普通の転生者は幸せになる計画を立てる。でも幸せって何?

tamura-k

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14 普通の転生者、怒られるのを覚悟で助けを求める

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 久しぶりに隣町の食堂の仕事がない日、僕はフィルに声をかけた。
 僕に領には帰らないのかって聞いてきたわりにフィルも何だか忙しそうで、朝食も2回に1回は会えなくなった。
 聞いてみたら騎士科はこの季節に希望者が遠征の訓練を行うんだって。
 何で希望をしたのかって言うと、希望をした方が騎士の試験に少しだけ有利になるかららしい。
 それにしてもこの暑いのに遠征の訓練。うん、僕なら間違いなく倒れているね。
 文官を選んでよかった。騎士なんてやっぱり絶対に無理だった。

「フィル、今日の夕食、一緒に取れる? えっとその後ちょっと話をしたいんだけど」

 そう言うとフィルは案の定眉間の皺を深くして「少し遅くなるぞ」と言った。

「うん。大丈夫。ここで待って……」
「部屋に行く、部屋で勉強でもしてろ。声をかけるから」
「わかった」

 それならその方がありがたい。
 後でこっそり食堂のお兄さんにちょっと遅めにフィルとくるねって言っておこう。そうすれば売り切れにはならないから。

「じゃあ、後で。訓練頑張ってね」
「おう」

 フィルは短く返事をして騎士科の方に歩いて行った。フィルの家は代々僕の家を助けてくれる役職にいた。
 それはもうどうしてかしらっていうくらい僕の家系がお金の扱いに向いていないから。何代か前に経営にちょっとだけ向いているんじゃない? っていう人がいて、その人とフィルの家の人のお陰でほんの少し貯えが出来たんだけど、まるでそれを見越していたかのように、その後の代の時に大規模な天候不順による飢饉があって、その貯えのお陰で小さな領と領民は生き延びる事が出来たらしい。
 そういうい人が2,3代続いてくれたら良かったんだけど、その後は通常経営でね。現在に至っている。だからフィルの家が仕えてくれていなければ、本当にエマーソン子爵家は消えていたんだよ。きっと。

 そんなグレンウィールド家だからさ、フィルもまたてっきり経理とかそういう方面に行くんだろうなって思っていたのに、フィルが選んだのは騎士だった。
 どうして? って聞いても兄貴がいるから違うの選んだとしか言わない。
 まぁ、一人数字に強い人が居てくれれば、もう一人は領を守る人で居てくれた方が安心だもんね。家を出て独立している2番目の兄様がそれに近い事を領内でしてくれているけれど、それもいいのかなって思ったんだ。
 だから僕は皆のお邪魔にならないように、ひっそりと自分で自分の事を賄えるようになって暮らそうって決意した。それで万が一何かが起きた時に知識があれば助けられる事もあるかもしれないし、たとえ一役人だとしても、王城に務めているっていう伝手みたいなものがあれば、もしかしたらそれだって役に立つかもしれない。
 大丈夫、だって僕、前世では一応一人暮らしが出来ていたんだから。




「それで、話って言うのは?」

 夕食を食べ終わって、そのまま食堂の隅っこの方で僕はフィルを向き合っていた。
 部屋でって言ったけどフィルがここでいいって。
 なんか部屋で自分も含めて、誰かと二人きりになるような状況は絶対に止めろって言われた。
 そんな事しないよ。部屋に入れるのはフィルとブラッド位だもの。ブラッドもお菓子をくれてお茶を飲むとすぐに帰るしさ。

「ええっと」
「ちょっと待て」

 そう言ってフィルはテーブルの上に小さな四角い箱を置いた。

「これなに?」
「会話を阻害して他に聞こえにくくする道具」
「へぇ、そんなものがあるんだね」
「どうせロクでもない話だろうから同室の奴に持って行けって言われた」

 騎士科は人数が多いから、爵位が低い者は二人部屋になっている。

「……むぅ……」
「むくれてないで話せよ。ほら、食堂から出されちまうぞ」

 そう言われて僕はムッとしながら口を開いた。

「えっとね、実は休暇前に市場の休日マルシェで迷っていた人を助けて、それが公爵家の子息だった」
「ああ」
「その人がどういうわけか、付き合って下さいって言ってきて」
「…………やっぱりか」
「変な人だよね。貧乏子爵家の三男坊にそんな事を言うなんて。断っても聞かないし」
「……お前は……まったく……」

 フィルは苦虫を嚙み潰したような顔をしてそう言うと、はぁっと大きく息を吐いた。

「で? まさかとは思うけど受けるのか? 前に言っていた幸せ探しとやらを実行する為に」
「へ? 何で? どうしてそれが幸せになるの? 嫌だよ。僕、王都で官吏の試験を受けて独り立ちするんだもの。大した力はないけれど、年数を重ねれば、まぁ王城に務めている人がいるっていうくらいの伝手にはなれるでしょ。それを目指しているんだから。大体僕みたいなのと付き合うなんて、ありえないし。すぐに飽きられちゃうよ。」
「…………」
「でね? その人明日のマルシェに来るって言っていて。そんな週末のマルシェに護衛付きの公爵家の子息が来るなんて迷惑でしょう? 目立たないようにするとかわけわからないようにするとかしないとかもうさ、どうしたらいいのか分からないの。どうしたらいいと思う?」
「嫌な事をされたり、無理強いをされたら転移でも何でもいいから逃げろ」
「え?」
「嫌なら逃げろ。もし近くにいたら俺が逃がしてやるから逃げろ」
「フィル」
「領地なしの男爵子息に出来る事なんかそれくらいしかない」

 目を合わせないまま悔しそうにそう言われて、僕は何だかどうしたらいいのか分からなくなってしまった。

「わ、わかった。とにかく嫌な時は嫌って言って逃げるよ。あ、それとね」
「まだあるのか?」

 信じられないというような顔に申し訳なくなりながらも僕はコクリと頷いた。

「うんとね、食堂の方で、転移した所を見られて、付き合ってって言われたの」
「!!! お前は一体何をしているんだ!」

 椅子を倒して立ち上がったフィルに僕は「ヒィッ!」と言ってちょっとだけ泣きそうになった。
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