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「なんだか凄く贅沢な気持ちになるなあ。美味しいもの食べて、温かな場所で、長椅子に寝っ転がって、友達がすぐ傍に居てくれて……」
(まずい、このままじゃ眠ってしまう)
まだここに来た目的を一つも叶えていない。
ユーディアはポケットからあの魔石を取り出すと、エドゥアルドが書き物をしていると確認してから口に含んだ。特に何の味もするわけではないが、コロンと小さくて飴玉のように感じる。
(エドゥアルドの気持ちを確かめないと……)
だがどうしても瞼が重い。うとうとしていたらすぐ傍に人の気配がした。
「ユーディア、眠ったのか?」
ぼんやりした後、不意を突いて話しかけられた。とっさに探るようにエドゥアルドの手を掴む。そして酒で潤んだ上目遣いで親友を見上げた。
普段は人見知りのせいで周囲を警戒して強張る顔が、今はほんのり頬を染め無防備な顔になっている。それは姉をも凌ぐほどの艶美な美貌で、エドゥアルドは魅入られたようにユーディアをまじまじと見つめて返してきた。
「エドゥアルド。こうしてまた話ができて嬉しいよ」
声が震え、縋るような風情に色気が増す。エドゥアルドは何かに耐えるような顔つきになって傍らに跪くと、ユーディアの背中を抱き起した。
「ユーディア……」
『俺も嬉しい。お前の声が聞けて、久しぶりにこんなに近くでお前の顔が見られた。夢みたいだ。まるで月光花が起してくれた奇跡だ』
一気に目が覚めてユーディアは大きな瞳をぱちぱちさせてから内心にんまりと微笑んだ。
(本当に心が読めてる! すごい! 大成功だ)
一瞬エドゥアルドが喋っているのかと思ったが、寡黙な彼は唇を結んで押し黙り、頭の中では台詞が続いていた。
『ああ、お前は誰よりも綺麗だ。月光花の精霊が俺の元に来てくれたみたいだ』
(エドって心の中では沢山喋ってるんだな。俺が月光花の精霊だって。ロマンチックすぎやしないか?)
『この半年、たまに俺の方を見てくれていたよな? こんな風にじっと。可愛かったな。目が合うとそらされるのが切なかった』
(ああ、俺がこっそりエドのこと見てたの知ってたんだ。恥ずかしいな)
彼の顔を見ているのが照れくさくなる。でも心の声でも彼は噛み締めるようにぽつり、ぽつりと朴訥に喋るから、その調子は心地よくて、いつまでも聞いていたくなる。
『抱きしめたい、もっと触れたい』
ユーディアの背中に手を回したまま、もう一方の手がためらう様に長椅子の背を掴んでいる。彼の迷いに焦れ、ユーディアは自分の方から彼の胸にこてっと頭を預けた。
『ユーディア、俺のユーディア』
(俺のって、大袈裟だな)
「君、卒業の儀の後、上花の舞踏会に一緒に行く相手、もう決まってる?」
「いや、いない」
『お前は誰か、相手は決まっているのか? 誰なんだ。知りたい』
逆に心の声で問いかけられてしまう。必死な声に驚いてユーディアは頭を起こすと、彼から距離を取ろうとした。しかし逆にこちらからは振りほどけないほど強く手首を握り込まれてしまう。
『誰を誘ったと言いたくないのか』
「俺は誰も誘ってないよ」
「そうか」
手首を掴む力が少し緩んだ。
(一緒に行く相手が決まっていないなら、姉さんを誘うように誘導しないとだけど、そんなの上手く出来ないよ。やっぱりこれを使うしかないのかな)
ユーディアは長椅子と身体に挟まれていた方の手で、ポケットに忍ばせていた小瓶を探る。『相手を思うとおりに動かす薬』は先に果実酒と混ぜておいたから、折をみてカップに注ぎなおせばよいだけだ。
「なんだか凄く贅沢な気持ちになるなあ。美味しいもの食べて、温かな場所で、長椅子に寝っ転がって、友達がすぐ傍に居てくれて……」
(まずい、このままじゃ眠ってしまう)
まだここに来た目的を一つも叶えていない。
ユーディアはポケットからあの魔石を取り出すと、エドゥアルドが書き物をしていると確認してから口に含んだ。特に何の味もするわけではないが、コロンと小さくて飴玉のように感じる。
(エドゥアルドの気持ちを確かめないと……)
だがどうしても瞼が重い。うとうとしていたらすぐ傍に人の気配がした。
「ユーディア、眠ったのか?」
ぼんやりした後、不意を突いて話しかけられた。とっさに探るようにエドゥアルドの手を掴む。そして酒で潤んだ上目遣いで親友を見上げた。
普段は人見知りのせいで周囲を警戒して強張る顔が、今はほんのり頬を染め無防備な顔になっている。それは姉をも凌ぐほどの艶美な美貌で、エドゥアルドは魅入られたようにユーディアをまじまじと見つめて返してきた。
「エドゥアルド。こうしてまた話ができて嬉しいよ」
声が震え、縋るような風情に色気が増す。エドゥアルドは何かに耐えるような顔つきになって傍らに跪くと、ユーディアの背中を抱き起した。
「ユーディア……」
『俺も嬉しい。お前の声が聞けて、久しぶりにこんなに近くでお前の顔が見られた。夢みたいだ。まるで月光花が起してくれた奇跡だ』
一気に目が覚めてユーディアは大きな瞳をぱちぱちさせてから内心にんまりと微笑んだ。
(本当に心が読めてる! すごい! 大成功だ)
一瞬エドゥアルドが喋っているのかと思ったが、寡黙な彼は唇を結んで押し黙り、頭の中では台詞が続いていた。
『ああ、お前は誰よりも綺麗だ。月光花の精霊が俺の元に来てくれたみたいだ』
(エドって心の中では沢山喋ってるんだな。俺が月光花の精霊だって。ロマンチックすぎやしないか?)
『この半年、たまに俺の方を見てくれていたよな? こんな風にじっと。可愛かったな。目が合うとそらされるのが切なかった』
(ああ、俺がこっそりエドのこと見てたの知ってたんだ。恥ずかしいな)
彼の顔を見ているのが照れくさくなる。でも心の声でも彼は噛み締めるようにぽつり、ぽつりと朴訥に喋るから、その調子は心地よくて、いつまでも聞いていたくなる。
『抱きしめたい、もっと触れたい』
ユーディアの背中に手を回したまま、もう一方の手がためらう様に長椅子の背を掴んでいる。彼の迷いに焦れ、ユーディアは自分の方から彼の胸にこてっと頭を預けた。
『ユーディア、俺のユーディア』
(俺のって、大袈裟だな)
「君、卒業の儀の後、上花の舞踏会に一緒に行く相手、もう決まってる?」
「いや、いない」
『お前は誰か、相手は決まっているのか? 誰なんだ。知りたい』
逆に心の声で問いかけられてしまう。必死な声に驚いてユーディアは頭を起こすと、彼から距離を取ろうとした。しかし逆にこちらからは振りほどけないほど強く手首を握り込まれてしまう。
『誰を誘ったと言いたくないのか』
「俺は誰も誘ってないよ」
「そうか」
手首を掴む力が少し緩んだ。
(一緒に行く相手が決まっていないなら、姉さんを誘うように誘導しないとだけど、そんなの上手く出来ないよ。やっぱりこれを使うしかないのかな)
ユーディアは長椅子と身体に挟まれていた方の手で、ポケットに忍ばせていた小瓶を探る。『相手を思うとおりに動かす薬』は先に果実酒と混ぜておいたから、折をみてカップに注ぎなおせばよいだけだ。
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