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12 普通の転生者、告白は告白を呼ぶ?
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えっと、えっと、えっと
人ってさ、驚くと動けなくなるし、まともに考える事も出来なくなるんだね。
「こ、こんにちは!」
「…………ああ」
「おうち、こっちの方なんですね。では失礼します」
笑って、ペコって頭を下げて、背中を向けたらダッシュ!
「あ、待って」
待たない! 待たないから!
嫌だ、どうしよう。まさか食堂も働けなくなる? しかもよりによって夏季休暇の前に! 大事な収入源が!
やだやだやだ! 絶対にそれは困る。
右に曲がればもう食堂だ。
だから大丈夫。あそこまで行けば大丈夫。店の中では女将さんが目を光らせていてくれるから。
でもそういう時に限って、というか、僕がとろすぎるというか、案の定、角を曲がる前に手を掴まれた。
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
「うわ! そんな声を出さないでくれよ」
「離して~~」
ジタバタと暴れる僕のそれは、相手にとっては全く抵抗にはなっていなかった。
「あのさ、ロイ君」
「…………」
「不躾で悪いんだけど、今、誰か付き合っている人はいるのかな」
「…………は?」
聞こえてきた言葉に僕はジタバタを止めた。
「い、いないなら、俺と付き合ってくれないか。君が働いている姿に一目惚れしたんだ」
「…………」
「勿論、無理矢理なんてことは考えていない。でも君が成人を迎えるって聞いて、どうしても気持ちを告げたくなったんだ。勿論君の気持ちを尊重する。俺は第二騎士団にいるダリオン・アクロイド。家は伯爵家だけど俺自身は次男だから関係ない。前向きに考えてほしいんだ。怖がらせて悪かった。返事はいつまでも待つから」
そう言って黒髪の人は手を離してどこかに消えた。
僕は呆然として掴まれていた手を見つめてしまった。そして。
「う、噓でしょ?」
一体どういう事なのか。普通に働いていただけなのに公爵家の子息からお付き合いをしてほしいと申し込まれ、伯爵家の子息からもいつまでも待つなどという告白を受けた。
「なんの冗談なの?」
何かおかしな病気でも流行っているのかしら?
何だってこんな冴えない子爵家の三男に、というか「ロイ」に至っては「ロイ」という名前しか分からない筈だ。それなのに!
「は! 時間!」
思わず我に返って僕は急いで食堂へと向かった。とにかく色々と考えなければならない事がある。
公爵子息の事。伯爵子息の事。そして肝心の試験と卒業レポートの事。
その日の食堂の接客は自分でもちょっと信じられないような失敗をした。
お客さんも女将さんも苦笑いしながら許してくれたけど、僕自身が許せなくて、情けなくなった。
こんな事ではいけない。
ちゃんと働いてこのバカンスシーズンで王都に住む為に、ある程度の資金を溜めなければいけないのだ。こんな降ってわいたような出来事に振り回されているようではいけない。
だから…………
僕は女将さんに話をした。
自分が転移魔法を使える事。でもそれを見られてしまった事、そして子爵家の三男で文官を目指している事。
貴族としては恥ずかしいけれどやはり余裕がなくて働くのをやめたくない事。
そうしたら女将さんは転移でこの店に直接飛んでくることを提案してくれた。帰りもこの建物の中から帰ればいいと。そして! 万が一試験に落ちてしまったらここで働いてまた挑戦すればいいまで言ってくれた。
有難くて嬉しくて僕は涙が出てしまった。ああ、優しい人は居るんだなって思った。久しぶりに幸せだって思った。
店が終わって部屋に戻ると、机の上に籠が乗せられていた。
『寮の管理人に無理を言って開けてもらいました。領に帰ってしばらく会えないので。色々あるけど元気を出して ブラッド』
中に入っていたカードと籠の中の沢山のお菓子を見て涙が出た。
幸せな気持ちになっても涙って出るんだなって僕は今日2度目のそれを体験した。
じめじめの雨模様だった気持ちが少しずつ晴れていくような気がして、僕は籠の中のお菓子を見つめた。
人ってさ、驚くと動けなくなるし、まともに考える事も出来なくなるんだね。
「こ、こんにちは!」
「…………ああ」
「おうち、こっちの方なんですね。では失礼します」
笑って、ペコって頭を下げて、背中を向けたらダッシュ!
「あ、待って」
待たない! 待たないから!
嫌だ、どうしよう。まさか食堂も働けなくなる? しかもよりによって夏季休暇の前に! 大事な収入源が!
やだやだやだ! 絶対にそれは困る。
右に曲がればもう食堂だ。
だから大丈夫。あそこまで行けば大丈夫。店の中では女将さんが目を光らせていてくれるから。
でもそういう時に限って、というか、僕がとろすぎるというか、案の定、角を曲がる前に手を掴まれた。
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
「うわ! そんな声を出さないでくれよ」
「離して~~」
ジタバタと暴れる僕のそれは、相手にとっては全く抵抗にはなっていなかった。
「あのさ、ロイ君」
「…………」
「不躾で悪いんだけど、今、誰か付き合っている人はいるのかな」
「…………は?」
聞こえてきた言葉に僕はジタバタを止めた。
「い、いないなら、俺と付き合ってくれないか。君が働いている姿に一目惚れしたんだ」
「…………」
「勿論、無理矢理なんてことは考えていない。でも君が成人を迎えるって聞いて、どうしても気持ちを告げたくなったんだ。勿論君の気持ちを尊重する。俺は第二騎士団にいるダリオン・アクロイド。家は伯爵家だけど俺自身は次男だから関係ない。前向きに考えてほしいんだ。怖がらせて悪かった。返事はいつまでも待つから」
そう言って黒髪の人は手を離してどこかに消えた。
僕は呆然として掴まれていた手を見つめてしまった。そして。
「う、噓でしょ?」
一体どういう事なのか。普通に働いていただけなのに公爵家の子息からお付き合いをしてほしいと申し込まれ、伯爵家の子息からもいつまでも待つなどという告白を受けた。
「なんの冗談なの?」
何かおかしな病気でも流行っているのかしら?
何だってこんな冴えない子爵家の三男に、というか「ロイ」に至っては「ロイ」という名前しか分からない筈だ。それなのに!
「は! 時間!」
思わず我に返って僕は急いで食堂へと向かった。とにかく色々と考えなければならない事がある。
公爵子息の事。伯爵子息の事。そして肝心の試験と卒業レポートの事。
その日の食堂の接客は自分でもちょっと信じられないような失敗をした。
お客さんも女将さんも苦笑いしながら許してくれたけど、僕自身が許せなくて、情けなくなった。
こんな事ではいけない。
ちゃんと働いてこのバカンスシーズンで王都に住む為に、ある程度の資金を溜めなければいけないのだ。こんな降ってわいたような出来事に振り回されているようではいけない。
だから…………
僕は女将さんに話をした。
自分が転移魔法を使える事。でもそれを見られてしまった事、そして子爵家の三男で文官を目指している事。
貴族としては恥ずかしいけれどやはり余裕がなくて働くのをやめたくない事。
そうしたら女将さんは転移でこの店に直接飛んでくることを提案してくれた。帰りもこの建物の中から帰ればいいと。そして! 万が一試験に落ちてしまったらここで働いてまた挑戦すればいいまで言ってくれた。
有難くて嬉しくて僕は涙が出てしまった。ああ、優しい人は居るんだなって思った。久しぶりに幸せだって思った。
店が終わって部屋に戻ると、机の上に籠が乗せられていた。
『寮の管理人に無理を言って開けてもらいました。領に帰ってしばらく会えないので。色々あるけど元気を出して ブラッド』
中に入っていたカードと籠の中の沢山のお菓子を見て涙が出た。
幸せな気持ちになっても涙って出るんだなって僕は今日2度目のそれを体験した。
じめじめの雨模様だった気持ちが少しずつ晴れていくような気がして、僕は籠の中のお菓子を見つめた。
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