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7 普通の転生者、ちょっと気を遣って失敗する
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「お前最近ちゃんと寝てるのか?何だかポヤポヤしているぞ」
朝の食堂でフィルがいきなりそんな事を言ってきた。
「うん。ちゃんと寝てるけど」
嘘だ。ちょっとだけ夜更かしをして勉強している。だって手に入れた資料が面白くて。
給金が入った翌日の午後、僕はさっそく試験の資料の最新版を買いに行った。
そして、嬉しくて嬉しくて、つい……
だって、やっぱり過去の資料と比べると少し、傾向が変わっている気がした。
良かった。ちょっとでも早めに手に入って。
本当は誰か文官の知り合いでもいれば、どんな感じなのかなとか聞けるんだけど、そんな知り合いいないしね。
「……ならいいけど。ちゃんと食って、ちゃんと寝ていないと本番でコケるぞ」
「! そんな縁起でもない事言わないでよ。それにまだ試験までは日があるし」
そう。そうだよ。だってまだこれから夏なんだ。もう少ししたら学園はバカンスシーズンになるから2カ月くらい休みがある。ハッキリ言って稼ぎ時だ。
今年は卒業だから、本来ならこの長期の休みは、提出するレポートについて調べたり書き進めたりする人が多いんだけど、そこは大丈夫。
提出については年度の初めから担当の教授と話をしていて、それについての本ももう読み漁っているし、頭の中でどういう風に展開していくかも組み立て済み。
それに実はもう書き出しているんだ。だってさ馬鹿みたいなページ数のものをそんなにすぐに書けるわけないでしょう?だから前もってやらないといけないし、普通の人がその準備にあてるバカンスシーズンは僕にとっては稼ぎ時だからね!
食堂もフルで週4日にしてもらう予定だし、そうすればご飯代も浮くし、市場はそのままだけど、でも7日間に5日間フルで働くというのは結構すごい事だ。後は調べたり、書いたり、ちょっと身体を休めたり。ほらね、僕だってちゃんと考えているんだよ!
「なんかすげぇドヤ顔してるけど、お前がそういう顔をしている時は昔からろくでもない事が起きるから、気を付けた方がいい。それから」
「それから?」
「本当にバカンスシーズンは戻らないのか確認をしてほしいって俺の方に連絡が来た」
フィルは何だか睨むようにそう言った。
あ~~~、やっぱり今年は論文があるから帰りませんっていう手紙だけじゃダメだったかぁ。
「うん。帰らない。お金も時間ももったいないから」
それを聞いてまたフィルの顔が曇る。
「本当にそれでいいのか? 家族で過ごせる最後の休みだろう?」
「うん。でも僕の居場所はないし」
「サミー⁉」
「あ、ごめん、変な意味じゃないんだ。それくらいに思ってなきゃ頑張らないとって。ちゃんと分かってるよ。みんな変わらずに優しいし。毎月お金も送ってくれている。でもいつまでも甘えてはいられないし、試験が受かったら何もかも全部自分でやらないとダメだから。いくらのほほんとしているって言われている僕でも、学園を卒業して部屋住みで領地の手伝いっていうのはダメだなって分かるし。だって、うちの領地、そんなに沢山仕事があるわけでもないしね」
「……誰もそんな事は言っていないし、言わないだろうが。変に気を遣う方が何かあったのかって」
「何もないよ。でも別に何にも思っていない。ただ、この前言っていたみたいに幸せに……あ~、うん。えっと、今までとは違う幸せを見つけるんだ」
「……そうかよ」
フィルは途端に顔つきを変えて、ムッとしたように席を立ってしまった。
あれれれ?
あの話をした翌々日くらいに「お前は今幸せじゃないのかよ」ってわざわざ言ってきたから、違う言い方をしたのに、また怒っちゃった。も~~~昔から、短気なんだから。
結局僕は今回も(ちなみに前回も)、僕はフィルが何で怒ったのか、全然分からなかった。
朝の食堂でフィルがいきなりそんな事を言ってきた。
「うん。ちゃんと寝てるけど」
嘘だ。ちょっとだけ夜更かしをして勉強している。だって手に入れた資料が面白くて。
給金が入った翌日の午後、僕はさっそく試験の資料の最新版を買いに行った。
そして、嬉しくて嬉しくて、つい……
だって、やっぱり過去の資料と比べると少し、傾向が変わっている気がした。
良かった。ちょっとでも早めに手に入って。
本当は誰か文官の知り合いでもいれば、どんな感じなのかなとか聞けるんだけど、そんな知り合いいないしね。
「……ならいいけど。ちゃんと食って、ちゃんと寝ていないと本番でコケるぞ」
「! そんな縁起でもない事言わないでよ。それにまだ試験までは日があるし」
そう。そうだよ。だってまだこれから夏なんだ。もう少ししたら学園はバカンスシーズンになるから2カ月くらい休みがある。ハッキリ言って稼ぎ時だ。
今年は卒業だから、本来ならこの長期の休みは、提出するレポートについて調べたり書き進めたりする人が多いんだけど、そこは大丈夫。
提出については年度の初めから担当の教授と話をしていて、それについての本ももう読み漁っているし、頭の中でどういう風に展開していくかも組み立て済み。
それに実はもう書き出しているんだ。だってさ馬鹿みたいなページ数のものをそんなにすぐに書けるわけないでしょう?だから前もってやらないといけないし、普通の人がその準備にあてるバカンスシーズンは僕にとっては稼ぎ時だからね!
食堂もフルで週4日にしてもらう予定だし、そうすればご飯代も浮くし、市場はそのままだけど、でも7日間に5日間フルで働くというのは結構すごい事だ。後は調べたり、書いたり、ちょっと身体を休めたり。ほらね、僕だってちゃんと考えているんだよ!
「なんかすげぇドヤ顔してるけど、お前がそういう顔をしている時は昔からろくでもない事が起きるから、気を付けた方がいい。それから」
「それから?」
「本当にバカンスシーズンは戻らないのか確認をしてほしいって俺の方に連絡が来た」
フィルは何だか睨むようにそう言った。
あ~~~、やっぱり今年は論文があるから帰りませんっていう手紙だけじゃダメだったかぁ。
「うん。帰らない。お金も時間ももったいないから」
それを聞いてまたフィルの顔が曇る。
「本当にそれでいいのか? 家族で過ごせる最後の休みだろう?」
「うん。でも僕の居場所はないし」
「サミー⁉」
「あ、ごめん、変な意味じゃないんだ。それくらいに思ってなきゃ頑張らないとって。ちゃんと分かってるよ。みんな変わらずに優しいし。毎月お金も送ってくれている。でもいつまでも甘えてはいられないし、試験が受かったら何もかも全部自分でやらないとダメだから。いくらのほほんとしているって言われている僕でも、学園を卒業して部屋住みで領地の手伝いっていうのはダメだなって分かるし。だって、うちの領地、そんなに沢山仕事があるわけでもないしね」
「……誰もそんな事は言っていないし、言わないだろうが。変に気を遣う方が何かあったのかって」
「何もないよ。でも別に何にも思っていない。ただ、この前言っていたみたいに幸せに……あ~、うん。えっと、今までとは違う幸せを見つけるんだ」
「……そうかよ」
フィルは途端に顔つきを変えて、ムッとしたように席を立ってしまった。
あれれれ?
あの話をした翌々日くらいに「お前は今幸せじゃないのかよ」ってわざわざ言ってきたから、違う言い方をしたのに、また怒っちゃった。も~~~昔から、短気なんだから。
結局僕は今回も(ちなみに前回も)、僕はフィルが何で怒ったのか、全然分からなかった。
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