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22 普通の転生者、家に帰る
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とりあえず、卒業のレポートを早々と提出して、僕は領に向かう馬車に乗っていた。
魔力量は多い方だけど、さすがに王都の外れの学園から辺境地域のエマーソン家まで一気に飛ぶのは無謀で、僕は一度だけ馬車を乗る事にしているんだ。
と言っても、馬車の旅も結構きついし、どこかの宿に泊まるとお金がかかるので残りは転移を使う。
一番長い距離の馬車でも僕の領までは直接は行かないんだもの、そんなにおいそれとは帰れないよね。。
まぁ、有名でもないし、小さいから仕方がないけど。
やっぱりお尻が痛いなぁって思いながら僕はぼんやりと考えごとをしていた。
合格の知らせが来た翌日、早速手続きに行くと面接をした五人のうちの一人がニコニコとしながら迎えてくれた。そしてなんと! お茶とお菓子まで出してくれたんだ。ほぼ初めましてだし、上官だし、普通は食べたりしないよねって思ったんだけど、召し上がらないのですか? と言われたのでいただいてしまいました。
まぁさすがに合格の手続きをした人間を出されたお菓子を食べたから落とすっていう事もないと思ったし。
ものすごく美味しいクッキーケーキで、思わず「美味しいです!」って言ったら「それは良かった」と言われた。
勿論僕はケーキを食べるために王城まで行ったわけではない。必要な書類を書いて、確認をしなければいけないと思われる事はちゃんと聞いてメモもした。一番びっくりだったのは入るはずだった寄宿舎が老朽化で強度に問題が出てしまったので、別の所に建て直すまでは近くに場所を紹介するのでそこに住んでほしいって!
元々ちゃんと自分の屋敷がある役職付きの人はそこから通うし、タウンハウスがある人もわざわざ寄宿舎に入らない。ようするに寄宿舎を好んで使う人って多分あんまりいないんだよね。
ちなみに紹介のお部屋は寄宿舎同様ちゃんとお家賃は公費から出るらしい。良かった。ほんとに良かった。家賃を前借なんて恥ずかしい事にならないで良かった。
お部屋は決まったら知らせるって。一応最低限の家具はついているけれど持ち込みは可能だとか。
後はお仕事について事前の説明とか、お給料の事とか、支給される服の事とか……
ちなみに文官の今年の合格者は3人だって。よく受かったな、僕。もしかしたら今まで集めてきた幸せが力を発揮したのかもしれないね。
(それにしても、どうしてまたお祖父様の事を聞かれたんだろう?)
そうなんだよね。お茶の間にまたお祖父様の事を聞かれたんだ。最近あまり帰っていないと正直に言ったら「そうなんですね」ってまたニコニコしていた。やっぱり知り合いなのかな。
年も同じくらいだし? もしかしたら学生時代の知り合い? でも万が一学生時代の友人だとしても、その孫が試験を受けにきたらこんなにニコニコするかなぁ。役職付きの人たちは勿論高位の人たちで、辺境の小さな子爵家との接点が良く分からない。
そんな事を考えているとようやく乗り換えの街についた。
ほとんどの人はここで一泊をするけれど、僕はしない。ここからなら少し距離はあるけれど、転移が可能な範囲内だ。
だからそれとなく集団を避けて、そしてここが目的地のような顔をして……。
「サミー!」
「へ?」
「お帰りサミー!」
え? ちょっと待って。ここはうちの領じゃないよ?
だけどこの声は確かに。
「と、父様……兄様……」
「はははは! 良く戻ったな。ほら、こっちだ。」
「え? なんで? ええ??」
確かに帰るよって言ったよ。だけどさ、まさか迎えにくるなんてある?
「何だか待ちきれなくなってね。それなら迎えに行ってくればいいって言われてさ。ああ、大きくなった」
いやいやいやいや、父様。去年は帰っているよね。一年でそんなに大きくならないよね。残念だけど。
「ああ、ほんとにサミーだ。うんうん。少し痩せたんじゃないかい?」
いえいえいえいえ、むしろ少し増えました。お菓子を食べる機会が増えて。
「あの、どこへ」
「何をおかしなことを言っているんだ。うちに帰るに決まっているだろう」
「ええ?」
それならどうして馬車乗り場から遠ざかっていくの? 二人は転移の魔法は使えなかったよね? 僕ここから三人で転移するのはさすがに無理だよ?
そう思った僕の前で父様が嬉しそうに笑った。
「お祖父様が作って下さったんだ。転移の魔法陣だ。これならすぐにみんなで家に戻れるぞ」
は? 作る? え?
と思っているうちに父様と兄様はそれを置いて魔法を流し、僕を掴んで……
「お帰りなさい。サミー。夏休みに帰って来なくて心配したのよ。さあ、夕食にしましょう」
まるで朝学校に行った子供が戻ってきたような感じで、母様が見慣れた部屋の中でそう言って笑った。
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魔力量は多い方だけど、さすがに王都の外れの学園から辺境地域のエマーソン家まで一気に飛ぶのは無謀で、僕は一度だけ馬車を乗る事にしているんだ。
と言っても、馬車の旅も結構きついし、どこかの宿に泊まるとお金がかかるので残りは転移を使う。
一番長い距離の馬車でも僕の領までは直接は行かないんだもの、そんなにおいそれとは帰れないよね。。
まぁ、有名でもないし、小さいから仕方がないけど。
やっぱりお尻が痛いなぁって思いながら僕はぼんやりと考えごとをしていた。
合格の知らせが来た翌日、早速手続きに行くと面接をした五人のうちの一人がニコニコとしながら迎えてくれた。そしてなんと! お茶とお菓子まで出してくれたんだ。ほぼ初めましてだし、上官だし、普通は食べたりしないよねって思ったんだけど、召し上がらないのですか? と言われたのでいただいてしまいました。
まぁさすがに合格の手続きをした人間を出されたお菓子を食べたから落とすっていう事もないと思ったし。
ものすごく美味しいクッキーケーキで、思わず「美味しいです!」って言ったら「それは良かった」と言われた。
勿論僕はケーキを食べるために王城まで行ったわけではない。必要な書類を書いて、確認をしなければいけないと思われる事はちゃんと聞いてメモもした。一番びっくりだったのは入るはずだった寄宿舎が老朽化で強度に問題が出てしまったので、別の所に建て直すまでは近くに場所を紹介するのでそこに住んでほしいって!
元々ちゃんと自分の屋敷がある役職付きの人はそこから通うし、タウンハウスがある人もわざわざ寄宿舎に入らない。ようするに寄宿舎を好んで使う人って多分あんまりいないんだよね。
ちなみに紹介のお部屋は寄宿舎同様ちゃんとお家賃は公費から出るらしい。良かった。ほんとに良かった。家賃を前借なんて恥ずかしい事にならないで良かった。
お部屋は決まったら知らせるって。一応最低限の家具はついているけれど持ち込みは可能だとか。
後はお仕事について事前の説明とか、お給料の事とか、支給される服の事とか……
ちなみに文官の今年の合格者は3人だって。よく受かったな、僕。もしかしたら今まで集めてきた幸せが力を発揮したのかもしれないね。
(それにしても、どうしてまたお祖父様の事を聞かれたんだろう?)
そうなんだよね。お茶の間にまたお祖父様の事を聞かれたんだ。最近あまり帰っていないと正直に言ったら「そうなんですね」ってまたニコニコしていた。やっぱり知り合いなのかな。
年も同じくらいだし? もしかしたら学生時代の知り合い? でも万が一学生時代の友人だとしても、その孫が試験を受けにきたらこんなにニコニコするかなぁ。役職付きの人たちは勿論高位の人たちで、辺境の小さな子爵家との接点が良く分からない。
そんな事を考えているとようやく乗り換えの街についた。
ほとんどの人はここで一泊をするけれど、僕はしない。ここからなら少し距離はあるけれど、転移が可能な範囲内だ。
だからそれとなく集団を避けて、そしてここが目的地のような顔をして……。
「サミー!」
「へ?」
「お帰りサミー!」
え? ちょっと待って。ここはうちの領じゃないよ?
だけどこの声は確かに。
「と、父様……兄様……」
「はははは! 良く戻ったな。ほら、こっちだ。」
「え? なんで? ええ??」
確かに帰るよって言ったよ。だけどさ、まさか迎えにくるなんてある?
「何だか待ちきれなくなってね。それなら迎えに行ってくればいいって言われてさ。ああ、大きくなった」
いやいやいやいや、父様。去年は帰っているよね。一年でそんなに大きくならないよね。残念だけど。
「ああ、ほんとにサミーだ。うんうん。少し痩せたんじゃないかい?」
いえいえいえいえ、むしろ少し増えました。お菓子を食べる機会が増えて。
「あの、どこへ」
「何をおかしなことを言っているんだ。うちに帰るに決まっているだろう」
「ええ?」
それならどうして馬車乗り場から遠ざかっていくの? 二人は転移の魔法は使えなかったよね? 僕ここから三人で転移するのはさすがに無理だよ?
そう思った僕の前で父様が嬉しそうに笑った。
「お祖父様が作って下さったんだ。転移の魔法陣だ。これならすぐにみんなで家に戻れるぞ」
は? 作る? え?
と思っているうちに父様と兄様はそれを置いて魔法を流し、僕を掴んで……
「お帰りなさい。サミー。夏休みに帰って来なくて心配したのよ。さあ、夕食にしましょう」
まるで朝学校に行った子供が戻ってきたような感じで、母様が見慣れた部屋の中でそう言って笑った。
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