仄暗い灯が迷子の二人を包むまで

霞花怜

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第Ⅳ.5章 番外:仄暗R18アンソロジー『温かな暗がりが愛する二人を包む夜』

Cp7.護×直桜『唯一の魔酒⑧(護目線)』

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 13課組対室に戻った護と紗月が見た光景は、絶対に有り得ない現実だった。
 清人が直桜を抱きかかえて、濃厚なキスを交わしている。
 しかも、そんな二人を忍が那智と四季と共に呆然と眺めている。

「遅かったか……。ん?」

 護と紗月の気配に気が付いた忍が、静かにしろと言わんばかりに人差し指を口元に当てた。

「どうして、清人さんと直桜が。浄化できなかったんですか? 何故、止めないんですかぁ!」

 もはや泣きながら、護は忍に縋った。
 そんな護を気の毒そうに眺めながら、忍が首を振った。

「俺の所で満足できなかったせいで、直桜の中に欲求不満が溜まったらしい。藤埜に浄化してもらうつもりだったんだが、その前に直桜の神力と媚薬にやられた。すまん」

 忍の説明に、紗月が納得していた。

「相手の限界ギリギリまで神力流し込まないと気がすまないっぽいよね。清人相手じゃ、直桜も枯れちゃうんじゃないの?」

 13課きっての神力量を誇る清人に限界ギリギリまで神力を送ったら、確かに直桜もカラカラに枯れてしまう。

「どうしたらいいんですか。どうしてこうなってしまったんですか。ごめんなさい、直桜ぉ」

 崩れ落ちる護の肩を、那智がさすってくれた。

「惟神がいれば浄化できるんだが、今、動ける惟神がいないんだ。瑞悠の帰りを待つしかない」

 律は木札配りで歩いているし、修吾は仕事に出ている。
 智颯は既に直桜の餌食になっているし、清人は現在進行形で喰われている。
 紗月がスマホを取り出した。

「瑞悠ちゃんにメッセ入れとくか」

 そうこうしている間にも、清人が直桜の服の中に手を入れて、後ろの口を弄り始めた。
 立ち上がり直桜に伸びた護の腕を、忍が止めた。

「二人を引き離してはいけないんですか。私が相手をしてはダメなんですか?」

 忍に掴みかかる勢いで迫る。
 困った顔をして、忍が言い淀んだ。

「俺も途中で引き剥がしてしまったんだが、その後の直桜が、な。泣きながら神力を放出していた。仕方なく四季に抑え込んでもらったが、離せばまた同じ状態になる」
「すぐに私が抱けば、放出せずに私に神力が流れます」

 神紋を持つ護に神力が流れ込めば直桜に返してやれる。
 護の提言に、忍が冴えない顔をする。

「問題ないかもしれんが、今回は直桜の中でターゲットが決まっているのかもしれん。本人はあくまで祝福を与えているつもりでいるようだからな」
「じゃぁ、ターゲットって、祝福を与える相手、ですか?」

 忍が頷いた。
 だとすれば、残りはもう清人だけだ。

「藤埜が満たされれば直桜も満足して落ち着くはずだ。耐えてくれ」

 申し訳なさそうな顔で忍に肩を叩かれてしまった。
 清人に後ろの口を刺激されて善がる直桜を見続けるのは、辛い。
 舌を吸い合って体を擦り合わせる二人を見ていられずに、護は顔を手で覆った。
 そんな護を四季が隠すように胸に抱いた。

「全部、私が悪いけど、こんなのはあんまりです」
「護は悪くないと思うが、人の世では時々、理不尽が起きる。泣いてもいいぞ」

 泣いていいと言われると、かえって泣けないものだ。
 護は四季の胸に縋った。

「やば……、イきそ……」

 清人の悦った声が聞こえて、思わず振り向いてしまった。
 首元から神力を流し込まれた清人の目が、すでにイっている。

「あんなに流し込んだら、清人さんでもおかしく……」

 首元は神力や霊力が表在的に流れやすい場所だ。
 紗月が開と閉の霊力を首元で確認していたのも、その為だ。
 鬼神の本能で神力を吸う時も、首元から吸い上げる。

 清人の指が、直桜の中を激しく弄る動きをした。
 直桜の顎が上がって、快楽に溢れた顔が顕わになった。

「ぁぁ! 中、ぃぃっ、イっちゃうっ」

 他人にされている時でも、直桜のイキ顔が可愛い。
 そんな風に思ってしまう己を呪う。

 エレベーターの扉が開いた気配がして、瑞悠と保輔が駆け込んできた。

「水の清め!」

 叫んだ瑞悠の手から水の塊が飛んだ。
 清人と直桜の真上から水の神力が雨のように降り注ぐ。

「ぁ……」

 がっくりと項垂れた清人が、直桜を抱いていた腕をだらりと降ろした。

「清人、大丈夫?」

 紗月が歩み寄り、首元で神力や脈を確認する。
 四季から離れて、護は直桜に駆け寄った。

「直桜、直桜! 大丈夫ですか、わかりますか?」

 紗月に倣って直桜の首元に触れる。神力が弱っているのを感じた。
 この短時間で六人に大量の神力を分け与えたのだから、無理もない。

「直桜さん、護さん、ほんま、ごめん。こんな風になるとは、思わなかってん」

 直桜の背中に手を当てて、保輔が強化術を送り込んでくれていた。
 うっすらと目を開いていた直桜が、目を閉じた。
 清人に凭れ掛かったまま、静かに寝息を立て始めた。

「私がいけなかったんです。保輔君に貰った媚薬、ちゃんと管理できていなかったから」

 直桜に抱き付いて、護は泣きそうな声をあげた。

「いや、それな、多分ちゃうねん」

 保輔が気まずそうに目を逸らした。

「悪いんは多分、俺や。護さんは何も悪ない」
「……へ?」

 保輔が申し訳なさそうに俯いた。

「今朝、直桜さんに、手のひらサイズの小瓶知らんかって聞かれてん。てっきり護さんに渡した媚薬やと思うてん。で、同じのもう一個作ってあったから、それ渡したんよ。まさか、神倉さんの御神水、探してたとは思わんくて」
 
 保輔が土下座する勢いで護に頭を下げた。

「ほんまに、すんませんでした!」
「でもさぁ、仕方ないよ。今日が旧正月の神事の日で、直桜様が木札配るとか、梛木副班長の御神水とか、ヤスは知らなかったわけだし。朝から媚薬飲んじゃうとも思わないもんねぇ」

 瑞悠がフォローを入れている。
 確かにその通りだ。
 誰も悪くない。勘違いやすれ違いが起こした悲劇としか言いようがない。

「俺が使てる小瓶も、神倉さんがくれた小瓶なんよ。血魔術の酒の保管に使えってくれてな。だからきっと、御神水の小瓶と同じ規格で、直桜さんも疑わんかったのやと思うわ」

 保輔の話を聞きながら、前にも直桜がコーラとコークハイを間違って飲んでいたのを思い出した。
 そういう、ちょっとのボタンの掛け違いが起こした事故なんだと思った。

「そう、でしたか。保輔君は、悪くありません。誰も悪くない。直桜の神力は、人体に悪さもしません。問題は、ないです」

 淡々と言葉が滑り落ちる。
 問題があるとすれば、直桜の神力の回復と、貞操的な部分だ。

「清人は適当に寝かせとけば、そのうち起きると思うけど、直桜はどうする? 回復治療室、行く?」

 紗月に問われて、改めて考える。
 清人は直桜の神力を多く流し込まれただけだから、体に神力が馴染めば目を覚ます。
 直桜の方は治療した方が良いのかもしれないが、回復治療室は今、開と閉がダウン中だ。あまり迷惑もかけられない。
 護は自分の腹に手を当てた。

「いいえ、部屋で休ませます。私の神紋から神力を戻せば神力の回復も早いでしょうし、直日神がいてくれれば今日の内には回復しますから」

 護は改めて皆に向き直った。

「私が大騒ぎしたせいで、御迷惑をおかけして申し訳ありません。被害に遭われた皆様には後日、改めて直桜と謝罪に行こうと思います」

 思えばかなりの大騒ぎをしてしまったなと思う。
 ちょっとだけ恥ずかしかった。

「被害というほどの被害でもない。むしろ、一番疲弊したのは直桜だろう。直桜も化野も明日は休んでいいから、しっかり神力を回復させてやれ」

 忍に労われて、恥ずかしさが増した。

「最初から化野くんに内緒にしないで、一緒に行ってもらえばよかったよ。私と清人の判断も良くなかったね。もっと酷い結果になっちゃった」

 紗月に謝られて苦笑する。

「神事は、古ければ古いほど卑猥な行為を含むと、以前に直桜が教えてくれました。私も多少はそういう現実に向き合わねばいけませんね。今回は反省しました」

 薬指に口付ける程度、許容できていれば、清人も紗月も旧正月の神事を護に内緒にしたりしなかったんだろう。
 直桜に対して自分が潔癖すぎるのだと、思い知らされた。
 誰かに直桜が触れるのも、触れられるのも、絶対に嫌だ。
 けれど、必要な行為なら受け入れる自分の心の準備も必要だと前向きに検討できた一件だった。
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