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13 幼馴染み、愚痴る
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幼馴染みのサミュエル・エマーソン(以下サミー)は小さな子爵家の三男坊だ。
小さい頃は爵位とかなんて分からないから、まるで兄弟みたいに育って、同い年だけどなんか頼りないから守ってやらなきゃなんて思っていたんだ。
物心がついてくれば守る事はともかく、相手は俺の両親が雇われている領主様の息子で身分の差と言うやつは歴然だった。俺は領地なしの男爵家の息子。
向こうは小さかろうが、貧乏だろうが、領地持ちの子爵家で、彼は領主様の息子。お坊ちゃまなわけだ。
普通であれば仕えている男爵家の息子など、いっしょに遊ぶ事だって憚られるだろう。
でもエマーソン家は本当に小さな子爵家で、なんとかやりくりをして領民と一緒に暮らしてきた領なので、ギリギリそれが許されているというのもある。
というか、領主は代々お人よしで、金もないのに税金を金ではなく物品で納める事を可能にしているんだ。
でも領主が王国に払う税金は物品ではなく金だ。
領民が物品で納めた税を領主は金に替えなければならない。それがエマーソン家は代々とてつもなくへたくそだった。その手伝いをしているのがうちの家だ。
大げさではなく、多分うちが居なかったらエマーソン家は確実に領地を没収されて路頭に迷っていただろう。
お人好しで、お金に関してはあまり長けていないエマーソン家。
それを支えるグレンウィード家。
それは変わらずにずっとずっと続いてきた。
そんな事もあって、俺は幼い時からサミーと一緒に居たんだけど、俺がこうして俺の両親からも、なんならサミーの両親からも頼まれて、サミーの傍に居続けられるのは、サミーがあまりにも無防備だからだ。
サミーはどうしてだか自分が普通の、例えるならその辺に転がっている石ころくらいに思っている。
だけど決してそんな事はない。でもどうしてかそう思い込んでいるんだ。
サミーには二人の兄と姉がいる。
そして両親ともども兄姉はとても容姿が華やかだ。サミーとはあまり似ていない。
その事があるのかもしれないけれど、サミーはいつの頃からか自分の事をみそっかすみたいに言うようになった。
でもエマーソン家の人たちも、領民も、誰もそんな事は思っていない。
サミーの父母、兄達と姉は美しいと言われる顔立ちだった。
でもサミーは可愛らしいと言われる顔立ちなのだ。それは先々代が愛してやまなかったという大奥様が正しくそれだった。一度姿絵を見たけれど、本当に可愛らしくてサミーによく似ていた。
だから10人聞けば10人がサミーの事を可愛らしいという。それは時が経っても変わりがなくて、サミーは可愛いと言われる容姿のまま現在に至っている。
更に頭も良い。試験はいつも上位にいる。それなのになぜかほわほわしたまま育った。一言でいえば危機管理能力がないのだ。
だから街に出て、人買いに攫われそうなった事も一度や二度じゃない。
更にいきなり抱きついてきた人間を護衛より早く、あいつが驚いて叫ぶより前に引き剥がしたのは俺だ。
気をつけろと言っても「僕なんて」というし、あいつに告白をしてこようとした奴を幾人阻止したか分からない。それでもサミーは気づかない。
そこにきてあの「幸せになりたい」発言だ。
何が幸せだ。
お前は今まで幸せじゃなかったのかよ!
いつだってニコニコ笑っていたあの笑顔は嘘だったのか。
あの笑顔の下でずっと幸せになりたいと願っていたのかよ。
腹が立った。
本当に腹が立った。
馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、本当に馬鹿だった。
でも俺も大概だ。
その本物の馬鹿をずっと好きでいるんだから。
小さい頃は爵位とかなんて分からないから、まるで兄弟みたいに育って、同い年だけどなんか頼りないから守ってやらなきゃなんて思っていたんだ。
物心がついてくれば守る事はともかく、相手は俺の両親が雇われている領主様の息子で身分の差と言うやつは歴然だった。俺は領地なしの男爵家の息子。
向こうは小さかろうが、貧乏だろうが、領地持ちの子爵家で、彼は領主様の息子。お坊ちゃまなわけだ。
普通であれば仕えている男爵家の息子など、いっしょに遊ぶ事だって憚られるだろう。
でもエマーソン家は本当に小さな子爵家で、なんとかやりくりをして領民と一緒に暮らしてきた領なので、ギリギリそれが許されているというのもある。
というか、領主は代々お人よしで、金もないのに税金を金ではなく物品で納める事を可能にしているんだ。
でも領主が王国に払う税金は物品ではなく金だ。
領民が物品で納めた税を領主は金に替えなければならない。それがエマーソン家は代々とてつもなくへたくそだった。その手伝いをしているのがうちの家だ。
大げさではなく、多分うちが居なかったらエマーソン家は確実に領地を没収されて路頭に迷っていただろう。
お人好しで、お金に関してはあまり長けていないエマーソン家。
それを支えるグレンウィード家。
それは変わらずにずっとずっと続いてきた。
そんな事もあって、俺は幼い時からサミーと一緒に居たんだけど、俺がこうして俺の両親からも、なんならサミーの両親からも頼まれて、サミーの傍に居続けられるのは、サミーがあまりにも無防備だからだ。
サミーはどうしてだか自分が普通の、例えるならその辺に転がっている石ころくらいに思っている。
だけど決してそんな事はない。でもどうしてかそう思い込んでいるんだ。
サミーには二人の兄と姉がいる。
そして両親ともども兄姉はとても容姿が華やかだ。サミーとはあまり似ていない。
その事があるのかもしれないけれど、サミーはいつの頃からか自分の事をみそっかすみたいに言うようになった。
でもエマーソン家の人たちも、領民も、誰もそんな事は思っていない。
サミーの父母、兄達と姉は美しいと言われる顔立ちだった。
でもサミーは可愛らしいと言われる顔立ちなのだ。それは先々代が愛してやまなかったという大奥様が正しくそれだった。一度姿絵を見たけれど、本当に可愛らしくてサミーによく似ていた。
だから10人聞けば10人がサミーの事を可愛らしいという。それは時が経っても変わりがなくて、サミーは可愛いと言われる容姿のまま現在に至っている。
更に頭も良い。試験はいつも上位にいる。それなのになぜかほわほわしたまま育った。一言でいえば危機管理能力がないのだ。
だから街に出て、人買いに攫われそうなった事も一度や二度じゃない。
更にいきなり抱きついてきた人間を護衛より早く、あいつが驚いて叫ぶより前に引き剥がしたのは俺だ。
気をつけろと言っても「僕なんて」というし、あいつに告白をしてこようとした奴を幾人阻止したか分からない。それでもサミーは気づかない。
そこにきてあの「幸せになりたい」発言だ。
何が幸せだ。
お前は今まで幸せじゃなかったのかよ!
いつだってニコニコ笑っていたあの笑顔は嘘だったのか。
あの笑顔の下でずっと幸せになりたいと願っていたのかよ。
腹が立った。
本当に腹が立った。
馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、本当に馬鹿だった。
でも俺も大概だ。
その本物の馬鹿をずっと好きでいるんだから。
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