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17 普通の転生者、秋の夜に攫われる
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よく分からないけれど、公爵子息のアーレンさんはあの後、僕の前にはまったく現れなくなった。
まぁ、マルシェは出禁で僕に会うのは禁止だからね。
フィルに言ったら「良かったな」の一言だけだったけど、以前悔しそうに言っていた「領地なしの男爵子息に出来る事なんか」っていう言葉が何だか頭の中に残っていて、何となく「え? それだけ?」とは言えなかった。
「フィル、家ってさ、高位の貴族とどこか繋がりがあるなんて事あるかな」
「俺が知るかよ」
「だよね~。じゃあ、たまたま苦情が届いてこうなったのかな。縁がなかったって事だね。良かったけど。あとさ、ブラッドがお咎めとか言っててちょっとびっくりしたよ。迷惑かけられてお咎めなんてね」
しみじみとそう言った僕にフィルは珍しく吹き出すように笑って「そうだな」と言った。そして。
「あっちはどうだ?食堂の」
「うん? 相変わらず。接点ないし。なんか暗くて申し訳ないけど、僕に出来る事はないし」
「そうだな。いつまで働くんだ?」
「さすがに試験の前は集中したいから9月でおしまいにするよ。バカンスシーズンでしっかり稼いだから後はそれで乗り切る」
「うん。それがいい。とにかくもうおかしなのをひっかけてくるなよ」
「え? 僕のせい?」
「さあな。分からんけど、お前が昔からおかしな奴に付き合ってほしいって言われるのは確かだな」
「みんな目がおかしいんだ。僕なんて相手にしないでもっと他を見ればいいのに」
ムッとしてそういうと、フィルは少しだけ目を細めるようにして「……なぁ」と声を出した。
「うん?」
「その『僕なんて』っていうの、止めろよ」
「え?」
「何か聞いててムカつくし、僕なんてとか言ってると幸せが来なくなるぞ」
「へ?」
そ、それはほんとに?
「じゃあな。お菓子ばっか食ってるなよ」
頭をポフポフとしてフィルはそのまま自分の部屋の方に行ってしまった。
もうなんだよ。ちゃんと答えていってよ。何となく納得できないけど、まぁ、今日は許してあげよう。
「ほ、ほんとに幸せが来なくなるのかな…………」
そんな事を考えながら僕も部屋に向かった。
このラスボーン王国は前世のように四季がある。
といっても夏はバカンスシーズンが終わると暑さが収まってきて秋になり、冬が少し長い。
残暑がないのは有難いなと思いつつ、僕は残りあと2回になった食堂へと転移をした。
今日も部屋から食堂へ。
最近は黒髪の騎士ダリオンさんはあまり会わない。9月に入ってから忙しくなったのか、それとも僕の態度に失望したのか分からないけど。自分でも何にも言わずに狡いなって思うけど、でも、それでいいと思った。
「え、ロイ辞めちまうのかい?」
常連のオジサンが寂しそうに驚いたようにそう言った。
「うん。冬になったらやる事があるから」
「そうか。淋しくなるな」
「まだ明後日もきますよ」
「そうかい、じゃあ明後日も来るよ」
「は~いお待ちしてますね~。おまたせ、クリーム煮です」
僕は相変わらずクルクルと店の中を動きまわっていた。本当はやめる事を言うつもりはなかったんだけど、マルクがツルっと言っちゃったんだよね。まぁ何年も働かせてもらって顔なじみの人も居るからさ。突然いなくなるっていうのもないかなとも思ったし。仕方ない。
「ロイ!エール2」
「は~い」
「こっちは肉の煮物だ」
「は~い!1番エール2つ。3番肉の煮物」
「はいよ!」
いつもと変わらないやりとりだった。
わいわい混んでいる店の中。気のいい常連客が多くて、悪さをする人はいない。何かちょっとでもあったらすぐに女将さんが怒鳴って、なんなら他の人もそれを応援してくれて、ここで絡まれた事なんて一度もなかった。だから。
「はい、お待ちどうさま。ナッツと野菜の炒め物だよ」
コトンとテーブルの上に皿を置いた途端
「店を辞めるのか?」
「へ?」
上げられた顔。髪の毛は金髪。でもこの顔は………
黒髪のダリオンさん?
「え? な、え?」
腕を掴まれた。
その途端に何かが膨れ上がって、弾ける。
「ロイ!」
マルクの声がして。
僕は、黒髪、もとい金髪の人と店から消えていた。
-----------
あ~( ;∀;)
まぁ、マルシェは出禁で僕に会うのは禁止だからね。
フィルに言ったら「良かったな」の一言だけだったけど、以前悔しそうに言っていた「領地なしの男爵子息に出来る事なんか」っていう言葉が何だか頭の中に残っていて、何となく「え? それだけ?」とは言えなかった。
「フィル、家ってさ、高位の貴族とどこか繋がりがあるなんて事あるかな」
「俺が知るかよ」
「だよね~。じゃあ、たまたま苦情が届いてこうなったのかな。縁がなかったって事だね。良かったけど。あとさ、ブラッドがお咎めとか言っててちょっとびっくりしたよ。迷惑かけられてお咎めなんてね」
しみじみとそう言った僕にフィルは珍しく吹き出すように笑って「そうだな」と言った。そして。
「あっちはどうだ?食堂の」
「うん? 相変わらず。接点ないし。なんか暗くて申し訳ないけど、僕に出来る事はないし」
「そうだな。いつまで働くんだ?」
「さすがに試験の前は集中したいから9月でおしまいにするよ。バカンスシーズンでしっかり稼いだから後はそれで乗り切る」
「うん。それがいい。とにかくもうおかしなのをひっかけてくるなよ」
「え? 僕のせい?」
「さあな。分からんけど、お前が昔からおかしな奴に付き合ってほしいって言われるのは確かだな」
「みんな目がおかしいんだ。僕なんて相手にしないでもっと他を見ればいいのに」
ムッとしてそういうと、フィルは少しだけ目を細めるようにして「……なぁ」と声を出した。
「うん?」
「その『僕なんて』っていうの、止めろよ」
「え?」
「何か聞いててムカつくし、僕なんてとか言ってると幸せが来なくなるぞ」
「へ?」
そ、それはほんとに?
「じゃあな。お菓子ばっか食ってるなよ」
頭をポフポフとしてフィルはそのまま自分の部屋の方に行ってしまった。
もうなんだよ。ちゃんと答えていってよ。何となく納得できないけど、まぁ、今日は許してあげよう。
「ほ、ほんとに幸せが来なくなるのかな…………」
そんな事を考えながら僕も部屋に向かった。
このラスボーン王国は前世のように四季がある。
といっても夏はバカンスシーズンが終わると暑さが収まってきて秋になり、冬が少し長い。
残暑がないのは有難いなと思いつつ、僕は残りあと2回になった食堂へと転移をした。
今日も部屋から食堂へ。
最近は黒髪の騎士ダリオンさんはあまり会わない。9月に入ってから忙しくなったのか、それとも僕の態度に失望したのか分からないけど。自分でも何にも言わずに狡いなって思うけど、でも、それでいいと思った。
「え、ロイ辞めちまうのかい?」
常連のオジサンが寂しそうに驚いたようにそう言った。
「うん。冬になったらやる事があるから」
「そうか。淋しくなるな」
「まだ明後日もきますよ」
「そうかい、じゃあ明後日も来るよ」
「は~いお待ちしてますね~。おまたせ、クリーム煮です」
僕は相変わらずクルクルと店の中を動きまわっていた。本当はやめる事を言うつもりはなかったんだけど、マルクがツルっと言っちゃったんだよね。まぁ何年も働かせてもらって顔なじみの人も居るからさ。突然いなくなるっていうのもないかなとも思ったし。仕方ない。
「ロイ!エール2」
「は~い」
「こっちは肉の煮物だ」
「は~い!1番エール2つ。3番肉の煮物」
「はいよ!」
いつもと変わらないやりとりだった。
わいわい混んでいる店の中。気のいい常連客が多くて、悪さをする人はいない。何かちょっとでもあったらすぐに女将さんが怒鳴って、なんなら他の人もそれを応援してくれて、ここで絡まれた事なんて一度もなかった。だから。
「はい、お待ちどうさま。ナッツと野菜の炒め物だよ」
コトンとテーブルの上に皿を置いた途端
「店を辞めるのか?」
「へ?」
上げられた顔。髪の毛は金髪。でもこの顔は………
黒髪のダリオンさん?
「え? な、え?」
腕を掴まれた。
その途端に何かが膨れ上がって、弾ける。
「ロイ!」
マルクの声がして。
僕は、黒髪、もとい金髪の人と店から消えていた。
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あ~( ;∀;)
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