普通の転生者は幸せになる計画を立てる。でも幸せって何?

tamura-k

文字の大きさ
7 / 54

7 普通の転生者、ちょっと気を遣って失敗する

しおりを挟む
「お前最近ちゃんと寝てるのか?何だかポヤポヤしているぞ」

 朝の食堂でフィルがいきなりそんな事を言ってきた。

「うん。ちゃんと寝てるけど」

嘘だ。ちょっとだけ夜更かしをして勉強している。だって手に入れた資料が面白くて。
 給金が入った翌日の午後、僕はさっそく試験の資料の最新版を買いに行った。
そして、嬉しくて嬉しくて、つい……

 だって、やっぱり過去の資料と比べると少し、傾向が変わっている気がした。
 良かった。ちょっとでも早めに手に入って。
 本当は誰か文官の知り合いでもいれば、どんな感じなのかなとか聞けるんだけど、そんな知り合いいないしね。

「……ならいいけど。ちゃんと食って、ちゃんと寝ていないと本番でコケるぞ」
「! そんな縁起でもない事言わないでよ。それにまだ試験までは日があるし」

 そう。そうだよ。だってまだこれから夏なんだ。もう少ししたら学園はバカンスシーズンになるから2カ月くらい休みがある。ハッキリ言って稼ぎ時だ。

 今年は卒業だから、本来ならこの長期の休みは、提出するレポートについて調べたり書き進めたりする人が多いんだけど、そこは大丈夫。
 提出については年度の初めから担当の教授と話をしていて、それについての本ももう読み漁っているし、頭の中でどういう風に展開していくかも組み立て済み。
 それに実はもう書き出しているんだ。だってさ馬鹿みたいなページ数のものをそんなにすぐに書けるわけないでしょう?だから前もってやらないといけないし、普通の人がその準備にあてるバカンスシーズンは僕にとっては稼ぎ時だからね!

 食堂もフルで週4日にしてもらう予定だし、そうすればご飯代も浮くし、市場はそのままだけど、でも7日間に5日間フルで働くというのは結構すごい事だ。後は調べたり、書いたり、ちょっと身体を休めたり。ほらね、僕だってちゃんと考えているんだよ!

「なんかすげぇドヤ顔してるけど、お前がそういう顔をしている時は昔からろくでもない事が起きるから、気を付けた方がいい。それから」
「それから?」
「本当にバカンスシーズンは戻らないのか確認をしてほしいって俺の方に連絡が来た」

 フィルは何だか睨むようにそう言った。
あ~~~、やっぱり今年は論文があるから帰りませんっていう手紙だけじゃダメだったかぁ。

「うん。帰らない。お金も時間ももったいないから」

 それを聞いてまたフィルの顔が曇る。

「本当にそれでいいのか? 家族で過ごせる最後の休みだろう?」
「うん。でも僕の居場所はないし」
「サミー⁉」
「あ、ごめん、変な意味じゃないんだ。それくらいに思ってなきゃ頑張らないとって。ちゃんと分かってるよ。みんな変わらずに優しいし。毎月お金も送ってくれている。でもいつまでも甘えてはいられないし、試験が受かったら何もかも全部自分でやらないとダメだから。いくらのほほんとしているって言われている僕でも、学園を卒業して部屋住みで領地の手伝いっていうのはダメだなって分かるし。だって、うちの領地、そんなに沢山仕事があるわけでもないしね」
「……誰もそんな事は言っていないし、言わないだろうが。変に気を遣う方が何かあったのかって」
「何もないよ。でも別に何にも思っていない。ただ、この前言っていたみたいに幸せに……あ~、うん。えっと、今までとは違う幸せを見つけるんだ」
「……そうかよ」

 フィルは途端に顔つきを変えて、ムッとしたように席を立ってしまった。
 あれれれ?
 あの話をした翌々日くらいに「お前は今幸せじゃないのかよ」ってわざわざ言ってきたから、違う言い方をしたのに、また怒っちゃった。も~~~昔から、短気なんだから。


 結局僕は今回も(ちなみに前回も)、僕はフィルが何で怒ったのか、全然分からなかった。



しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

婚約破棄署名したらどうでも良くなった僕の話

黄金 
BL
婚約破棄を言い渡され、署名をしたら前世を思い出した。 恋も恋愛もどうでもいい。 そう考えたノジュエール・セディエルトは、騎士団で魔法使いとして生きていくことにする。 二万字程度の短い話です。 6話完結。+おまけフィーリオルのを1話追加します。

処理中です...