことが大好き。
pixiv、ムーンライトノベルズにも掲載中
嫌いなアイツと一緒に○○しないと出れない部屋に閉じ込められたのだが?!
海野(サブ)
BL
騎士の【ライアン】は指名手配されていた男が作り出した魔術にで作り出した○○しないと出れない部屋に自分が嫌っている【シリウス】と一緒に閉じ込められた。
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。
叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。
幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。
大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。
幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる