蜘蛛の糸の雫

ha-na-ko

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ドライブ

1. 学ランはぶかぶかだ

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僕は中学に上がった。


学ランはぶかぶかだ。
身長160cmと13歳としては小柄ではないが、父さんの知り合いのお兄さんのお下がりらしい。
かばんと体操服は買ってもらえた。

「何かにつけてお金がかかるねぇ」

グチグチと義母さんが言う。
その言葉を聞いて、中学では修学旅行は諦めようと思った。

まあ小学校の修学旅行でも、あの後女の子には「酷い」と罵られ、男の子には「触ったのか?」と問いただされ、
結局いい思い出もなかったし、どちらでもよくなっていた。


その頃から、学校に行く前の早朝、新聞配達のバイトを始めた。
これも義母さんのつてで、バイト代は直接義母さんの懐に入っていった。

早朝、丘の上まで走っての新聞配達。
もう慣れたものだ。後数件で終わる。
中学生に、そんなに多くの部数は任せられないんだろう。

配達後登校時間まで、いつもこの丘の上の公園で時間を潰すのが日課になっていた。

順調に坂を登っていくと、突然隣に高級そうなスポーツカーが急ブレーキをかけた。


キキーッ!

ガチャ!

バタン!!

と激しく扉を開け、こちらに向かってくる長身の男性。
朝日で逆光になり、顔が見えない。
ガッと腕を掴まれ、無理やり車の助手席に押し込まれた。

「!!!!!」

僕は怖くて声も出なかった。

シートベルトを締められたとき、その長身の男性が弘和さんだとわかった。


今度はその驚きのあまり声が出なかった。

声を聞かれるのも、嫌だった。




「ちょっとそこまで、ドライブに付き合ってもらう」

弘和さんはそう一言言うと、丘を越え、さらに山手へと車を走らせた。

僕は手に持っているあと僅かの配達しそびれている新聞が気になった。
だがそのまま膝の上で握りしめ、黙って運転する弘和さんの横顔をそっと見た。

スーツだが、緩めたネクタイがセクシーだった。
運転する左の薬指に指輪は無く、まだ独身なんだとほっとした。
芳香剤のいい匂いの車内で、一段と男らしくキリッとした弘和さんの横顔は、僕には眩しすぎてくらくらした。

もう、会わない。
いや……もう会えないんだ。


次期社長として、本格的に仕事をしていた弘和さんと、ただの中坊の僕。
接点など出来るはずも無かった。

まさか、偶然出会うなんて……。
そして、憶えててくれていたなんて……。

ただ、その態度と口調は怒っているのか、荒々しく、僕は萎縮してしまっていた。




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