姉の婚約者の心を読んだら俺への愛で溢れてました

天埜鳩愛

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「君の故郷でしか咲かない、とても希少な花なんだろ? 見た人にずっと幸せをもたらす伝説がある。それを三年でここに根付かせて花まで咲かせるなんて。エドは本当に凄いな」
「俺の魔法の精度がだいぶ上がったから、生育が上手くいったのだろうとそう教授に言われた」
「土に含まれる栄養素を測定して同じように付加できるやつ? 君がその鍵を手に入れたって噂で聞いたから、そうじゃないかと思った。おめでとう。夢が一つ叶ったな」

 エドゥアルドが首から下げた鍵には大きな深い緑色の魔石が埋まっている。今後植物魔法の発展に寄与できると期待されているからだ。

「ああ、卒業に間に合った。これのおかげで王都で研究の職にありつけて、独り立ちできる自信がついた」
「そっか……」
「お前の鍵も、石がついてる。素晴らしいと思う」
「いや、小っちゃいし。例のあれ、元々家系的に得意だった奴。努力して欲しい能力を開花させたお前のが全然すごい」
「金属の状態を変化させられる魔法は使い方次第でまだまだ伸びる」

 ユーディアの鍵にも一応光をギラりと反射させる小さな黄色い魔石が付いている。
 それは先ほどの金属関連のあれで、特技とはいえ何となく地味だ。ユーディアは今のところまだ学校を出てからの行き先が決まっていない。とりあえず自分の家に身を寄せればよいと兄はいうが、姉のリリールーはともかく、自分まで好意に甘えられない。
 王都には実業家として未だ方々に顔が効く母方の祖父がいる。彼に頭を下げればそれなりの仕事にありつけそうだが、それでは祖父の命で兄に家督を譲らされ、早々に隠居させられた父親のように一族に振り回される人生を送ることになる。

(早く職を見つけて、俺も独り立ちしないとな。じゃないと婿としてどっかに売り飛ばされかねない)

 奥に進んでいくとガラス張りの建物が見えてきた。この中は更に大陸でも気温の高い地域の希少な植物を扱っている。 

「俺に続いてすぐに入ってくれ。防犯上、一瞬しか開かない」 
「分かった」

 扉の横に取り付けられていた獅子の頭を模した彫像の目が、ぎらりと光って二人を睨みつける。ごごっと扉が開く音がした。ユーディアはエドゥアルドの腕に抱えられるようにして身体を密着させると大きな一歩を同時に踏み出して中に入った。
 温室の中は下に水周りやテーブル、横になれそうな長椅子まで置いてある。このままここで暮らしていけそうな雰囲気だ。螺旋階段がガラスの壁伝いに配されてあり、高い位置から下がる植物も観察できるようになっている。   
 中央に配した小さな池は光る魔石で照らされ、紫やピンクの蓮の花が浮かび上がっていて幻想的な雰囲気を醸し出している。鉢に植えられた沢山の種類の植物にはそれぞれ名札が付けられている。それを見ずしてもお目当ての月光花がどれであるか分かった。

「エドが言ってた通りだ。あの花、月光を紡いだような色でふわふわしてる」
「ああ。まだ開花途中だ。もう少し大きく開く」

 無数に下がってきているふわふわの綿毛のじみた花が、少しずつ広がっているのが見て取れる。

「遠くから屋根だけしか見たことなかったけど、ここ、中はこんなに広くて立派なんだな」
「ここは毒にもなる薬草が多く栽培されているから、限られた人間しか入ることが許されていない」
「そうか。俺が入っても大丈夫だったのか?」
「君は石付きの鍵持ちだし。そもそも俺の同伴者として登録されている」
「そうなんだ……?」  

 納得したようなしていないような顔で小首を傾げたら、エドゥアルドは目元を少しだけ細めて笑う。

「ユーストレイビィアが咲いたら真っ先にお前に見せると約束してた」

 出会ったばかりの頃 、エドゥアルドは植物図鑑に描かれたユーストレイビィアの花を指でなぞりながら『この花は細い白金の綿毛のような花を咲かせて一晩で散る。お前の髪の毛みたいな色で綺麗なんだよ。本物を早く見せたい』そう言っていた。

「あの約束、覚えてくれてたんだ……。疎遠になったから忘れたかと思った」
「忘れるはずないだろ」
「でも花が咲くのは株が大きくなった、もっと十年ぐらい先のことかと思ってたから」
「だから今日、訪ねてきてくれたのかと思ったんだが、違うのか?」
「え、あ、う、うん。そうそう」
(違うし、まさか心を読みに来たなんてとても言えない!)
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