55 / 77
シャウトの仕方なかった日常
影さんの実家
しおりを挟む
「達矢、あんた、ほんまに新幹線で乗り継いでいく気なんかいな!」
大阪駅で途中下車した俺に、オカンが最初に投げつけたのは、そんな一言だった。
「そのつもりやで?」
「こんな小さな子をつれて! いったい何時間かかる思うてんの! なんで飛行機で一思いに飛んでいかへんの?!」
「だって俺、飛ぶのイヤやし」
「イヤやしって! ほな、なんでパイロットになったん?!」
「そこが不思議なんや、それこそ影山家七不思議のひとっ……イテッ」
とうとう頭をはたかれた。
「ほんまにこの子ときたら! 真由美さん、かんにんなー? ちっちゃい子つれて、ほんまに疲れたやろー?」
「いえ。グリーン車でしたし、みっくんも電車が大好きなので、良い子にしてましたから。それに、みっくんのことは、ほとんど達矢さんが面倒を見てくれていたので。疲れているとしたら、きっと私ではなく達矢さんのほうですよ」
嫁ちゃんがニコニコしながら答える。
「それにや。新幹線使わへんかったら、こうやって大阪で途中下車して、一泊もできひんかったんやで?……イテッ」
ふたたび頭をはたかれた。
「あんな、親孝行っちゅうもんは、自分の妻と子供のことを差し置いてまですることやないの!! 真由美さんとみっくんを疲れさせてまで会いたいとは思わへんよ、オカーチャンは!!」
目を吊り上げて怒っている。そんなオカンを見ていたチビスケが、少しだけ不安げな顔をした。
「ばーば、あいたくなかったー?」
「ほれみい。そんなこと言うから、みっくんが自分と会いたくなかったんかって心配してるやんか」
とたんにオカンは甘々なおばーちゃんの顔になる。
「そんなことあらへんよ、みっくん。ばーばは、みっくんとママに会えてほんまにうれしいんやでー」
「パパはー?」
「……そら、パパにも会えてうれしいで?」
そう言いながら俺のことをキッとにらんだ。
「あんな、ほんまは大阪で途中下車せずに、東京まで一気に行ってまう気やったんや。せやけど、せっかくやしオカン達に孫の顔を見せたいと言ってくれたんは、嫁ちゃんなんや。つまりこれは、俺だけの親孝行やのうて、俺と嫁ちゃんの親孝行なんやで?」
「それは結果論や。あんたが飛行機を使わへんから、そういう選択肢が出てきたんやろ?」
まったく、うちのオカンときたら。
「はー……嫁ちゃんや、こんなんやで。ほんまに今日うちに泊まってくんか? このまま仙台まで、一気に行ってまうほうがええんちゃう?」
「でも、せっかく降りたんだから、達矢君ちにお泊りしていこう? たこ焼きとお好み焼き、皆でつくるのをみっくんは楽しみにしてるし」
「じーじのたこやきー、おここみやきー!!」
チビスケが声をあげた。
「ああ、そうやったな。ここで引き返してもうたら、オトンはみっくんに会えずじまいやもんな」
オカンはこうやって改札口まで迎えに来たが、オトンは駅前のコインパーキングで、車をとめて待っているらしい。
理由? 理由は駅構内が人であふれかえっているからだ。うちのオトンは、基本的に一人で静かにすごしたい人間だった。まあそんな人間が、どうして口から生まれてきたようなオカンと結婚したのか、これこそ影山家七不思議の筆頭ってやつだ。
「ほな行こかー」
俺達は人混みを横切って、車が止めてある場所へと向かうことになった。
「ねえ達矢君」
「なんや?」
俺達の前を歩いているオカンを見て、嫁ちゃんがささやいてくる。
「あいかわらず、お義母さんのモーゼ現象すごい」
「あー……ほんまやで。なんやろな、この現象」
俺達の前を歩いているオカン。これだけ大勢の人が歩いているのに、なぜか母親が歩いていると、その前の人混みがきれいに二つに分かれて道ができるのだ。それを初めて見た時に、感動した嫁ちゃんがつけたのが『お義母さんのモーゼ現象』という名前だった。
「ほら、なにもたもたしてんの? はよう行かんかったら日が暮れてしまうで?」
「まだ昼前やけどなー」
「なんやて?!」
「なんでもないでー」
俺と嫁ちゃんは顔を見合わせて笑いながら、オカンの後ろに続いた。
+++
「じーじー!!」
車の横に立っていたオトンをいち早く見つけたチビスケが、嬉しそうに声をあげた。オトンもチビスケの声が聞こえたのか、満面の笑みで手をふってくる。
「ほんま、みっくんはじーじが好きやなあ……ちょっと、おとなしゅうしとき。落ちるで」
抱っこしている俺の腕の中で、ジタバタするチビスケに注意をする。
本当にチビスケのオトン好きは不思議だ。うちのオトンは寡黙で、特にチビスケと積極的に遊んでいるわけではなかった。どちらかと言えば家の縁側に座り、庭で遊んでいるチビスケを見守っているだけのことが多いのだ。なのにうちのチビスケときたら、じーじが大好きでしかたがないらしい。
「じーじー!」
目の前までいくと、チビスケがオトンに手をのばして抱っこをねだる。オトンはねだられるまま、チビスケを抱きとめた。
「おう、みっくん。しばらく見んうちにおおきゅうなったな。そろそろじーじも抱っこがきつうなってきたわ」
「大きくなったやろ?」
「ほんまにな」
俺がそう言うと、オトンはニッコリと笑った。そして嫁ちゃんのほうに目を向ける。
「真由美さんも九州からお疲れさんやったな。わざわざ途中下車までして寄ってくれておおきにやで」
「こちらこそ、今日はお世話になります」
「ほな、行こかー、はようせんかったら、日ぃくれるで」
「まだ昼前やけどなー……」
夫婦そろって同じことを言っているのに気づいた嫁ちゃんが、声をころして笑った。
俺の実家は大阪の中心部からは少し離れた場所にある。結婚した当時、母親はもっとにぎやかな場所が良かったらしいんだが、父親が静かな新興住宅地のほうが子育てには向いていると言って、ここに居をかまえたらしい。今ではたくさんの家が建ち、すっかり大阪市郊外の住宅地として定着していた。そしてここが俺の故郷だ。
「まさか、お前がブルーとはなあ……」
実家に到着すると、オカンと嫁ちゃんがたこ焼きパーティーの準備をしている間、俺とオトンは、チビスケが庭で遊んでいるのを見守ることを命じられた。そして男二人、縁側に落ち着くと話は自然と俺の仕事のことになった。
「そうやねん。びっくりやろ?」
「飛びたくないがついにここまで来たか~」
「なんでやろうな」
「イヤもイヤも好きなうちってやつやろ」
「いや、俺はほんまに飛びたないねんてば」
「そーかー?」
オトンは俺の言葉に首をかしげる。
「そうやねんて」
「ほー……」
「ほーやないねんて」
「ほーん」
「ほーんでもないねんて」
久し振りのオトンとの会話が、いつも通りで安心した。このなんとも言えない微妙なやり取りが実に落ち着くのだ。
「大阪やと、どこが一番近いんや?」
「ブルーが来る基地か? どうやろな、小松か小牧? あとは海自の岩国?」
「お前が飛ぶんを見るの楽しみにしとるわ。うっかり忘れそうやけどな」
「息子がどこにいるんか忘れるんかい」
思わずツッコミを入れる。
「しかし東松島か。また遠いとこやな」
「そうやな。でも嫁ちゃんの実家が近いから、嫁ちゃんは心強いと思うわ」
「ああ、そうやったな」
そうだったと相づちをうった。
「あっちは大丈夫なんか? もう落ち着いたんか?」
「そこは心配なしや。新しいお店もオープンしたし、お客さんも戻ってきてるらしい」
「そうか。それやったらええんやけどな。もしなにか困ってることがあるようやったら、遠慮なくこっちに言ってきたらええからな? 助け合ってこその親戚づきあいやから」
「わかってる」
お互いに大阪と宮城と離れているせいで、なかなか顔を合せる機会がない俺の実家と嫁ちゃんの実家。それこそきちんと全員が顔を合せたのは、結婚式の時だけだったかもしれない。そのせいもあって、オトンは遠く離れた嫁ちゃんの実家のことを気にかけていた。
「じーじー!」
「どないした、みっくん」
「パパ、ブルー!!」
「おお、そうなんやてな。パパ、ブルーになるんやて?」
「まだないしょー!」
「内緒なんかいな。そうなんか?」
オトンがこっちを見る。
「まあ、あまり人様に言うことではないわな。どうなるかわからへんし」
「ほな、それ、おかーちゃんにしっかり言い聞かせておかなな」
「ほんまや、たのむで」
「用意できたでー!」
オカンの元気な声が後ろからした。
「みっくん、たこ焼きパーティのスタートらしいで」
オトンがそう言うと、チビスケは喜んで靴を脱ぎすててあがってくる。
「たこ焼きする前に手、洗わんとあかんで。行こかー?」
「はーい!!」
+++++
翌日、オカンとオトンはホームまで見送りに来てくれた。
「大丈夫なんかいな、人混みで倒れへん? 帰りはきぃつけや?」
「心配あらへん。それよりおかーちゃんこそ大丈夫かいな、どこまで行ったんや。そのへんで人を蹴散らしてへんか?」
オカンはなにか買ってくると言って、俺達とは別行動をしていた。そろそろ俺達が乗る新幹線が到着するころなんだが……。あたりを見回して探していると、紙袋を持ったオカンが足早にこっちにやってきた。
「ああ、間に合った」
「なにしとったん」
「はい、真由美さん。これ、カツサンドとアップルパイ。新幹線の中で食べてな」
オカンが嫁ちゃんに渡したのは手に持っていた紙袋。中をのぞくと人数分のカツサンドとアップルパイが一箱、そしてお茶と紅茶のペットボトルが数本入っていた。
「オカン、買いすぎやで。中で車販あるんやから……」
「せやかて車内販売が通らへんかったら一大事やん。持っていき。東京からまだ先に行かなあかんのやし。あまったら家についてから食べたらええやん」
「ありがとうございます。これ、新幹線のホームでしか売ってないやつですよね? 嬉しいな、一度、食べたかったんです」
嫁ちゃんが嬉しそうに言う。
「そうなんか?」
「そうやで。お土産に買うていこうと思ってて、いっつも買えへんかったんや。今日はあって良かったわ」
ホームに、新幹線の到着を知らせるアナウンスが流れた。さて、そろそろ長距離移動の再開や。
「ほな、気ぃつけて」
「おう」
「真由美さん、うちのアホ息子のこと、よろしゅう頼みます」
オカンがあらたまった態度で頭をさげた。
「アホってなんやねん」
「お任せください。ちゃんと元気に飛ぶように、責任をもって後押ししますから」
「そっちかいな。はー……飛びたないんやけどなあ……」
「ばーば、じーじ、ばいばーい!」
「ばいばい、みっくん。あっちのばーばとじーじにもよろしゅうな?」
「はーい!」
オカンとオトンが、チビスケとさよならの握手をする。
「真由美さんの御両親にもよろしゅうな」
「わかった」
新幹線がホームに入ってきた。新しく導入されることになった新型車両だ。チビスケはあっという間にそっちに気をとられ、じーさんばーさんのことなんてほったらかしになった。その様子に大人達は苦笑いするしかない。
「じゃ、またな」
「お世話になりました」
「道中、気ぃつけて」
「あっちについたら電話してな」
俺達三人は二人に見送られて新幹線に乗り込む。
「さー、こっからがまた長いで~~」
外で手を振る両親達を残し、俺達を乗せた新幹線は東京に向けて出発した。
大阪駅で途中下車した俺に、オカンが最初に投げつけたのは、そんな一言だった。
「そのつもりやで?」
「こんな小さな子をつれて! いったい何時間かかる思うてんの! なんで飛行機で一思いに飛んでいかへんの?!」
「だって俺、飛ぶのイヤやし」
「イヤやしって! ほな、なんでパイロットになったん?!」
「そこが不思議なんや、それこそ影山家七不思議のひとっ……イテッ」
とうとう頭をはたかれた。
「ほんまにこの子ときたら! 真由美さん、かんにんなー? ちっちゃい子つれて、ほんまに疲れたやろー?」
「いえ。グリーン車でしたし、みっくんも電車が大好きなので、良い子にしてましたから。それに、みっくんのことは、ほとんど達矢さんが面倒を見てくれていたので。疲れているとしたら、きっと私ではなく達矢さんのほうですよ」
嫁ちゃんがニコニコしながら答える。
「それにや。新幹線使わへんかったら、こうやって大阪で途中下車して、一泊もできひんかったんやで?……イテッ」
ふたたび頭をはたかれた。
「あんな、親孝行っちゅうもんは、自分の妻と子供のことを差し置いてまですることやないの!! 真由美さんとみっくんを疲れさせてまで会いたいとは思わへんよ、オカーチャンは!!」
目を吊り上げて怒っている。そんなオカンを見ていたチビスケが、少しだけ不安げな顔をした。
「ばーば、あいたくなかったー?」
「ほれみい。そんなこと言うから、みっくんが自分と会いたくなかったんかって心配してるやんか」
とたんにオカンは甘々なおばーちゃんの顔になる。
「そんなことあらへんよ、みっくん。ばーばは、みっくんとママに会えてほんまにうれしいんやでー」
「パパはー?」
「……そら、パパにも会えてうれしいで?」
そう言いながら俺のことをキッとにらんだ。
「あんな、ほんまは大阪で途中下車せずに、東京まで一気に行ってまう気やったんや。せやけど、せっかくやしオカン達に孫の顔を見せたいと言ってくれたんは、嫁ちゃんなんや。つまりこれは、俺だけの親孝行やのうて、俺と嫁ちゃんの親孝行なんやで?」
「それは結果論や。あんたが飛行機を使わへんから、そういう選択肢が出てきたんやろ?」
まったく、うちのオカンときたら。
「はー……嫁ちゃんや、こんなんやで。ほんまに今日うちに泊まってくんか? このまま仙台まで、一気に行ってまうほうがええんちゃう?」
「でも、せっかく降りたんだから、達矢君ちにお泊りしていこう? たこ焼きとお好み焼き、皆でつくるのをみっくんは楽しみにしてるし」
「じーじのたこやきー、おここみやきー!!」
チビスケが声をあげた。
「ああ、そうやったな。ここで引き返してもうたら、オトンはみっくんに会えずじまいやもんな」
オカンはこうやって改札口まで迎えに来たが、オトンは駅前のコインパーキングで、車をとめて待っているらしい。
理由? 理由は駅構内が人であふれかえっているからだ。うちのオトンは、基本的に一人で静かにすごしたい人間だった。まあそんな人間が、どうして口から生まれてきたようなオカンと結婚したのか、これこそ影山家七不思議の筆頭ってやつだ。
「ほな行こかー」
俺達は人混みを横切って、車が止めてある場所へと向かうことになった。
「ねえ達矢君」
「なんや?」
俺達の前を歩いているオカンを見て、嫁ちゃんがささやいてくる。
「あいかわらず、お義母さんのモーゼ現象すごい」
「あー……ほんまやで。なんやろな、この現象」
俺達の前を歩いているオカン。これだけ大勢の人が歩いているのに、なぜか母親が歩いていると、その前の人混みがきれいに二つに分かれて道ができるのだ。それを初めて見た時に、感動した嫁ちゃんがつけたのが『お義母さんのモーゼ現象』という名前だった。
「ほら、なにもたもたしてんの? はよう行かんかったら日が暮れてしまうで?」
「まだ昼前やけどなー」
「なんやて?!」
「なんでもないでー」
俺と嫁ちゃんは顔を見合わせて笑いながら、オカンの後ろに続いた。
+++
「じーじー!!」
車の横に立っていたオトンをいち早く見つけたチビスケが、嬉しそうに声をあげた。オトンもチビスケの声が聞こえたのか、満面の笑みで手をふってくる。
「ほんま、みっくんはじーじが好きやなあ……ちょっと、おとなしゅうしとき。落ちるで」
抱っこしている俺の腕の中で、ジタバタするチビスケに注意をする。
本当にチビスケのオトン好きは不思議だ。うちのオトンは寡黙で、特にチビスケと積極的に遊んでいるわけではなかった。どちらかと言えば家の縁側に座り、庭で遊んでいるチビスケを見守っているだけのことが多いのだ。なのにうちのチビスケときたら、じーじが大好きでしかたがないらしい。
「じーじー!」
目の前までいくと、チビスケがオトンに手をのばして抱っこをねだる。オトンはねだられるまま、チビスケを抱きとめた。
「おう、みっくん。しばらく見んうちにおおきゅうなったな。そろそろじーじも抱っこがきつうなってきたわ」
「大きくなったやろ?」
「ほんまにな」
俺がそう言うと、オトンはニッコリと笑った。そして嫁ちゃんのほうに目を向ける。
「真由美さんも九州からお疲れさんやったな。わざわざ途中下車までして寄ってくれておおきにやで」
「こちらこそ、今日はお世話になります」
「ほな、行こかー、はようせんかったら、日ぃくれるで」
「まだ昼前やけどなー……」
夫婦そろって同じことを言っているのに気づいた嫁ちゃんが、声をころして笑った。
俺の実家は大阪の中心部からは少し離れた場所にある。結婚した当時、母親はもっとにぎやかな場所が良かったらしいんだが、父親が静かな新興住宅地のほうが子育てには向いていると言って、ここに居をかまえたらしい。今ではたくさんの家が建ち、すっかり大阪市郊外の住宅地として定着していた。そしてここが俺の故郷だ。
「まさか、お前がブルーとはなあ……」
実家に到着すると、オカンと嫁ちゃんがたこ焼きパーティーの準備をしている間、俺とオトンは、チビスケが庭で遊んでいるのを見守ることを命じられた。そして男二人、縁側に落ち着くと話は自然と俺の仕事のことになった。
「そうやねん。びっくりやろ?」
「飛びたくないがついにここまで来たか~」
「なんでやろうな」
「イヤもイヤも好きなうちってやつやろ」
「いや、俺はほんまに飛びたないねんてば」
「そーかー?」
オトンは俺の言葉に首をかしげる。
「そうやねんて」
「ほー……」
「ほーやないねんて」
「ほーん」
「ほーんでもないねんて」
久し振りのオトンとの会話が、いつも通りで安心した。このなんとも言えない微妙なやり取りが実に落ち着くのだ。
「大阪やと、どこが一番近いんや?」
「ブルーが来る基地か? どうやろな、小松か小牧? あとは海自の岩国?」
「お前が飛ぶんを見るの楽しみにしとるわ。うっかり忘れそうやけどな」
「息子がどこにいるんか忘れるんかい」
思わずツッコミを入れる。
「しかし東松島か。また遠いとこやな」
「そうやな。でも嫁ちゃんの実家が近いから、嫁ちゃんは心強いと思うわ」
「ああ、そうやったな」
そうだったと相づちをうった。
「あっちは大丈夫なんか? もう落ち着いたんか?」
「そこは心配なしや。新しいお店もオープンしたし、お客さんも戻ってきてるらしい」
「そうか。それやったらええんやけどな。もしなにか困ってることがあるようやったら、遠慮なくこっちに言ってきたらええからな? 助け合ってこその親戚づきあいやから」
「わかってる」
お互いに大阪と宮城と離れているせいで、なかなか顔を合せる機会がない俺の実家と嫁ちゃんの実家。それこそきちんと全員が顔を合せたのは、結婚式の時だけだったかもしれない。そのせいもあって、オトンは遠く離れた嫁ちゃんの実家のことを気にかけていた。
「じーじー!」
「どないした、みっくん」
「パパ、ブルー!!」
「おお、そうなんやてな。パパ、ブルーになるんやて?」
「まだないしょー!」
「内緒なんかいな。そうなんか?」
オトンがこっちを見る。
「まあ、あまり人様に言うことではないわな。どうなるかわからへんし」
「ほな、それ、おかーちゃんにしっかり言い聞かせておかなな」
「ほんまや、たのむで」
「用意できたでー!」
オカンの元気な声が後ろからした。
「みっくん、たこ焼きパーティのスタートらしいで」
オトンがそう言うと、チビスケは喜んで靴を脱ぎすててあがってくる。
「たこ焼きする前に手、洗わんとあかんで。行こかー?」
「はーい!!」
+++++
翌日、オカンとオトンはホームまで見送りに来てくれた。
「大丈夫なんかいな、人混みで倒れへん? 帰りはきぃつけや?」
「心配あらへん。それよりおかーちゃんこそ大丈夫かいな、どこまで行ったんや。そのへんで人を蹴散らしてへんか?」
オカンはなにか買ってくると言って、俺達とは別行動をしていた。そろそろ俺達が乗る新幹線が到着するころなんだが……。あたりを見回して探していると、紙袋を持ったオカンが足早にこっちにやってきた。
「ああ、間に合った」
「なにしとったん」
「はい、真由美さん。これ、カツサンドとアップルパイ。新幹線の中で食べてな」
オカンが嫁ちゃんに渡したのは手に持っていた紙袋。中をのぞくと人数分のカツサンドとアップルパイが一箱、そしてお茶と紅茶のペットボトルが数本入っていた。
「オカン、買いすぎやで。中で車販あるんやから……」
「せやかて車内販売が通らへんかったら一大事やん。持っていき。東京からまだ先に行かなあかんのやし。あまったら家についてから食べたらええやん」
「ありがとうございます。これ、新幹線のホームでしか売ってないやつですよね? 嬉しいな、一度、食べたかったんです」
嫁ちゃんが嬉しそうに言う。
「そうなんか?」
「そうやで。お土産に買うていこうと思ってて、いっつも買えへんかったんや。今日はあって良かったわ」
ホームに、新幹線の到着を知らせるアナウンスが流れた。さて、そろそろ長距離移動の再開や。
「ほな、気ぃつけて」
「おう」
「真由美さん、うちのアホ息子のこと、よろしゅう頼みます」
オカンがあらたまった態度で頭をさげた。
「アホってなんやねん」
「お任せください。ちゃんと元気に飛ぶように、責任をもって後押ししますから」
「そっちかいな。はー……飛びたないんやけどなあ……」
「ばーば、じーじ、ばいばーい!」
「ばいばい、みっくん。あっちのばーばとじーじにもよろしゅうな?」
「はーい!」
オカンとオトンが、チビスケとさよならの握手をする。
「真由美さんの御両親にもよろしゅうな」
「わかった」
新幹線がホームに入ってきた。新しく導入されることになった新型車両だ。チビスケはあっという間にそっちに気をとられ、じーさんばーさんのことなんてほったらかしになった。その様子に大人達は苦笑いするしかない。
「じゃ、またな」
「お世話になりました」
「道中、気ぃつけて」
「あっちについたら電話してな」
俺達三人は二人に見送られて新幹線に乗り込む。
「さー、こっからがまた長いで~~」
外で手を振る両親達を残し、俺達を乗せた新幹線は東京に向けて出発した。
14
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
今日も青空、イルカ日和
鏡野ゆう
ライト文芸
浜路るいは航空自衛隊第四航空団飛行群第11飛行隊、通称ブルーインパルスの整備小隊の整備員。そんな彼女が色々な意味で少しだけ気になっているのは着隊一年足らずのドルフィンライダー(予定)白勢一等空尉。そしてどうやら彼は彼女が整備している機体に乗ることになりそうで……? 空を泳ぐイルカ達と、ドルフィンライダーとドルフィンキーパーの恋の小話。
【本編】+【小話】+【小ネタ】
※第1回ライト文芸大賞で読者賞をいただきました。ありがとうございます。※
こちらには
ユーリ(佐伯瑠璃)さん作『その手で、愛して。ー 空飛ぶイルカの恋物語 ー』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/515275725/999154031
ユーリ(佐伯瑠璃)さん作『ウィングマンのキルコール』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/515275725/972154025
饕餮さん作『私の彼は、空飛ぶイルカに乗っている』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/812151114
白い黒猫さん作『イルカフェ今日も営業中』
https://ncode.syosetu.com/n7277er/
に出てくる人物が少しだけ顔を出します。それぞれ許可をいただいています。
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
十年目の結婚記念日
あさの紅茶
ライト文芸
結婚して十年目。
特別なことはなにもしない。
だけどふと思い立った妻は手紙をしたためることに……。
妻と夫の愛する気持ち。
短編です。
**********
このお話は他のサイトにも掲載しています
報酬はその笑顔で
鏡野ゆう
ライト文芸
彼女がその人と初めて会ったのは夏休みのバイト先でのことだった。
自分に正直で真っ直ぐな女子大生さんと、にこにこスマイルのパイロットさんとのお話。
『貴方は翼を失くさない』で榎本さんの部下として登場した飛行教導群のパイロット、但馬一尉のお話です。
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる