普通の転生者は幸せになる計画を立てる。でも幸せって何?

tamura-k

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2 普通の転生者、普通の人生を語る

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 僕、サミュエル・エマーソンはエマーソン子爵家の三男だ。
 上には兄が二人と姉がいる。
 ようするに貧乏子爵家の末っ子だ。ちなみに前世の記憶を持つ転生者だ。

 物心ついた時に、僕は自分がこの世界では異なる世界で生きていた事を思い出した。
 幼馴染みのフィリップにおやつを取られて取り返そうとして転んで頭を打った時だ。椅子から転げ落ちはしたものの、怪我は後頭部のたんこぶ一つ。それでもフィルは彼の両親から大層叱られて、泣きながら謝罪をしてきた事を覚えている。

 フィルは領地を持っていない男爵家の長男で、彼の両親は僕の領で仕えている。要するに領主の坊ちゃまに怪我をさせたわけだ。
 だけど、おやつも謝罪もその時の僕にはどうでも良くて、何が起きたんだ、ここはどこなんだ、どうしてこんなに小さくなっているんだ‼ っていうパニックしかなかった。

 まぁ数日後には異世界転生者かぁって落ち着いちゃったんだけどね。
 だって、僕の転生は別に何かの小説やゲームの主人公になっていたわけでも、断罪される予定の悪役になっていたわけでも何でもなくて、ただ、このラスボーンという王国のエマーソンという小さな領持ちの子爵家の末っ子として生まれたってそれだけだったんだもの。
 本当にそれだけ。
 大事な事だから、二度言っちゃった。

 勿論転生者の特典なんてものもなかったよ。チートなんて論外。というかね、転生前の僕自身が平凡だった。取り柄がないというか、ふつー。
 何か手に職があったわけでもないし、これと言った特技があったわけでもない。
 たとえば、世界的に有名なシェフだったとか、お菓子作りが上手かったとか、有名な建築家だったとか、何かの職人さんだったとか、ものすごく色々な事を知っている学者とか、そういうのだったら、何か役に立ったかもしれないけれど、考えてみたらな~んにもなかったんだよね。

 普通に高校いって、なんとか大学に入って、とりあえず引っかかった会社に入った。
 そして終わり。お約束みたいな感じでトラックにひかれた……わけでもない。分からないけど、気づいたら5歳児だった。もう何かあまりに平凡過ぎて笑えるよね、

 そして今は15歳。こちらの世界でも、大きくなっても平凡な事は変わりなく、普通に育って、普通に貴族が通うという王都にある学校に通っている。魔力も人並みより少しだけ上。体力はちょっと下。

 このラスボーン王国は16歳で成人する。あと少しで僕も16歳。
 いや、ほんとに何もないただただ普通の人生でした。
 あ、これじゃあ人生終わっちゃうみたい。ちがうちがう。これからだよ。

 そう、あまりにも普通過ぎて、あまりにも何もなくて過ぎてきてしまったから。だからこれからきっと変化が訪れるって思いたいんだ。そして、それを幸せにしたいんだ。
 それをバカの一言ってなにさ!

「くっそー、フィルめ。今頃たんこぶの恨みが甦ってくる気さえするぞ」

 とにかく僕は今年の終わり頃に官吏の試験を受けて、来年、学校を卒業。そして王宮で働くんだ。
 うん?どうして王国の官吏を目指しているのかって? だって、官吏になれば王都の寄宿舎にタダで入る事ができるんだ。つまり、貧乏子爵家の末っ子は「幸せになる」為に家を出る算段をしているんだ!


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