私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ

もぐすけ

文字の大きさ
12 / 24

リンガでのディナー

しおりを挟む
 お昼は山頂で取る予定だったが、山賊の追撃の危険性があるため、昼食は携帯食を食べながら移動して、リンガの街まで急ぐことにした。

「シーファ様のおっしゃる通りでした。警戒はしてはいたのですが、人数が想像以上に多かったです」

「どれぐらいいたの?」

「十五、六人だと思います。しかも、かなりの手練で、苦戦しました。アンを助けて頂き、ありがとうございます。ブランからアンを守るよう指示を受けていたのですが、数人に囲まれてしまって、助けに行けませんでした。本当に助かりました」

「私はただ隠れていただけだから、ガガの手柄よ」

「ガガはシーファ様に蹴飛ばされたと言ってました」

「おほほほ、ガガったら、何か勘違いしているのよ」

「そうですね。勘違いでしょう。リンガに入ったら、私たちは冒険者組合に山賊発見の報告をしますので、シーファ様は宿でブランと食事をしながら、お待ちください」

「え? ブランと?」

「はい。報告にはフレグランス全員で行く必要があるんです。その間、シーファ様の警護はブランが行います」

***

 私たちは夕刻にリンガの宿に到着した。

 部屋割りはテントと同じだが、フレグランスの面々は、体を拭いて、着替えをした後、すぐに冒険者組合に出かけていった。

 私はブランと宿屋のレストランで待ち合わせた。

 宿屋はリンガで一番の高級宿で、レストランのドレスコードもそれなりに厳しかったため、私がドレスを着てレストランに入って行くと、正装に身を固めたブランが入り口で待っていて、私をエスコートしてくれた。

 私は思い出した。

 ブランが誰かに似ていると思ったら、帝国の皇帝サウザーに似ているのだ。

 私は若い頃にサウザーと面識があり、当時の彼の強引で積極的なアプローチに困惑した経験があった。

「ブラン、あなた、帝国の皇帝陛下に雰囲気がよく似ているわね」

「シーファ様、妙なことをおっしゃらないでください。シーファ様こそ、王国の王妃様に瓜二つですよ」

「そうね、お互い妙なことは言わないでおきましょう」

 私たちは席についた。

 ウェイターがワインリストをブランに見せている。

「シーファ様、リンガは港町で新鮮な魚介類がお勧めです。ロブスターはお好きですか?」

「ええ、お任せするわ」

「では、こちらのワインを頂きます。前菜はこちら、メインはこちらをお願いします」

 ウェイターにも丁寧に対応する彼の態度は非常に好ましかった。

「何を注文したの?」

「実はレストランのボーイに何が美味しいかを事前に聞いてまして、前菜はリンガフィッシュという小魚のマリネがいいということで、それを頼みました。メインは私のお勧めなんですが、リンガロブスターです。身が引き締まっていて、非常に美味なんです」

 ソムリエがワインを持って来た。

 白ワインをテイスティングするブランの格好が非常にサマになっている。

「ねえ、ブラン、あなた本当に十八歳なの? ワインにも詳しいみたいね」

「そんなことないです。ただ、私は本当にこのリンガロブスターが好きで、それに合うワインだけは詳しいのです。リーファ様にもきっと気に入っていただけると思います」

 ワインのエチケットを見たが、私の知らない産地のものだった。

「聞いたことのない産地だわ。あら、フルーティで飲みやすいのに、水っぽくなくて濃厚なのね。蜜のように舌に絡まってコクがあるわ」

「シーファ様、あなたこそ本当に十六歳ですか?」

「歳のことも言わないでおきましょう」

「そうですね。ありのままの二人でワインと食事を楽しみましょう」

 そう言って、ブランは私に軽くウィンクをした。

 ブランとの食事はとても楽しかった。

 彼は女性が興味を持ちそうな話題を豊富に持っていて、色々と話して聞かせてくれた。

 私は自分からはあまり話さない方なので、彼の静かで優しい話ぶりはとても心地よかった。

「明日、少し時間を作って、真珠を見に行きましょう。リンガは真珠が名産です。ささやかながら、今回のお礼に私からプレゼントさせてください」

 あ、最後だけ少し強引なのね。

「ええ、では、遠慮なく頂くわ。楽しみにしているわ」

 ウェイターがフレグランスの面々が帰って来たことをブランに伝えに来た。

「名残り惜しいですが、皆んなが帰って来たようです。今日はお時間頂き、ありがとうございました」

 そう言って、ブランは席を立ち、私を部屋までエスコートしてくれた。

 ニーナがドアを開けて、笑顔で迎えてくれる。

 ああ、人生ってこんなにも楽しいものだったのね。随分と長い間、忘れてしまっていたわ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

妖精のお気に入り

豆狸
ファンタジー
羽音が聞こえる。無数の羽音が。 楽しげな囀(さえず)りも。 ※略奪女がバッドエンドを迎えます。自業自得ですが理不尽な要素もあります。

最後のカードは、

豆狸
ファンタジー
『離縁』『真実の愛』『仮面の歌姫』『最愛の母(故人)』『裏切り』──私が手に入れた人生のカードは、いつの間にか『復讐』という役を形作っていました。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

【読切】魔帝結界術師は追放後の世界を謳歌する

暮田呉子
ファンタジー
結界魔法に特化した魔帝結界術師は役に立たないと勇者のパーティを追放される。 私は悲しみに暮れる……はずもなく!ようやく自由を手に入れたのだ!!※読み切り。

悪役令嬢は蚊帳の外です。

豆狸
ファンタジー
「グローリア。ここにいるシャンデは隣国ツヴァイリングの王女だ。隣国国王の愛妾殿の娘として生まれたが、王妃によって攫われ我がシュティーア王国の貧民街に捨てられた。侯爵令嬢でなくなった貴様には、これまでのシャンデに対する暴言への不敬罪が……」 「いえ、違います」

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

処理中です...