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36 普通の転生者、祭りが終わって油断する
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春の祭りが終わって、王城の中も少し落ち着いた雰囲気になってきた。通常の業務に戻ったという感じだ。
それはもちろん新米だけでなく、上の方々もほっと一息つかれていらっしゃるようで……
「うん、やっぱりミノタルロスのステーキは美味しいな。今日のソースも合っている」
「そうですなー。お二人とも若いのですから遠慮なく食べなさい」
「…………お言葉ありがとうございます」
「……とても美味しいです」
本日巻き込まれたのはマルグリットさんではなくもう一人の同期、ゴートマンさん。マルグリットさんと同じく伯爵家の方だ。
まるで待ち伏せでもしていたかのように僕とゴートマンさんがお昼の休憩に出たら現れたんだ。しかも今日は宰相様だけでなく副官の方まで。
多分、この方も面接に居たような気がするんだよね。
「そういえば、二人は祭りには参加をしたかね?」
副官の方がにっこり笑って尋ねてきた。
「はい、私は婚約者と一緒に回りました。今年も盛況でした」
「ああ、それは良かった。初めの年は祭りの日を必ず休みにしているからね。楽しめたのなら何よりだ。エマーソン君はどうだったかな」
「……私は、祭り自体が初めてなのでどういったものなのかを把握したくて、幼馴染みと一緒に回りました」
「ふむふむ。では大変だっただろう」
「は?」
ニヤリと笑う上司に思わず変な声が漏れる。大変? 大変って何が大変なの??
「ネイドリー、それでは分からんよ。いやいや、もう分かっていると思うが王都の豊穣を祈る祭りは恋の祭りとも言われていて恋人を求める者が沢山いるんだよ。幼馴染みと回ったならば巻き込まれて大変だったのではないかい?」
ニッコリと笑う宰相様はとても優しい顔だけど、目が笑っていないんだよ。怖い。
「……ああ、いえ、その、白い花をつけて回ったので……」
「ほぉ……」
ああ、失敗したみたい。どうしよう、これでフィルの方に何かあったら。
「ジェラルド、怯えさせてどうするんだ」
「ああ、いや、そんなつもりでは。すまなかったね、エマーソン君。せっかくの食事が。しっかり食べて午後の仕事も頑張りなさい。また夏が近づいてくると忙しくなってくるからね」
「え……夏にもお祭りが?」
「いや、祭りではないよ。第三王子が隣国の第二王女とご結婚されるからね」
まさかのロイヤルウェディングか! ううう。色々大変そうだ。
「勉強不足で申し訳ございません。一生懸命頑張ります」
「ふふふ、そちらの方にも細かい仕事が増えると思いますが、良い経験と思って頑張ってください」
ああ、ごめんなさい。ゴートマンさん。ちょっと引きつっていますね。僕もちょっと倒れそうです。
ううう、幸せが逃げていきそうだよ。
こんな事が何回か続いた6月の始め。
「おい」
背中の方から聞こえてきた不躾な声。うん? 僕、かな?
振り返ると気の強そうな金髪の男が居た。
「はい?」
明らかに高位の貴族だと思う。こんな下っ端の所にどうしたんだろう? まさか迷ったのかな。
「サミュエル・エマーソンとはお前か」
「……はい、そうですが」
答えると男は「ふーん」といいながらジロジロとこちらを眺めた。
「まぁ、冴えない感じだが、磨けば見られるようになるのか」
イラ……とするような事を面と向かって言う様な人間に払う敬意はない。
「私がどうであろうが貴方様には関係ない事です。失礼いたします」
ギリギリで敬語を使って歩き出した僕に男は一瞬呆けて、次の瞬間怒ったように口を開いた。
「関係なくはないだろう! お前は俺の婚約者候補だ!」
「はぁぁぁぁぁぁ?」
「なんだその言いぐさは!」
そう言っていきなり腕を掴んで来た男に僕は勿論学生時代と同様思い切り声を上げた。
「だーれーかー!! 助けてー!!!!! 王城内で人攫い~~~~~~~~!!!」
「!! お、おま、誰が」
「いやぁぁぁぁぁぁ! 殺される~~~~~!」
笑わば笑え。ひ弱な文官なんて、まともに戦って勝てる筈がないんだ。
命大事。怪我も怖い。恥は一時。
「大丈夫ですか!」
「人攫いとは!」
「サミー!!」
王城の見回り騎士達が次々に駆けつけてくる中、真っ赤な顔をして僕の腕を離した男は怒りを込めて怒鳴った。
「誰が人攫いだ!!!!!」
「貴方です!」
「で、殿下!」
うん? 殿下?
僕は湯気が立ちそうなほど怒っている男に、ギギギと油が切れたようなブリキの人形のように顔を向けた。
それはもちろん新米だけでなく、上の方々もほっと一息つかれていらっしゃるようで……
「うん、やっぱりミノタルロスのステーキは美味しいな。今日のソースも合っている」
「そうですなー。お二人とも若いのですから遠慮なく食べなさい」
「…………お言葉ありがとうございます」
「……とても美味しいです」
本日巻き込まれたのはマルグリットさんではなくもう一人の同期、ゴートマンさん。マルグリットさんと同じく伯爵家の方だ。
まるで待ち伏せでもしていたかのように僕とゴートマンさんがお昼の休憩に出たら現れたんだ。しかも今日は宰相様だけでなく副官の方まで。
多分、この方も面接に居たような気がするんだよね。
「そういえば、二人は祭りには参加をしたかね?」
副官の方がにっこり笑って尋ねてきた。
「はい、私は婚約者と一緒に回りました。今年も盛況でした」
「ああ、それは良かった。初めの年は祭りの日を必ず休みにしているからね。楽しめたのなら何よりだ。エマーソン君はどうだったかな」
「……私は、祭り自体が初めてなのでどういったものなのかを把握したくて、幼馴染みと一緒に回りました」
「ふむふむ。では大変だっただろう」
「は?」
ニヤリと笑う上司に思わず変な声が漏れる。大変? 大変って何が大変なの??
「ネイドリー、それでは分からんよ。いやいや、もう分かっていると思うが王都の豊穣を祈る祭りは恋の祭りとも言われていて恋人を求める者が沢山いるんだよ。幼馴染みと回ったならば巻き込まれて大変だったのではないかい?」
ニッコリと笑う宰相様はとても優しい顔だけど、目が笑っていないんだよ。怖い。
「……ああ、いえ、その、白い花をつけて回ったので……」
「ほぉ……」
ああ、失敗したみたい。どうしよう、これでフィルの方に何かあったら。
「ジェラルド、怯えさせてどうするんだ」
「ああ、いや、そんなつもりでは。すまなかったね、エマーソン君。せっかくの食事が。しっかり食べて午後の仕事も頑張りなさい。また夏が近づいてくると忙しくなってくるからね」
「え……夏にもお祭りが?」
「いや、祭りではないよ。第三王子が隣国の第二王女とご結婚されるからね」
まさかのロイヤルウェディングか! ううう。色々大変そうだ。
「勉強不足で申し訳ございません。一生懸命頑張ります」
「ふふふ、そちらの方にも細かい仕事が増えると思いますが、良い経験と思って頑張ってください」
ああ、ごめんなさい。ゴートマンさん。ちょっと引きつっていますね。僕もちょっと倒れそうです。
ううう、幸せが逃げていきそうだよ。
こんな事が何回か続いた6月の始め。
「おい」
背中の方から聞こえてきた不躾な声。うん? 僕、かな?
振り返ると気の強そうな金髪の男が居た。
「はい?」
明らかに高位の貴族だと思う。こんな下っ端の所にどうしたんだろう? まさか迷ったのかな。
「サミュエル・エマーソンとはお前か」
「……はい、そうですが」
答えると男は「ふーん」といいながらジロジロとこちらを眺めた。
「まぁ、冴えない感じだが、磨けば見られるようになるのか」
イラ……とするような事を面と向かって言う様な人間に払う敬意はない。
「私がどうであろうが貴方様には関係ない事です。失礼いたします」
ギリギリで敬語を使って歩き出した僕に男は一瞬呆けて、次の瞬間怒ったように口を開いた。
「関係なくはないだろう! お前は俺の婚約者候補だ!」
「はぁぁぁぁぁぁ?」
「なんだその言いぐさは!」
そう言っていきなり腕を掴んで来た男に僕は勿論学生時代と同様思い切り声を上げた。
「だーれーかー!! 助けてー!!!!! 王城内で人攫い~~~~~~~~!!!」
「!! お、おま、誰が」
「いやぁぁぁぁぁぁ! 殺される~~~~~!」
笑わば笑え。ひ弱な文官なんて、まともに戦って勝てる筈がないんだ。
命大事。怪我も怖い。恥は一時。
「大丈夫ですか!」
「人攫いとは!」
「サミー!!」
王城の見回り騎士達が次々に駆けつけてくる中、真っ赤な顔をして僕の腕を離した男は怒りを込めて怒鳴った。
「誰が人攫いだ!!!!!」
「貴方です!」
「で、殿下!」
うん? 殿下?
僕は湯気が立ちそうなほど怒っている男に、ギギギと油が切れたようなブリキの人形のように顔を向けた。
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