12 / 22
12
しおりを挟む
だが気が進まない。第一ロイが作ったとはいえ、安全性が分からない魔力のこもった薬を大切な友に飲ませてよいものなのか。そして彼にとって思い入れのある、故郷の酒をこんな風に使うことにも抵抗を覚えた。そんな不実なことをしたら、もう今後彼を真っ直ぐに見られる自信が無い。
(ああ、やっぱり俺には無理だ。正直に話して、口裏を合わせるしか……)
「あのさ、エドは誰か申し込みたい相手がいるの?」
「ユーディアそれは……」
『お前も俺と一緒に上花会に行きたいってことなのか? 俺を誘っている?』
「へ、あ?」
『嬉しい。俺はお前と上花会に行きたかった』
一瞬頭がついて行かれなくて、頭の中で今までの話の流れを確認しようと、ぐるぐると会話を反芻してしまう。
(ええ、もしかして。エドゥアルド、俺から申し込まれていると思ってる? どうしよう)
困ったけど、ぶわあっと熱いものが胸の中にこみ上げてくる。
(エドゥアルド、俺の事嫌いになったわけじゃないんだ。上花会に一緒に行きたい、相手になりたいって思ってくれるほどには、俺の事好きなんだ)
「え、あ、あの……」
すっかり動転して、また言葉が上手く出ない。だから大きく息を吸おうと口を開けた拍子にあろうことか、魔石をこくんっと飲み込んでしまったのだ。
「うわあ! まずい! 飲み込んだ」
「大丈夫か? 何を飲み込んだ? 」
『何をだ? まさかここの植物か? それともさっきの果物のどれかか?』
「違うけど、どどどど……、どうしよう。どうしよう。魔石飲み込んじゃった」
「魔石?」
『なんでそんなものを口の中に入れてたんだ?』
「だってそりゃ、君の……、ってあ」
(し、しまった……、今喋ってない方の声に返事してしまったかも。エドゥアルド無口だからどっちが喋ってる方か心の声か分かりくい)
「ご、ごめん。俺、とりあえず、ちょっと、もう、寮に帰る」
逃げようとソファーの上から転がり降りたが、手首をしっかりと掴まれていたため、鎖につながれた犬のようにジタバタしてしまった。
「逃がすか!」
そのまま腰を攫うように片腕で持ち上げられる。流石武芸の達人な上、土や植物相手に鍛えた男は逞しい。そのままどかっとソファーに座ったエドゥアルドの膝の上に向かい合わせに抱きかかえられてしまった。
「どういうことなんだ? ユーディア。素直に白状しろ」
『何を隠してるんだ? 様子がおかしい』
膝に載ってもまだ少し視線が高い。覗き込んでくる賢そうな深い紺碧の瞳に身を竦ませ、口をぐっと噤む。
「な、なんでもない。ねぼけただけだ……」
『そっちがそういう態度にでるなら、俺にも考えがある』
探るような「声」に思わず反応してしまった。
「え、何すんの? 怖い、あ、しまった……」
「ユーディア? お前、俺の心を読んでるだろ」
(察しが良すぎる! そうだった。エドはいつも俺の行動を先回りしてなんでも手伝ってくれようとする、そんな奴だった)
「よ、読めるわけないだろ。そんな高等魔法、俺ができるか?」
「怪しいな? お前にはロイがついてる」
「う……」
顔をぷいっと背けたら、心の中の声すら低く色っぽくエドゥアルド囁いた。
『じゃあ、これからお前にキスするが、いいか?』
「え!」
思わず戒められていない方の手で唇を隠したら、悪辣だが魅力的な顔でにやりと笑われた。
「は、はめたな」
「ほらな。俺の心を読んでる。素直に白状した方が身のためだぞ?」
唇を突き出すようにつんと噤んで、ユーディアはだんまりを決め込もうとした。日が落ちた後の温室の外は真っ暗闇だが、花と作業台を照らしている灯りでお互いの顔はよく見える。エドゥアルドは眉を寄せ、『仕方がないな』と心の声でそう吐き捨て綺麗な双眸を閉じた。
(ああ、やっぱり俺には無理だ。正直に話して、口裏を合わせるしか……)
「あのさ、エドは誰か申し込みたい相手がいるの?」
「ユーディアそれは……」
『お前も俺と一緒に上花会に行きたいってことなのか? 俺を誘っている?』
「へ、あ?」
『嬉しい。俺はお前と上花会に行きたかった』
一瞬頭がついて行かれなくて、頭の中で今までの話の流れを確認しようと、ぐるぐると会話を反芻してしまう。
(ええ、もしかして。エドゥアルド、俺から申し込まれていると思ってる? どうしよう)
困ったけど、ぶわあっと熱いものが胸の中にこみ上げてくる。
(エドゥアルド、俺の事嫌いになったわけじゃないんだ。上花会に一緒に行きたい、相手になりたいって思ってくれるほどには、俺の事好きなんだ)
「え、あ、あの……」
すっかり動転して、また言葉が上手く出ない。だから大きく息を吸おうと口を開けた拍子にあろうことか、魔石をこくんっと飲み込んでしまったのだ。
「うわあ! まずい! 飲み込んだ」
「大丈夫か? 何を飲み込んだ? 」
『何をだ? まさかここの植物か? それともさっきの果物のどれかか?』
「違うけど、どどどど……、どうしよう。どうしよう。魔石飲み込んじゃった」
「魔石?」
『なんでそんなものを口の中に入れてたんだ?』
「だってそりゃ、君の……、ってあ」
(し、しまった……、今喋ってない方の声に返事してしまったかも。エドゥアルド無口だからどっちが喋ってる方か心の声か分かりくい)
「ご、ごめん。俺、とりあえず、ちょっと、もう、寮に帰る」
逃げようとソファーの上から転がり降りたが、手首をしっかりと掴まれていたため、鎖につながれた犬のようにジタバタしてしまった。
「逃がすか!」
そのまま腰を攫うように片腕で持ち上げられる。流石武芸の達人な上、土や植物相手に鍛えた男は逞しい。そのままどかっとソファーに座ったエドゥアルドの膝の上に向かい合わせに抱きかかえられてしまった。
「どういうことなんだ? ユーディア。素直に白状しろ」
『何を隠してるんだ? 様子がおかしい』
膝に載ってもまだ少し視線が高い。覗き込んでくる賢そうな深い紺碧の瞳に身を竦ませ、口をぐっと噤む。
「な、なんでもない。ねぼけただけだ……」
『そっちがそういう態度にでるなら、俺にも考えがある』
探るような「声」に思わず反応してしまった。
「え、何すんの? 怖い、あ、しまった……」
「ユーディア? お前、俺の心を読んでるだろ」
(察しが良すぎる! そうだった。エドはいつも俺の行動を先回りしてなんでも手伝ってくれようとする、そんな奴だった)
「よ、読めるわけないだろ。そんな高等魔法、俺ができるか?」
「怪しいな? お前にはロイがついてる」
「う……」
顔をぷいっと背けたら、心の中の声すら低く色っぽくエドゥアルド囁いた。
『じゃあ、これからお前にキスするが、いいか?』
「え!」
思わず戒められていない方の手で唇を隠したら、悪辣だが魅力的な顔でにやりと笑われた。
「は、はめたな」
「ほらな。俺の心を読んでる。素直に白状した方が身のためだぞ?」
唇を突き出すようにつんと噤んで、ユーディアはだんまりを決め込もうとした。日が落ちた後の温室の外は真っ暗闇だが、花と作業台を照らしている灯りでお互いの顔はよく見える。エドゥアルドは眉を寄せ、『仕方がないな』と心の声でそう吐き捨て綺麗な双眸を閉じた。
253
あなたにおすすめの小説
【完結】《BL》溺愛しないで下さい!僕はあなたの弟殿下ではありません!
白雨 音
BL
早くに両親を亡くし、孤児院で育ったテオは、勉強が好きだった為、修道院に入った。
現在二十歳、修道士となり、修道院で静かに暮らしていたが、
ある時、強制的に、第三王子クリストフの影武者にされてしまう。
クリストフは、テオに全てを丸投げし、「世界を見て来る!」と旅に出てしまった。
正体がバレたら、処刑されるかもしれない…必死でクリストフを演じるテオ。
そんなテオに、何かと構って来る、兄殿下の王太子ランベール。
どうやら、兄殿下と弟殿下は、密な関係の様で…??
BL異世界恋愛:短編(全24話) ※魔法要素ありません。※一部18禁(☆印です)
《完結しました》
記憶喪失になったら弟の恋人になった
天霧 ロウ
BL
ギウリは種違いの弟であるトラドのことが性的に好きだ。そして酔ったフリの勢いでトラドにキスをしてしまった。とっさにごまかしたものの気まずい雰囲気になり、それ以来、ギウリはトラドを避けるような生活をしていた。
そんなある日、酒を飲んだ帰りに路地裏で老婆から「忘れたい記憶を消せる薬を売るよ」と言われる。半信半疑で買ったギウリは家に帰るとその薬を飲み干し意識を失った。
そして目覚めたときには自分の名前以外なにも覚えていなかった。
見覚えのない場所に戸惑っていれば、トラドが訪れた末に「俺たちは兄弟だけど、恋人なの忘れたのか?」と寂しそうに告げてきたのだった。
※ムーンライトノベルズにも掲載しております。
トラド×ギウリ
(ファンタジー/弟×兄/魔物×半魔/ブラコン×鈍感/両片思い/溺愛/人外/記憶喪失/カントボーイ/ハッピーエンド/お人好し受/甘々/腹黒攻/美形×地味)
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
婚約破棄を提案したら優しかった婚約者に手篭めにされました
多崎リクト
BL
ケイは物心着く前からユキと婚約していたが、優しくて綺麗で人気者のユキと平凡な自分では釣り合わないのではないかとずっと考えていた。
ついに婚約破棄を申し出たところ、ユキに手篭めにされてしまう。
ケイはまだ、ユキがどれだけ自分に執着しているのか知らなかった。
攻め
ユキ(23)
会社員。綺麗で性格も良くて完璧だと崇められていた人。ファンクラブも存在するらしい。
受け
ケイ(18)
高校生。平凡でユキと自分は釣り合わないとずっと気にしていた。ユキのことが大好き。
pixiv、ムーンライトノベルズにも掲載中
嫌いなアイツと一緒に○○しないと出れない部屋に閉じ込められたのだが?!
海野(サブ)
BL
騎士の【ライアン】は指名手配されていた男が作り出した魔術にで作り出した○○しないと出れない部屋に自分が嫌っている【シリウス】と一緒に閉じ込められた。
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。
叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。
幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。
大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。
幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる



