4 / 5
第一章
第一章ep.3 助五郎一家《スケゴロウいっか》と石《いし》
しおりを挟む
【煙草‐たばこ】
助五郎は、煙草《たばこ》の煙を避けるために後ずさった。
石が煙草の吹かすと、煙は助五郎めがけて飛んでいく。その度に、助五郎は退かなければならない。
「御主人、気を付けてくれ。着物に染み付いた煙草の臭いは、なかなか取れん。一生とは言わん。いまは、やめてくれないか?」
穏やかに話す言葉を、石は聞き流した。助五郎の顔色が変わり、静かな怒りが周囲に伝わって緊迫感が漂い始める。
...煙草・・・やめたらいいのにな
弦は、お茶を飲みながら石を見ていた。だんだんと、意固地になっていく様子が分かる。
...どうして、こんな時に意地を張るのかしらね?
と、弦は思った。
石は考えていた。
...やれやれ、どうすっかな?
(煙草の)煙で追っ払えたら良かったが、そんな簡単にはいかないらしい。
...そりゃそうだ、破落戸と云えど、虫じゃねえんだから
「聞こえてるのか? 御主人。わしは、やめろと言ったんだ! 耳が聞こえないのか!?」
助五郎の怒声に、周囲は静まり返る。石は、煙管から口を離し灰をコンコン! と地面に叩き落とした。
「どなたか存じませんが、御主人ってえのは、こそばゆいモノですな。だれかの主人と呼ばれるような人生を歩んでないもんで、あしの事とは気付きませんでしたが、御免なさいよ」
「じゃあ、お前はなんだ? この娘の主人じゃないのか?」
石は可笑しそうに、せせら嗤い、チガウチガウと手を振った。
「旦那は、なにか勘違いしておられる。夫に仕えるのが妻の役目と旦那は思われてるんでしょうが、糟糠の妻は堂より下さず(ともに苦楽を過ごした妻を粗略に扱ってはならない)と申しましてね」
「何を言っても旦那は、妻は夫の下と譲らない御人かもしれませんが、あしはね、苦楽をともしてきた妻に大変、感謝しております。旦那の考えを押し付けられるは迷惑千万ってね」
と言って、石は(煙管の)火皿に、刻みタバコを詰めた。
止める気のない石の様子に、助五郎は苛立ちを隠せない。
「御主人と呼んだだけなのに、ずいぶんな良いようだね。そんなにわしに喧嘩を売りたいか? わしが何者か分からずやってるなら、このバカ者が! 後悔する事になるぞ」
「御主人てぇ呼び方は、いま草っ原から鳴いて飛びあがった鳶のように、どこかに飛んで行っちまったかのかな? 御主人の次はバカ者ですかい? 腹の内で思っている事と口から出る言葉が違うってのがね。気持ち悪ぃって言ってるんですよ」
石は煙管を口に当てた。
...吸うんですか・・・
弦は心の中でツッコんだ。石の言う通り大切に想われてる気はするが、対等なことはない。毎日のように、一方的に面倒をかけられ苦労している弦《つる》の心に、石の言葉は響きはしなかった。
そんな弦の、背中を突き刺す視線を感じる。
...敵が多くね?
石は、助五郎の出方を待った。
もう一人の自分が、ここは上手くやり過ごすのがベストだと言っているが、助五郎の言葉にいちいち突っかかる、自分の物言いは止めらない。
...助五郎とはきっと前世からの因縁なんだろう、仲良くはなれそうもねえな・・・
助五郎から、真夏の太陽のような熱量が伝わって来た、それは見えなくても分かる。
...山一つ、吹っ飛ばしそうなほどの怒りだな
石は、そっと杖を持つ手に力を込めた。
【鬼造と石‐オニゾウといし】
「てめえ誰にモノを言ってるか、分かってるのか?」
野太い声がして、大男が石と助五郎の間に割って入った。身の丈・六尺(約182㎝)。この時代の平均身長が155㎝前後だから、いまで云えば身長二メートルの大男に感じるだろう。
熊のような体つきで、目の前に立たれると視界がその巨体で覆われる。
石の前に、四股を踏む力士のように中腰で構えると、顔をズッ! と前に出し、正面から石を睨む。並みの人間なら、それだけで震えあがったに違いない。
ずっと目を合わせようとせず顔を伏せている石を見た大男は、ほくそ笑み、顔を弦に向けた。
... 良い女だな。・・・あとが楽しみだ
蒲団のなかで、淫靡《いんび》な姿で自分に抱かれているその女を想像して、興奮する大男。その変態の妄想でアドレナリンは一気に上がり、鼻息荒く、石《いし》に向き直った。
「能書き垂れてんじゃねえぞ、バカ野郎! 多の屋の旦那さまが、困ってらっしゃるじゃねえか‼ てめえには、考える力がってもんがねえのか? オイ‼‼」
とブチギレた男の名を、鬼造という。
大八車を囲む男達は、その光景を見てニヤニヤ嗤っている。
...可哀想に、鬼造に目を付けられたらお終いだ。
男達は、鬼造に刃向かった奴らの事を思い浮かべた。奴らがどんな目に遭ったか? 鬼造の前に這いつくばり、「殺さないでくれ」と泣いて懇願する奴ら。その哀れな姿を何度も目にしてきた。
中年のどこにでもいるオヤジは、鬼造を前にして、完全に脅えたと男達は思った。そして男達は、大半の石を嘲る者と、少しの哀れに思う者とのふたつに分かれている。
「鬼造さん! さっさとカタをつけてくれよ」
ひとりが叫んだ。
「うるせえな。甥っ子だからって、俺に指図するんゃねえ!」
振り返った鬼造に睨まれ、男は黙り込んだ。
息がかかるまで鬼造が近づくと、空気を吸うのもつらいほど体臭がキツく感じられる。
... 酷え臭いだ
周囲からみれば、石は人喰熊の前に差し出された哀れな獲物でしかない。
すぐにでも喰い殺されそうな状況だが、獲物は自分の状況が分かってないのか? こなれた仕草で煙草入れに手を伸ばすと、火打石を取り出そうとしている。
中年のオヤジが、あまりに身の置かれた状況を把握してないのに気付いて、ニヤついていた男達は表情を変えた。
... こいつは脳が足りてねえ
これから殺されるかもしれない石を、助五郎が連れて来た連中全員が、憐れんでいた。
...このままでは、石さんは殺されてしまう・・・
鬼造の恐ろしさを、目の当たりにした事がある由は震えた。
...石さんは眼が見えないから、いまの状況が分かってない・・・
この状況が最悪になるのを止めることが出来るのは、助五郎しかいない。だが、助五郎と関わりたくないと強く思う自分が居て、由の中でせめぎ合っていた。
...でも、このままで、良いはずはない・・・
助五郎に頼み事をするのは気が重かったが、由には、なんの罪もない旅人を見殺しにする事も出来なかった。勇気を出して一歩、足を前に踏み出そうとする・・・その前に、
「!」
袖口を引かれ、振り向いた由。見ると、弦が自分の着物の袖を掴んでいた。
弦は、いつの間にか、腕の中に妙を引き寄せている。その視線は、石に注がれていた。
弦は、由に囁いた。
「いっさんなら大丈夫です。こんな人達には、負けませんから」
弦は鬼造の狂暴さを知らない。それを伝えようと思ったが、石を信じ切っている弦の表情を見ると、言葉が出なかった。
弦は、いまの状況に全く不安を感じてないようだ。落ち着いていて、さっきまで世間話をしていた弦と、なにも変わらない。その表情を見てると、不思議と由の心も落ち着いてきた。
だが、状況は好転しているわけではない。むしろ悪化している。
鬼造は、石が火打石を擦ろうとしているのに気付くと、煙管を奪い取ろうと手を伸ばした。その手を石は軽く掴んで、その巨体ごと下に引き落とす。
ドスゥン!
地面を揺らすような音がして、鬼造は両膝から崩れ落ちた。勢いあまって両手を地面につき、石の前で土下座するような四《よ》つん這いの恰好になる。
スルっと、石は鬼造の首根っこに、杖を当てた。すると、鬼造は両手両膝を地面に着けたまま、全く動かなくなった。
まわりからは、鬼造のうなじに、石が手を添えた杖が乗っているだけに見える。だが、その下の鬼造は真っ赤な顔で、ダラダラと汗を搔いていた。
周囲からどう見えていようが、いまの鬼造は、巨大な岩に押しつぶされて身動きできない孫悟空のように、指一本、動かせずにいた。
...俺に、いま、なにが・・・起きてるんだ?
鬼造は、水茶屋の腰掛けに座る若い女が、助五郎に「あちらで・・・夫が」と言った時、一瞬だけ、その中年男を羨んでしまった。
...なんで俺があんなしょぼくれた中年男を羨んでるんだ、クソ!
嫉妬と理不尽な怒りで、鬼造は男達の輪から出た。この勝負は最初から決まってる。退屈なゲームだが、勝てば中年男を少しでも羨んだ屈辱は晴らすことはできた。そして景品は、可愛い若い人妻。
...すんなり女房を差《さ》し出せば、一発で終わらせてやるか。もし無駄な抵抗をするなら、半殺にしてやる。まあ軽くても、俺に殴られれば、こんな中年男はあの世行きだろうがな
それが・・・、助五郎や仲間の前で、四つん這いの姿を晒している。生まれてはじめて『死にたい』と思った。
鬼造は、静かに藻掻いていた。
恥と焦りは、滝のような汗となって、止まることなく流れて、ボタボタと地面を濡らしていた。
...汗まで臭うのか、もう勘弁してくれ
石は、鬼造を放り投げて、どこかに逃げたい気分だったが、この状況ではそれもできない。
たっぷり二週間は汗を流してない、鬼造の身体から、ヘドロのような臭いを発する汗が滴り落ちる。足掻けば、足掻くほど、ヘドロ臭が強くなり、地面に汗の染みは広がっていった。
...跳ね返せねえ! クソ! 跳ね返せ! 俺に恥を掻かせたことを、この中年男に後悔《こうかい》させてやるんだ‼
鬼造は、心の内で自分を叱咤するが、まったく動かない鬼造の身体は、すでに『敗北』という二文字を受け入れていた。
【鬼の仙‐きのせん】
いまでこそ鬼造は、子毛で助五郎に買われ、用心棒のような仕事をしているが、江戸に居た頃は鬼の仙という四股名の、将来有望な力士だった。
鬼の仙は、江戸両国の勧進相撲興行で、圧倒的な力相撲で連勝を続けて、いずれ大関も夢じゃないと期待されていた力士だった。
その順風満帆《じゅんぷうまんぱん》に見えた相撲人生は、たった一日で終わる事になる。
ある日、部屋のみんなが集まる稽古場に遅れてやって来た鬼の仙を見て、師匠の引戸親方が言った。
「遅いやないか? 今までどこに行っとったんや」
鬼の仙はそれに答えず、無視して四股を踏み始めた。その姿を、引戸親方は苦々しい顔で見ながら話す。
「なあ、お前は勝ちすぎて天狗になっとるんやないか? ええか、いま勝てるのは角力の実力やのうて、生まれ持ったその身体のおかげやで。しっかり練習せい! 夜な夜な出かけてばかりで、まともに練習しとらんやないのか!」
鬼の仙は四股を終えると、引戸親方から目を反らして言った。
「・・・親方、俺は東の小結。親方は、西の方の小結だったんじゃないですか?」
「だからなんや?」
「もう、俺は親方を超えてるでしょう?(江戸時代の相撲番付では西より東が格上とされていた)」
引戸親方は血相を変えて、土俵に飛び降りた。
バシィ!!
袋竹刀で頭部を叩く激しい音がして、酷い叱責の言葉が飛ぶ。
引戸親方は、それでも怒りが収まらず、鬼の仙が頭を抱えて膝をついても、袋竹刀で打ち据えた。
「このアホウ! 小結まで成れたんは誰のおかげやと思っとるんや! ワシや稽古をつけた兄弟子、そして支えてくれる支援者の方々のおかげやないか! 思い上がるな!!」
引戸親方は、怒鳴り散らしまた殴りつけ、結局、見学に来ていた支援者や他の力士が止めて事は収まった。
鬼の仙=鬼造は、恨んだ。
大勢の稽古を見に来た観客と弟弟子たちの前で、格下の引戸から、酷い叱責を受けるという屈辱。
怪我を理由に、休むことが許されたあくる日の夜、鬼造は、引戸親方が愛妾の家から帰る所を待ち伏せた。
その夜、愛妾宅からの帰り道は月も無く真っ暗で、引戸親方は、弟子のひとりに行燈を持たせ、夜風にあたりながら悠々と帰っていた。
「鬼の仙の才能は申し分ないが、人様に対する感謝の念が足りてへん。ダメなとこはそこだけや。それさえ身に付ければ、あいつは東の大関(江戸時代の相撲の最高位)に成れる器なんや」
「はい。関取は、必ずそこまで上り詰める力士です」
「ははは。おまえは、鬼の仙に憧れてとるからな」
「はい、自分は関取に憧れて相撲を続けてます」
鬼造は、いきなり襲い掛かった。
物盗り(強盗)と見せかけ、引戸を動けない程度に痛めつけるつもりだったが、鬼造は自分の怪力の加減が分かってなかった。
狂ったように暴れた後、深夜の路上に横たわるのは、首をへし折られて白目を剥き倒れている|引戸親方と顔を踏みつぶされた弟弟子の死体。それも一番可愛がっていた弟弟子で、鬼造は、その遺体を前に呆然としていた。
どこかから悲鳴が聞こえ、鬼造は我に返ると、その場から逃げだした。どこにも行く事もなく、稽古にも行かず家に引き篭もった。いつか捕まるのではないかという恐怖と、可愛がっていた弟弟子を殺した後悔にさいなまれ、毎日酒を浴びた。
やがて事件の調べが終わり、物盗りの仕業と聞いて、鬼造は跳び上がって喜んだ。結果的に、小五月蠅い親方が居なくなったことで、自分に文句を言える者が居なくなり、稽古もそこそこに、毎日遊び惚けるようになった。
そして、ふと親方の愛妾のことを想った。
...ひとりきりじゃ、寂しいだろう
ある日の夜、鬼造は家に押し入って、愛妾を襲った。
愛妾は、殺されるかもしれないと云う恐怖に抵抗を諦め、されるがまま。それを、自分を受け入れたと勘違いした鬼造。事後に引戸親方を殺害したのは自分だと告白した。
「引戸親方のせいで、俺が可愛がっていた弟弟子が巻き添えになった。分かるだろ? おまえなら俺の寂しさが」
「ええ、分かるわ」
同調する振りをして身の安全を守った愛妾は、鬼造を心の底から軽蔑《けいべつ》し、許しはしなかった。そして、その話を別の愛人に打ち明ける。
話は廻《めぐ》って奉行所へ届き、鬼造は、江戸で指名手配となった。間一髪、奉行所の捕縛を逃れて江戸を脱出すると、鬼造は当てもなく西へと上った。
そして、江戸から京へと繋がる街道沿いの子毛に立ち寄った時に、助五郎と出会い、ここに居着くことになった。
鬼造の尋常ならざる怪力は、なんの役にも立っていない。
石の足下で、自分の身体が潰れないように耐えている。そんな鬼造を見て、男達は唖然としてる。
石は、空いている手で火打石を擦り、刻み煙草を燃やすと、吸うのではなくそのまま、コンコン! と地面に落とす。燻る火種は、鬼造の手の甲へとポトッと落ちた。
「ウ、ガ%ゲガガ$ガグぁガ!」
手の甲《こう》に乗った火種が、鬼造の手の甲を焼く。皮膚を焼かれ、激痛で身もだえするだけで、動けない鬼造は火種を払うことができない。そんな事はお構いなしに、石は煙管に刻み煙草を詰めて火をつけると、口に当てゆっくりと吸い込んで、ぷかりぷかりと煙を吐き出した。
吐き出した煙の輪は、今度は助五郎まで届いて、上昇すると丁度頭の上に乗っかった。それは、まるであの世に逝く人のように見えた。
【右馬‐ウマ】
「ええ加減にせえよ。鬼造! おまえ、何やっとんや」
大八車を囲む男達のなかから、またひとり出て来た。
スラリとした細身の役者のような顔に、洒落た紫の着流しで、長ドスをだらりと手に下げ、はだけた胸を掻きながら悠々と歩いてくる。
「ア、兄貴・・・」
「アホな義兄弟を持つと苦労するな。中年男、俺が相手したるから覚悟せえよ」
男は、長ドスを目の前で真一文字に持つと、腕に力を込めて、口角を上げながら石を睨んだ。
助五郎は、煙草《たばこ》の煙を避けるために後ずさった。
石が煙草の吹かすと、煙は助五郎めがけて飛んでいく。その度に、助五郎は退かなければならない。
「御主人、気を付けてくれ。着物に染み付いた煙草の臭いは、なかなか取れん。一生とは言わん。いまは、やめてくれないか?」
穏やかに話す言葉を、石は聞き流した。助五郎の顔色が変わり、静かな怒りが周囲に伝わって緊迫感が漂い始める。
...煙草・・・やめたらいいのにな
弦は、お茶を飲みながら石を見ていた。だんだんと、意固地になっていく様子が分かる。
...どうして、こんな時に意地を張るのかしらね?
と、弦は思った。
石は考えていた。
...やれやれ、どうすっかな?
(煙草の)煙で追っ払えたら良かったが、そんな簡単にはいかないらしい。
...そりゃそうだ、破落戸と云えど、虫じゃねえんだから
「聞こえてるのか? 御主人。わしは、やめろと言ったんだ! 耳が聞こえないのか!?」
助五郎の怒声に、周囲は静まり返る。石は、煙管から口を離し灰をコンコン! と地面に叩き落とした。
「どなたか存じませんが、御主人ってえのは、こそばゆいモノですな。だれかの主人と呼ばれるような人生を歩んでないもんで、あしの事とは気付きませんでしたが、御免なさいよ」
「じゃあ、お前はなんだ? この娘の主人じゃないのか?」
石は可笑しそうに、せせら嗤い、チガウチガウと手を振った。
「旦那は、なにか勘違いしておられる。夫に仕えるのが妻の役目と旦那は思われてるんでしょうが、糟糠の妻は堂より下さず(ともに苦楽を過ごした妻を粗略に扱ってはならない)と申しましてね」
「何を言っても旦那は、妻は夫の下と譲らない御人かもしれませんが、あしはね、苦楽をともしてきた妻に大変、感謝しております。旦那の考えを押し付けられるは迷惑千万ってね」
と言って、石は(煙管の)火皿に、刻みタバコを詰めた。
止める気のない石の様子に、助五郎は苛立ちを隠せない。
「御主人と呼んだだけなのに、ずいぶんな良いようだね。そんなにわしに喧嘩を売りたいか? わしが何者か分からずやってるなら、このバカ者が! 後悔する事になるぞ」
「御主人てぇ呼び方は、いま草っ原から鳴いて飛びあがった鳶のように、どこかに飛んで行っちまったかのかな? 御主人の次はバカ者ですかい? 腹の内で思っている事と口から出る言葉が違うってのがね。気持ち悪ぃって言ってるんですよ」
石は煙管を口に当てた。
...吸うんですか・・・
弦は心の中でツッコんだ。石の言う通り大切に想われてる気はするが、対等なことはない。毎日のように、一方的に面倒をかけられ苦労している弦《つる》の心に、石の言葉は響きはしなかった。
そんな弦の、背中を突き刺す視線を感じる。
...敵が多くね?
石は、助五郎の出方を待った。
もう一人の自分が、ここは上手くやり過ごすのがベストだと言っているが、助五郎の言葉にいちいち突っかかる、自分の物言いは止めらない。
...助五郎とはきっと前世からの因縁なんだろう、仲良くはなれそうもねえな・・・
助五郎から、真夏の太陽のような熱量が伝わって来た、それは見えなくても分かる。
...山一つ、吹っ飛ばしそうなほどの怒りだな
石は、そっと杖を持つ手に力を込めた。
【鬼造と石‐オニゾウといし】
「てめえ誰にモノを言ってるか、分かってるのか?」
野太い声がして、大男が石と助五郎の間に割って入った。身の丈・六尺(約182㎝)。この時代の平均身長が155㎝前後だから、いまで云えば身長二メートルの大男に感じるだろう。
熊のような体つきで、目の前に立たれると視界がその巨体で覆われる。
石の前に、四股を踏む力士のように中腰で構えると、顔をズッ! と前に出し、正面から石を睨む。並みの人間なら、それだけで震えあがったに違いない。
ずっと目を合わせようとせず顔を伏せている石を見た大男は、ほくそ笑み、顔を弦に向けた。
... 良い女だな。・・・あとが楽しみだ
蒲団のなかで、淫靡《いんび》な姿で自分に抱かれているその女を想像して、興奮する大男。その変態の妄想でアドレナリンは一気に上がり、鼻息荒く、石《いし》に向き直った。
「能書き垂れてんじゃねえぞ、バカ野郎! 多の屋の旦那さまが、困ってらっしゃるじゃねえか‼ てめえには、考える力がってもんがねえのか? オイ‼‼」
とブチギレた男の名を、鬼造という。
大八車を囲む男達は、その光景を見てニヤニヤ嗤っている。
...可哀想に、鬼造に目を付けられたらお終いだ。
男達は、鬼造に刃向かった奴らの事を思い浮かべた。奴らがどんな目に遭ったか? 鬼造の前に這いつくばり、「殺さないでくれ」と泣いて懇願する奴ら。その哀れな姿を何度も目にしてきた。
中年のどこにでもいるオヤジは、鬼造を前にして、完全に脅えたと男達は思った。そして男達は、大半の石を嘲る者と、少しの哀れに思う者とのふたつに分かれている。
「鬼造さん! さっさとカタをつけてくれよ」
ひとりが叫んだ。
「うるせえな。甥っ子だからって、俺に指図するんゃねえ!」
振り返った鬼造に睨まれ、男は黙り込んだ。
息がかかるまで鬼造が近づくと、空気を吸うのもつらいほど体臭がキツく感じられる。
... 酷え臭いだ
周囲からみれば、石は人喰熊の前に差し出された哀れな獲物でしかない。
すぐにでも喰い殺されそうな状況だが、獲物は自分の状況が分かってないのか? こなれた仕草で煙草入れに手を伸ばすと、火打石を取り出そうとしている。
中年のオヤジが、あまりに身の置かれた状況を把握してないのに気付いて、ニヤついていた男達は表情を変えた。
... こいつは脳が足りてねえ
これから殺されるかもしれない石を、助五郎が連れて来た連中全員が、憐れんでいた。
...このままでは、石さんは殺されてしまう・・・
鬼造の恐ろしさを、目の当たりにした事がある由は震えた。
...石さんは眼が見えないから、いまの状況が分かってない・・・
この状況が最悪になるのを止めることが出来るのは、助五郎しかいない。だが、助五郎と関わりたくないと強く思う自分が居て、由の中でせめぎ合っていた。
...でも、このままで、良いはずはない・・・
助五郎に頼み事をするのは気が重かったが、由には、なんの罪もない旅人を見殺しにする事も出来なかった。勇気を出して一歩、足を前に踏み出そうとする・・・その前に、
「!」
袖口を引かれ、振り向いた由。見ると、弦が自分の着物の袖を掴んでいた。
弦は、いつの間にか、腕の中に妙を引き寄せている。その視線は、石に注がれていた。
弦は、由に囁いた。
「いっさんなら大丈夫です。こんな人達には、負けませんから」
弦は鬼造の狂暴さを知らない。それを伝えようと思ったが、石を信じ切っている弦の表情を見ると、言葉が出なかった。
弦は、いまの状況に全く不安を感じてないようだ。落ち着いていて、さっきまで世間話をしていた弦と、なにも変わらない。その表情を見てると、不思議と由の心も落ち着いてきた。
だが、状況は好転しているわけではない。むしろ悪化している。
鬼造は、石が火打石を擦ろうとしているのに気付くと、煙管を奪い取ろうと手を伸ばした。その手を石は軽く掴んで、その巨体ごと下に引き落とす。
ドスゥン!
地面を揺らすような音がして、鬼造は両膝から崩れ落ちた。勢いあまって両手を地面につき、石の前で土下座するような四《よ》つん這いの恰好になる。
スルっと、石は鬼造の首根っこに、杖を当てた。すると、鬼造は両手両膝を地面に着けたまま、全く動かなくなった。
まわりからは、鬼造のうなじに、石が手を添えた杖が乗っているだけに見える。だが、その下の鬼造は真っ赤な顔で、ダラダラと汗を搔いていた。
周囲からどう見えていようが、いまの鬼造は、巨大な岩に押しつぶされて身動きできない孫悟空のように、指一本、動かせずにいた。
...俺に、いま、なにが・・・起きてるんだ?
鬼造は、水茶屋の腰掛けに座る若い女が、助五郎に「あちらで・・・夫が」と言った時、一瞬だけ、その中年男を羨んでしまった。
...なんで俺があんなしょぼくれた中年男を羨んでるんだ、クソ!
嫉妬と理不尽な怒りで、鬼造は男達の輪から出た。この勝負は最初から決まってる。退屈なゲームだが、勝てば中年男を少しでも羨んだ屈辱は晴らすことはできた。そして景品は、可愛い若い人妻。
...すんなり女房を差《さ》し出せば、一発で終わらせてやるか。もし無駄な抵抗をするなら、半殺にしてやる。まあ軽くても、俺に殴られれば、こんな中年男はあの世行きだろうがな
それが・・・、助五郎や仲間の前で、四つん這いの姿を晒している。生まれてはじめて『死にたい』と思った。
鬼造は、静かに藻掻いていた。
恥と焦りは、滝のような汗となって、止まることなく流れて、ボタボタと地面を濡らしていた。
...汗まで臭うのか、もう勘弁してくれ
石は、鬼造を放り投げて、どこかに逃げたい気分だったが、この状況ではそれもできない。
たっぷり二週間は汗を流してない、鬼造の身体から、ヘドロのような臭いを発する汗が滴り落ちる。足掻けば、足掻くほど、ヘドロ臭が強くなり、地面に汗の染みは広がっていった。
...跳ね返せねえ! クソ! 跳ね返せ! 俺に恥を掻かせたことを、この中年男に後悔《こうかい》させてやるんだ‼
鬼造は、心の内で自分を叱咤するが、まったく動かない鬼造の身体は、すでに『敗北』という二文字を受け入れていた。
【鬼の仙‐きのせん】
いまでこそ鬼造は、子毛で助五郎に買われ、用心棒のような仕事をしているが、江戸に居た頃は鬼の仙という四股名の、将来有望な力士だった。
鬼の仙は、江戸両国の勧進相撲興行で、圧倒的な力相撲で連勝を続けて、いずれ大関も夢じゃないと期待されていた力士だった。
その順風満帆《じゅんぷうまんぱん》に見えた相撲人生は、たった一日で終わる事になる。
ある日、部屋のみんなが集まる稽古場に遅れてやって来た鬼の仙を見て、師匠の引戸親方が言った。
「遅いやないか? 今までどこに行っとったんや」
鬼の仙はそれに答えず、無視して四股を踏み始めた。その姿を、引戸親方は苦々しい顔で見ながら話す。
「なあ、お前は勝ちすぎて天狗になっとるんやないか? ええか、いま勝てるのは角力の実力やのうて、生まれ持ったその身体のおかげやで。しっかり練習せい! 夜な夜な出かけてばかりで、まともに練習しとらんやないのか!」
鬼の仙は四股を終えると、引戸親方から目を反らして言った。
「・・・親方、俺は東の小結。親方は、西の方の小結だったんじゃないですか?」
「だからなんや?」
「もう、俺は親方を超えてるでしょう?(江戸時代の相撲番付では西より東が格上とされていた)」
引戸親方は血相を変えて、土俵に飛び降りた。
バシィ!!
袋竹刀で頭部を叩く激しい音がして、酷い叱責の言葉が飛ぶ。
引戸親方は、それでも怒りが収まらず、鬼の仙が頭を抱えて膝をついても、袋竹刀で打ち据えた。
「このアホウ! 小結まで成れたんは誰のおかげやと思っとるんや! ワシや稽古をつけた兄弟子、そして支えてくれる支援者の方々のおかげやないか! 思い上がるな!!」
引戸親方は、怒鳴り散らしまた殴りつけ、結局、見学に来ていた支援者や他の力士が止めて事は収まった。
鬼の仙=鬼造は、恨んだ。
大勢の稽古を見に来た観客と弟弟子たちの前で、格下の引戸から、酷い叱責を受けるという屈辱。
怪我を理由に、休むことが許されたあくる日の夜、鬼造は、引戸親方が愛妾の家から帰る所を待ち伏せた。
その夜、愛妾宅からの帰り道は月も無く真っ暗で、引戸親方は、弟子のひとりに行燈を持たせ、夜風にあたりながら悠々と帰っていた。
「鬼の仙の才能は申し分ないが、人様に対する感謝の念が足りてへん。ダメなとこはそこだけや。それさえ身に付ければ、あいつは東の大関(江戸時代の相撲の最高位)に成れる器なんや」
「はい。関取は、必ずそこまで上り詰める力士です」
「ははは。おまえは、鬼の仙に憧れてとるからな」
「はい、自分は関取に憧れて相撲を続けてます」
鬼造は、いきなり襲い掛かった。
物盗り(強盗)と見せかけ、引戸を動けない程度に痛めつけるつもりだったが、鬼造は自分の怪力の加減が分かってなかった。
狂ったように暴れた後、深夜の路上に横たわるのは、首をへし折られて白目を剥き倒れている|引戸親方と顔を踏みつぶされた弟弟子の死体。それも一番可愛がっていた弟弟子で、鬼造は、その遺体を前に呆然としていた。
どこかから悲鳴が聞こえ、鬼造は我に返ると、その場から逃げだした。どこにも行く事もなく、稽古にも行かず家に引き篭もった。いつか捕まるのではないかという恐怖と、可愛がっていた弟弟子を殺した後悔にさいなまれ、毎日酒を浴びた。
やがて事件の調べが終わり、物盗りの仕業と聞いて、鬼造は跳び上がって喜んだ。結果的に、小五月蠅い親方が居なくなったことで、自分に文句を言える者が居なくなり、稽古もそこそこに、毎日遊び惚けるようになった。
そして、ふと親方の愛妾のことを想った。
...ひとりきりじゃ、寂しいだろう
ある日の夜、鬼造は家に押し入って、愛妾を襲った。
愛妾は、殺されるかもしれないと云う恐怖に抵抗を諦め、されるがまま。それを、自分を受け入れたと勘違いした鬼造。事後に引戸親方を殺害したのは自分だと告白した。
「引戸親方のせいで、俺が可愛がっていた弟弟子が巻き添えになった。分かるだろ? おまえなら俺の寂しさが」
「ええ、分かるわ」
同調する振りをして身の安全を守った愛妾は、鬼造を心の底から軽蔑《けいべつ》し、許しはしなかった。そして、その話を別の愛人に打ち明ける。
話は廻《めぐ》って奉行所へ届き、鬼造は、江戸で指名手配となった。間一髪、奉行所の捕縛を逃れて江戸を脱出すると、鬼造は当てもなく西へと上った。
そして、江戸から京へと繋がる街道沿いの子毛に立ち寄った時に、助五郎と出会い、ここに居着くことになった。
鬼造の尋常ならざる怪力は、なんの役にも立っていない。
石の足下で、自分の身体が潰れないように耐えている。そんな鬼造を見て、男達は唖然としてる。
石は、空いている手で火打石を擦り、刻み煙草を燃やすと、吸うのではなくそのまま、コンコン! と地面に落とす。燻る火種は、鬼造の手の甲へとポトッと落ちた。
「ウ、ガ%ゲガガ$ガグぁガ!」
手の甲《こう》に乗った火種が、鬼造の手の甲を焼く。皮膚を焼かれ、激痛で身もだえするだけで、動けない鬼造は火種を払うことができない。そんな事はお構いなしに、石は煙管に刻み煙草を詰めて火をつけると、口に当てゆっくりと吸い込んで、ぷかりぷかりと煙を吐き出した。
吐き出した煙の輪は、今度は助五郎まで届いて、上昇すると丁度頭の上に乗っかった。それは、まるであの世に逝く人のように見えた。
【右馬‐ウマ】
「ええ加減にせえよ。鬼造! おまえ、何やっとんや」
大八車を囲む男達のなかから、またひとり出て来た。
スラリとした細身の役者のような顔に、洒落た紫の着流しで、長ドスをだらりと手に下げ、はだけた胸を掻きながら悠々と歩いてくる。
「ア、兄貴・・・」
「アホな義兄弟を持つと苦労するな。中年男、俺が相手したるから覚悟せえよ」
男は、長ドスを目の前で真一文字に持つと、腕に力を込めて、口角を上げながら石を睨んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
日露戦争の真実
蔵屋
歴史・時代
私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。
日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。
日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。
帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。
日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。
ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。
ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。
深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。
この物語の始まりです。
『神知りて 人の幸せ 祈るのみ
神の伝えし 愛善の道』
この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。
作家 蔵屋日唱
対米戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。
そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。
3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。
小説家になろうで、先行配信中!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる