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番外編
7 世界が君に気づいた日-3
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☆北門視点です。
ドアモニターに映っていたのはエントランスに佇む燈真先輩の姿だった。
『こ、こんにちは。ごめん……。勝手に来た』
そう言ったきり、なんか居心地悪そうな感じで先輩は下を向いた。
『あの……、邪魔だったら、帰る』
「あっ、上がってください。お願いします!」
(帰らせてたまるか!)
俺は必死にエントランスの扉を開いた。
(あああ、先輩が来た。嬉しい、嬉しいけど)
くしゃくしゃの髪を両手でさらに乱す。
部屋の中はそもそも、父も自分も散らかす方ではないので人を上げても大して問題はない。
(こんな寝起きの姿、とても先輩に見せられない)
慌てすぎて廊下に出る前に扉の端に小指を打ち付けてしまった。
「うっ……」
地味にひどいダメージに呻いている場合ではない。リビングダイニングの隣にある自室に戻り、とりあえず寝巻代わりのくたくたのTシャツを脱ぎ捨て、クローゼットの端にかかっていた黒いTシャツを頭からかぶる。
下はもう部屋着の灰色のスウェットでよしとした。そのまま部屋を出て廊下のすぐ隣にある洗面所に駆け込んで顔をバシャバシャと洗う。もっと丹念に洗いたかったが時間がない。一通り顔のチェック。
寝起き感はあまりないが、唇がかさついているし、目ヤニなんてついてるところを先輩に見られたら死んでしまう。もう一度顔を良く洗って、保湿液を付けた。口はいつものリップバウム。髪も濡らして整髪料をつけてボリュームを抑えた。
それでなんとかましになった。廊下をかけて、玄関前でベルが鳴るのを今か今かと胸を抑えながら待つ。
玄関の呼び鈴が鳴った瞬間、俺は扉をゆっくりと開けた。
「先輩、いらっしゃい」
余裕ありげな、声を必死で出した。
先輩は、なんというか……。すごい荷物だった。
大きなリュックを背負い、紙袋を両手に下げてる。そう、控えめに言ってこれは……。
先輩は頬を擦りながら、照れくさそうな顔を下。
「あはは、家でもするのかって、駅前でバスに乗る前に職務質問されちゃったよ」
「どうぞ。中入ってください」
心臓が高鳴る。先輩がうちに来たのは初めてじゃないけど、だけどなんだかすごく緊張をするのは夢見が悪かったせいだろう。
「お邪魔します」
まずは部屋ではなくて、リビングに通した。
「お前、体調大丈夫なのか?」
「体調?」
「ほら、声今もかすれてる。顔いろは思ったよりよさそうだけど」
先輩が俺の頬を指先で撫ぜる。上目遣いに見つめる目が、心配げに揺れてる。
指摘されるまで自分の声がざらついていることに気が付かなかった。「失礼します」と誰とはなしに声をかけてから、リュックを下ろす。続けてローテーブルの上に色々と品物を取り出していった。
「四次元ポケットみたいですね」
「あー。うん。母さんに聞いて色々持ってきたんだよね。腹減ってるよな? これちょっと整理したらご飯用意するから。お前そこ座って」
リュックの外側についていた小さなポケットから、先輩は体温計を取り出した。その後続けて、経口補水液、麦茶、レトルトお粥のパック、レジ袋からはプリン、林檎。紙袋から出してきたのはアルミホイルで包まれた真ん丸の塊、プラスチック容器の中にはゆで卵と肉を煮たようなものも見えた。
目を見張る俺の前に、先輩が体温計を差しだす。
「まずこれ、お前熱測ってみ」
「あ……。ええ」
体温計はもちろんうちにもあるが、持参してきた。
テーブルの上いっぱいに広げられたグッズは明らかに病人を看病するためにグッズで……、俺は一生懸命な先輩の背中を見て涙が滲みそうになってしまった。
「ぐ、具合悪そうなら。俺。今日ここ、泊まってくからな」
(な、なんだって?!)
ドアモニターに映っていたのはエントランスに佇む燈真先輩の姿だった。
『こ、こんにちは。ごめん……。勝手に来た』
そう言ったきり、なんか居心地悪そうな感じで先輩は下を向いた。
『あの……、邪魔だったら、帰る』
「あっ、上がってください。お願いします!」
(帰らせてたまるか!)
俺は必死にエントランスの扉を開いた。
(あああ、先輩が来た。嬉しい、嬉しいけど)
くしゃくしゃの髪を両手でさらに乱す。
部屋の中はそもそも、父も自分も散らかす方ではないので人を上げても大して問題はない。
(こんな寝起きの姿、とても先輩に見せられない)
慌てすぎて廊下に出る前に扉の端に小指を打ち付けてしまった。
「うっ……」
地味にひどいダメージに呻いている場合ではない。リビングダイニングの隣にある自室に戻り、とりあえず寝巻代わりのくたくたのTシャツを脱ぎ捨て、クローゼットの端にかかっていた黒いTシャツを頭からかぶる。
下はもう部屋着の灰色のスウェットでよしとした。そのまま部屋を出て廊下のすぐ隣にある洗面所に駆け込んで顔をバシャバシャと洗う。もっと丹念に洗いたかったが時間がない。一通り顔のチェック。
寝起き感はあまりないが、唇がかさついているし、目ヤニなんてついてるところを先輩に見られたら死んでしまう。もう一度顔を良く洗って、保湿液を付けた。口はいつものリップバウム。髪も濡らして整髪料をつけてボリュームを抑えた。
それでなんとかましになった。廊下をかけて、玄関前でベルが鳴るのを今か今かと胸を抑えながら待つ。
玄関の呼び鈴が鳴った瞬間、俺は扉をゆっくりと開けた。
「先輩、いらっしゃい」
余裕ありげな、声を必死で出した。
先輩は、なんというか……。すごい荷物だった。
大きなリュックを背負い、紙袋を両手に下げてる。そう、控えめに言ってこれは……。
先輩は頬を擦りながら、照れくさそうな顔を下。
「あはは、家でもするのかって、駅前でバスに乗る前に職務質問されちゃったよ」
「どうぞ。中入ってください」
心臓が高鳴る。先輩がうちに来たのは初めてじゃないけど、だけどなんだかすごく緊張をするのは夢見が悪かったせいだろう。
「お邪魔します」
まずは部屋ではなくて、リビングに通した。
「お前、体調大丈夫なのか?」
「体調?」
「ほら、声今もかすれてる。顔いろは思ったよりよさそうだけど」
先輩が俺の頬を指先で撫ぜる。上目遣いに見つめる目が、心配げに揺れてる。
指摘されるまで自分の声がざらついていることに気が付かなかった。「失礼します」と誰とはなしに声をかけてから、リュックを下ろす。続けてローテーブルの上に色々と品物を取り出していった。
「四次元ポケットみたいですね」
「あー。うん。母さんに聞いて色々持ってきたんだよね。腹減ってるよな? これちょっと整理したらご飯用意するから。お前そこ座って」
リュックの外側についていた小さなポケットから、先輩は体温計を取り出した。その後続けて、経口補水液、麦茶、レトルトお粥のパック、レジ袋からはプリン、林檎。紙袋から出してきたのはアルミホイルで包まれた真ん丸の塊、プラスチック容器の中にはゆで卵と肉を煮たようなものも見えた。
目を見張る俺の前に、先輩が体温計を差しだす。
「まずこれ、お前熱測ってみ」
「あ……。ええ」
体温計はもちろんうちにもあるが、持参してきた。
テーブルの上いっぱいに広げられたグッズは明らかに病人を看病するためにグッズで……、俺は一生懸命な先輩の背中を見て涙が滲みそうになってしまった。
「ぐ、具合悪そうなら。俺。今日ここ、泊まってくからな」
(な、なんだって?!)
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