実は私の方が悪女では?ならこのままでいいのですが、なぜか美貌の伯爵様が迫ってきます。

小葉石

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 公爵令嬢セフェーリア・フリンジ。フリンジ公爵のたった一人の子供であり早くに亡くなった最愛の奥方に瓜二つであったがために、これでもかという程に父である公爵に甘やかされ可愛がられて育て上げられてきた。いわば世にいう我が儘な令嬢だった。そして公爵家の令嬢という身分の為に、周囲の者達は彼女の我儘を止めるに止められず……


 乳白色の大理石で作られた聖女の神殿。

 淡い不思議な光が溢れ出る厳粛で神聖な神殿で、セフェーリア・フリンジ公爵令嬢はやらかしてくれた…


 
 数年に一度の聖女の祭りには全国各地からここカシミナント王国に溢れんばかりの人々が集まってくる。カシミナント王国は聖女の力によって成り立ってきたと言っても良いほど聖女信仰が根強い。それは建国当時から力を持つ聖女を数多く抱え込んでいたからでもある。この聖女の祭りもその中の大聖女の力によってカシミナント王国の力と平安を世に表す為に印を起こす神聖な儀式であったのだ。
 もちろん諸外国からは庶民ばかりでなく王侯貴族に至るまでこの祭りを見物に来るカシミナント王国の一大イベントであった。

 


「嫌よ!誰がお前の様な者の意見に耳を傾けるですって?」

 時は祭りの最高潮である。荘厳な祭壇前には全員真っ白な聖女の衣を身に纏い祭壇に焚かれた聖火の前に整然と列し膝を折って並び座った聖女達が大聖女の祈りに合わせて祈りを捧げている。見物人達も同様に固唾を飲み、事の進行をそれぞれに与えられた席で観覧しているはずであった。
 王侯貴族であれば広い神殿内を一望できる上階の席が準備される。その後身分に応じて見学できるスペースは決まり、末席に至っては庶民達にも席が許されると言う恩恵に満ちた式典であった。ゆったりと観覧する者もあれば敬虔に聖女達の祈りを共に口ずさむ信者もいる。それぞれの心境は多々あれどここにいる誰もが祭りに集中し、これから起こるべき不思議を心待ちにしていたのは確かであった。

 それであるのに……

 轟々と焚かれた聖火の前に祈りを捧げている大聖女の耳にもはっきりと、キン、とした女性の声が聞こえてきた。

「ふん!誰がお前をここに寄越したの?こんなくだらないものを持って!」

 女性の声はかなりご立腹している様に聞こえる。周囲にいる者達のボソボソ聞こえてくる焦った様な声はこの女性を止めようとする者達のものだろう。

 大聖女レシェルランの眉根が寄る。

…ねぇ、聞こえているわよ?…

 一体何が気に入らなくて大事な国事とも言える厳粛な祭りの最中に、そんなに金切り声を上げることができるのか…彼女セフェーリア・フリンジ公爵令嬢に関する悪評は最早国中を巡るほどであるのだが、なぜここに連れてきたのかと大聖女レシェルランは舌打ちしたいところをグッと堪える。

 今は祭りの最高潮なのだ。祈りが終わり平和への印を起こすべく願いの書を聖火に投げ入れ術を完成させる。それが大聖女レシェルランの本日のお役目であったのだから。

 












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