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第二章 王国革命からの害虫貴族駆除編
84.まぁ若気の至りで察してくれとしか言いようがないな、あれは(SIDE:トビアス)
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トビアス達の教育担当の総責任者であったドム爺は『筆記試験の成績だけが全てではない』と慰めてくれるし、ブリギッテとその配下の者達も『人には向き不向きがある』と見放そうとはしなかった。
だが、そうした配慮は余計にトビアスの心を苦しめた。
どれだけ努力を重ねても結果が出ない、出口のない迷路へと迷い込んだトビアスは王太子教育から3年後に限界を迎えた。
トビアスは部屋に閉じこもるという、いわゆる引きこもりへと陥った。
しばらく一人で居たい。
誰とも会いたくない。
誰がなんと言おうとも、外に出ない。
そんな気概で扉前にバリケードを築いて引きこもったが…………
「何と……人間砲だぁぁぁぁぁん!!!」
ガッシャァァァァァァァァァン!!!
ハイジが窓を……地上から軽く10メートルの高さはある部屋の窓ガラスを突き破って乱入してきたせいで、籠城は半日程度しか持たなかった。
そんなハイジは窓ガラスを無理やり突き破った代償として所々に出血を伴う切り傷を負うも、痛がる素振りを全くみせずにずかずかと近寄って乱暴に布団を取っ払う。
「ビィト!!今から出かけるよ!!」
「い、いや……その前に怪我のt」
「いいから!!40秒でしたくしな!!!」
「イ、イエスマム!!」
昔からの癖とは恐ろしい物。
お互い15歳になってハイジも淑女らしくなってきたと思ったらこれだ。根本は全く変わってない。
かつてアルプス山のアル爺の元で暮らしていた頃のように……
突拍子の無い無計画な遠出に無理やり付き合わされていた頃のように……
トビアス……いや、ビィトは急ぎ身支度を整えてハイジに手を引かれながら城の外へ出て、街中を抜けて街門前に待機していた馬車に乗り込む。
一体わけがわからないまま馬車に揺られる事数日。
たどり着いたのは……アルプス村だった。
……………………
(あの時は何年かぶりの意図しない帰郷と足腰こそ悪いがまだまだ気力が充実しているアル爺との交流。そして、王族トビアスとしてではなく村人ビィトとして暮らす事で初心を思い出せたのじゃったな。ただまぁ……それ以外にもいろいろとあった。特に夜は……まぁ若気の至りで察してくれとしか言いようがないな、あれは)
トビアスは当時の若い頃を思い出しながら、つい苦笑した。
そんなわけでトビアスは心身のリフレッシュや少々の間違いと引き換えに初心を思い出した。
ハイジは表面上変わったようにみえても根本は全く変わらなかったのと同様、トビアスも根本は何も変わってなかったわけだ。
だからこそ、トビアスはその日から無理して偽るのをやめた。
誰もが認める完璧な王を目指すのをやめた。
トビアスが目指すのは……
昔からハイジの突発的な行動に振り回される日々の中で培った、トラブルの後始末を処理する裏方専門の王だった。
我ながら情けない王だと思う。
でも、結果としてトビアスの選択は正しかった。
王太子妃であるブリギッテは見かけ上だと王としての政務を完璧にこなす理想の王にみえても、裏方からみれば細かい所で粗があった。
大局を見て適切に動く事はできても、足元が疎かなために地固めを担う臣下が必須だったのだ。
その足元を固める役目を伴侶となるトビアスも請け負った。
決して表舞台に出ない裏方であっても、トビアスは一切文句を言わずに黙々とこなすその姿は文官や下働きから評価されるのは当然の流れ。
代わりに華やかな表舞台しか興味ない貴族子息や令嬢達からの評価は散々であるも、自身を偽るのをやめたトビアスはぶれなかった。
いくら優秀であろうとも、地味な裏仕事をこなす者を見下すような者にご機嫌取りをする気は一切なく、仕事以外では一切かかわろうとしなかった。
そのせいで側近候補となっていた者達からは最悪ともいえる関係へと陥るも、将来の王からの不評は貴族として致命的。両親……は王太子のやらかしによる大粛清で処刑された者が大半なので後継人となった叔父や叔母といった親族にこっぴどく咎められたのか、渋々と形だけの忠誠を誓うようになってくれた。
その様をハイジが上から目線で煽りそうになったから、火に油を注ぐような真似はやめろっと相変わらずな考えなしっぷりに頭悩ませられるも……とりあえず側近候補達が形だけでも忠誠を誓ってくれるならっと、トビアスも形だけであるも態度を軟化させる事とした。
そんな少々の火種がくすぶるような生活が続いた3年後。
トビアスは戴冠して王座に……
フランクフルト王国第789代目国王として正式に就任したのである。
世間一般からみれば、政務を満足にこなせない無能な王。
王妃に権力を全て奪われたお飾りの王。
その実態は、王妃を裏から支えるべく奮闘する縁の下の力持ち。
従兄であった王太子と違い、愛する者はいても決して愚かな真似はしない。
自分の立場をしっかりわきまえていた事もあって実際の政務に関わる者達からの評判は悪くなかった。
そして、王となったトビアスにとって最初の仕事が宛がわれる。
それは……
ブリギッテとの子作りであった。
だが、そうした配慮は余計にトビアスの心を苦しめた。
どれだけ努力を重ねても結果が出ない、出口のない迷路へと迷い込んだトビアスは王太子教育から3年後に限界を迎えた。
トビアスは部屋に閉じこもるという、いわゆる引きこもりへと陥った。
しばらく一人で居たい。
誰とも会いたくない。
誰がなんと言おうとも、外に出ない。
そんな気概で扉前にバリケードを築いて引きこもったが…………
「何と……人間砲だぁぁぁぁぁん!!!」
ガッシャァァァァァァァァァン!!!
ハイジが窓を……地上から軽く10メートルの高さはある部屋の窓ガラスを突き破って乱入してきたせいで、籠城は半日程度しか持たなかった。
そんなハイジは窓ガラスを無理やり突き破った代償として所々に出血を伴う切り傷を負うも、痛がる素振りを全くみせずにずかずかと近寄って乱暴に布団を取っ払う。
「ビィト!!今から出かけるよ!!」
「い、いや……その前に怪我のt」
「いいから!!40秒でしたくしな!!!」
「イ、イエスマム!!」
昔からの癖とは恐ろしい物。
お互い15歳になってハイジも淑女らしくなってきたと思ったらこれだ。根本は全く変わってない。
かつてアルプス山のアル爺の元で暮らしていた頃のように……
突拍子の無い無計画な遠出に無理やり付き合わされていた頃のように……
トビアス……いや、ビィトは急ぎ身支度を整えてハイジに手を引かれながら城の外へ出て、街中を抜けて街門前に待機していた馬車に乗り込む。
一体わけがわからないまま馬車に揺られる事数日。
たどり着いたのは……アルプス村だった。
……………………
(あの時は何年かぶりの意図しない帰郷と足腰こそ悪いがまだまだ気力が充実しているアル爺との交流。そして、王族トビアスとしてではなく村人ビィトとして暮らす事で初心を思い出せたのじゃったな。ただまぁ……それ以外にもいろいろとあった。特に夜は……まぁ若気の至りで察してくれとしか言いようがないな、あれは)
トビアスは当時の若い頃を思い出しながら、つい苦笑した。
そんなわけでトビアスは心身のリフレッシュや少々の間違いと引き換えに初心を思い出した。
ハイジは表面上変わったようにみえても根本は全く変わらなかったのと同様、トビアスも根本は何も変わってなかったわけだ。
だからこそ、トビアスはその日から無理して偽るのをやめた。
誰もが認める完璧な王を目指すのをやめた。
トビアスが目指すのは……
昔からハイジの突発的な行動に振り回される日々の中で培った、トラブルの後始末を処理する裏方専門の王だった。
我ながら情けない王だと思う。
でも、結果としてトビアスの選択は正しかった。
王太子妃であるブリギッテは見かけ上だと王としての政務を完璧にこなす理想の王にみえても、裏方からみれば細かい所で粗があった。
大局を見て適切に動く事はできても、足元が疎かなために地固めを担う臣下が必須だったのだ。
その足元を固める役目を伴侶となるトビアスも請け負った。
決して表舞台に出ない裏方であっても、トビアスは一切文句を言わずに黙々とこなすその姿は文官や下働きから評価されるのは当然の流れ。
代わりに華やかな表舞台しか興味ない貴族子息や令嬢達からの評価は散々であるも、自身を偽るのをやめたトビアスはぶれなかった。
いくら優秀であろうとも、地味な裏仕事をこなす者を見下すような者にご機嫌取りをする気は一切なく、仕事以外では一切かかわろうとしなかった。
そのせいで側近候補となっていた者達からは最悪ともいえる関係へと陥るも、将来の王からの不評は貴族として致命的。両親……は王太子のやらかしによる大粛清で処刑された者が大半なので後継人となった叔父や叔母といった親族にこっぴどく咎められたのか、渋々と形だけの忠誠を誓うようになってくれた。
その様をハイジが上から目線で煽りそうになったから、火に油を注ぐような真似はやめろっと相変わらずな考えなしっぷりに頭悩ませられるも……とりあえず側近候補達が形だけでも忠誠を誓ってくれるならっと、トビアスも形だけであるも態度を軟化させる事とした。
そんな少々の火種がくすぶるような生活が続いた3年後。
トビアスは戴冠して王座に……
フランクフルト王国第789代目国王として正式に就任したのである。
世間一般からみれば、政務を満足にこなせない無能な王。
王妃に権力を全て奪われたお飾りの王。
その実態は、王妃を裏から支えるべく奮闘する縁の下の力持ち。
従兄であった王太子と違い、愛する者はいても決して愚かな真似はしない。
自分の立場をしっかりわきまえていた事もあって実際の政務に関わる者達からの評判は悪くなかった。
そして、王となったトビアスにとって最初の仕事が宛がわれる。
それは……
ブリギッテとの子作りであった。
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