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3 普通の転生者、隣人に声をかけられる
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「あれ、サミュエル、珍しいね。一人?」
声をかけてきたのは学生寮の隣部屋で同じクラスのオーズリー伯爵子息のブラッドだった。伯爵家の嫡男だけど気さくで話しやすい。
「うん。フィルが剣の練習を見せてくれるって言ったけど、見ても強くならないからやめたんだ」
「ははは、どうせ何か言い合いでもしたんだろう? 相変わらず仲がいいね」
「そんなんじゃないよ。とりあえず、剣よりも座学を優先した方がいいのかなって思っただけ」
僕がそう言うとブラッドは「じゃあ、そういう事にしておくよ」と言った。
「あ、家からお菓子が沢山届いたんだ。食べきれないからまたもらってくれる?」
「わぁ! ブラッドの家のお菓子って美味しいから大好き!」
「そう言って貰えて嬉しいよ。じゃあ後で部屋に届けるね」
「ありがとう」
「あんまり喧嘩をしたら駄目だよ。それから一人歩きも気を付けて」
そんな事を言うブラッドに「貧乏子爵家の三男に何かするような奴もいないよ」とだけ言って僕は肩を竦めた。
「それはどうかな~。じゃあ、ちょっとこれを提出してから行くから、後で。サミーはもうこの前のレポートは提出したんだろう?」
「うん。一昨日出した」
「さすが、教授の一番弟子候補だ。でも本当に官吏の試験を受けるの? 教授ががっかりするよ」
「うん。ダメかもしれないけど受けてみる。せっかく受験の資格はもらえたし、受かれば寄宿舎に住む事が出来るから」
そう。小さな子爵家には王都にタウンハウスを持つなんて夢のまた夢だ。それに例えあったとしても、それを三男の僕が使うのはやっぱり難しい。
「寄宿舎ねぇ。まぁいいや。じゃあ後で」
ブラッドはそう言って人好きのする笑みを浮かべて校舎の方に歩いて行った。
僕は別に家族の仲が悪いわけではない。むしろ少し年が離れて生まれたせいか、家族全員から甘やかされて育ったと思う。卒業後もやりたい事が見つかるまで領地の手伝いをしながら部屋住みをしていて構わないとも言われている。でもさ、そう言うわけにはいかないじゃない?
だって、領地の屋敷には両親と一番上の兄とそのお嫁さんと、そして2歳になる長男が住んでいるんだ。
そんなに大きくはない屋敷だし、姉と次男の兄はすでに家を出ている。それなのに学校を卒業した三男の自分がのこのこと帰って、手伝いをしながら住み続けるって、さすがにちょっと出来ないよ。
だから僕に向いていそうな文官の道を選んだ。
勿論受かるとは限らないけれど、それでも前世の知識がある分ちょっとくらいは有利だと思っている。
何より王都に一人で暮らす事が出来る。それってちょっとワクワクしない?
大変だとは思うけど、文字書きとか計算とか、文書を読むのも得意だ。好きな仕事をしながら自分の好きな生活をして、何か楽しい事を一つでも多く見つけて幸せになる。幸せになるって事が僕にとって何を指しているのかはまだ分からないけれど、それでも何の目標もなくただ毎日を過ごすよりは「幸せになろう!」って思いながら生きている方が何となく建設的な気がするんだ。
でもきっとそんなものはフィルにとっては取るに足りないもので、つまらないものなんだろうな。
「だけどさ、幸せって言うのは人それぞれに違うから、だから僕は、僕の幸せを見つければいいんだと思うんだよね」
そう。やってみなきゃ分からない。幸せをかき集めている姿を笑われたっていいんだ。
それにさ、このまま何もかも普通に終わるよりも、ある意味二度目の人生だから、ちょっとくらいは夢を見たっていいじゃない?
「家族計画じゃないし、もう!」
ふと先ほど言われた事を思い出して再びムッとすると、僕は自分の部屋のドアを開けた。
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声をかけてきたのは学生寮の隣部屋で同じクラスのオーズリー伯爵子息のブラッドだった。伯爵家の嫡男だけど気さくで話しやすい。
「うん。フィルが剣の練習を見せてくれるって言ったけど、見ても強くならないからやめたんだ」
「ははは、どうせ何か言い合いでもしたんだろう? 相変わらず仲がいいね」
「そんなんじゃないよ。とりあえず、剣よりも座学を優先した方がいいのかなって思っただけ」
僕がそう言うとブラッドは「じゃあ、そういう事にしておくよ」と言った。
「あ、家からお菓子が沢山届いたんだ。食べきれないからまたもらってくれる?」
「わぁ! ブラッドの家のお菓子って美味しいから大好き!」
「そう言って貰えて嬉しいよ。じゃあ後で部屋に届けるね」
「ありがとう」
「あんまり喧嘩をしたら駄目だよ。それから一人歩きも気を付けて」
そんな事を言うブラッドに「貧乏子爵家の三男に何かするような奴もいないよ」とだけ言って僕は肩を竦めた。
「それはどうかな~。じゃあ、ちょっとこれを提出してから行くから、後で。サミーはもうこの前のレポートは提出したんだろう?」
「うん。一昨日出した」
「さすが、教授の一番弟子候補だ。でも本当に官吏の試験を受けるの? 教授ががっかりするよ」
「うん。ダメかもしれないけど受けてみる。せっかく受験の資格はもらえたし、受かれば寄宿舎に住む事が出来るから」
そう。小さな子爵家には王都にタウンハウスを持つなんて夢のまた夢だ。それに例えあったとしても、それを三男の僕が使うのはやっぱり難しい。
「寄宿舎ねぇ。まぁいいや。じゃあ後で」
ブラッドはそう言って人好きのする笑みを浮かべて校舎の方に歩いて行った。
僕は別に家族の仲が悪いわけではない。むしろ少し年が離れて生まれたせいか、家族全員から甘やかされて育ったと思う。卒業後もやりたい事が見つかるまで領地の手伝いをしながら部屋住みをしていて構わないとも言われている。でもさ、そう言うわけにはいかないじゃない?
だって、領地の屋敷には両親と一番上の兄とそのお嫁さんと、そして2歳になる長男が住んでいるんだ。
そんなに大きくはない屋敷だし、姉と次男の兄はすでに家を出ている。それなのに学校を卒業した三男の自分がのこのこと帰って、手伝いをしながら住み続けるって、さすがにちょっと出来ないよ。
だから僕に向いていそうな文官の道を選んだ。
勿論受かるとは限らないけれど、それでも前世の知識がある分ちょっとくらいは有利だと思っている。
何より王都に一人で暮らす事が出来る。それってちょっとワクワクしない?
大変だとは思うけど、文字書きとか計算とか、文書を読むのも得意だ。好きな仕事をしながら自分の好きな生活をして、何か楽しい事を一つでも多く見つけて幸せになる。幸せになるって事が僕にとって何を指しているのかはまだ分からないけれど、それでも何の目標もなくただ毎日を過ごすよりは「幸せになろう!」って思いながら生きている方が何となく建設的な気がするんだ。
でもきっとそんなものはフィルにとっては取るに足りないもので、つまらないものなんだろうな。
「だけどさ、幸せって言うのは人それぞれに違うから、だから僕は、僕の幸せを見つければいいんだと思うんだよね」
そう。やってみなきゃ分からない。幸せをかき集めている姿を笑われたっていいんだ。
それにさ、このまま何もかも普通に終わるよりも、ある意味二度目の人生だから、ちょっとくらいは夢を見たっていいじゃない?
「家族計画じゃないし、もう!」
ふと先ほど言われた事を思い出して再びムッとすると、僕は自分の部屋のドアを開けた。
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