変人悪役令嬢はイケメン探しに没頭する

柊 月

文字の大きさ
4 / 13

変人、決意する

しおりを挟む


「ねぇキャシー、わたくしの国に留学してこない?」



 友人の提案はキャサリンには酷く甘美に聞こえた。この国の法律では16歳の男女は何処かしらの学園に通わなければならないと定められている。これで自分が留学してしまえば、ザカリーとそのお気に入りの子に関わらずに済む。つまり、自分が断罪されるのは限りなくゼロに近くなるのだ。



「………でも、難しいと思うわ。きっと許されないと思うの」



 昔は色々打開策を考えた。
 婚約者候補からも降りる為に頭の悪い令嬢を演じようとしたり、それこそ留学も考えたりした。だが、出来なかった。いや、しなかった。

 途中で諦めてしまったのだ。
 どうせ記憶通りに進むのだからと。



「それで本当に良いの?こちらに留学してくれば、殿下に会わなくていいのよ?婚約発表は3年後でいいんでしょう?だったら良いじゃない。その間に良い人を見つければ。ほら、あの殿下なら大丈夫よ」



 ちゃらんぽらんだから何かしらやらかすわ。
 明言は避けたコーデリアだが、キャサリンにはその先がバッチリ聞こえた。



「ね?キャシー。諦めないで?わたくしは貴方に幸せになって貰いたいの」



 良い友人を持ったものだとキャサリンは常々思う。その言葉に勇気を貰ったキャサリンは、両親に進言する事を決意した。キャサリンの返答にコーデリアは破顔する。



「そうこなくっちゃ!貴方と通える事を楽しみにしているわね!」





















 その日の夜、キャサリンは侯爵夫妻に頭を下げた。案の定、両親はキャサリンの留学に渋る。



「いきなりどうしたんだ。王都の学園では駄目なのか?」



 フィッツ侯爵はキャサリンの肩に手を置き、心配げにキャサリンの顔を覗く。鬼の宰相とも呼ばれる侯爵がそんな弱々しい顔をしているなんて部下が知ったのなら彼等は卒倒するだろう。



「はい。どうしても」



 基本キャサリンのお願いは二つ返事で許してくれる二人だが、今回は珍しく直ぐには許可を貰えなかった。



「確かにロアノーク辺境伯の令嬢がいるが……そういう問題ではない。留学してしまえば、こっちに帰ってこられるのも良くて半年に一度だ。私達は心配なんだよ」

「きちんと手紙も書きますわ。なるべく家に帰るようにもします。ですから――」



 彼女の必死さに夫妻は反対の言葉をもう何も言えなかった。夫人は頭を横に振り、侯爵は一度天井を見上げてから娘に向き直る。



「ちゃんと手紙を書いて、侍女も連れていきなさい。それが守れるなら許可する」



 キャサリンは薔薇の花が咲いた様に華やかな笑みを浮かべ、侯爵に抱き着いた。侯爵もまた微笑みを浮かべ、優しく彼女を抱き締める。

 ……まぁ侯爵と付き合いの長い執事にとっては、あの時の彼は頬が完全に緩みデレデレしていたので、かなり気持ちが悪かt((( ……ようだが。

 書斎から出たキャサリンは興奮冷めならない様子で自室に戻り、大きくガッツポーズをした。キャサリンが今回留学という選択をしたのは、何もザカリーと距離が出来るからというだけでは無い。寧ろこちらがおまけの理由かもしれない。

 彼女の本命は、留学先のイケメンを描くこと。
 これただ一つに限る。

 きっと今以上に様々な出会いがある。そうすれば自然と麗人と巡り会える機会が増え、それに伴いコレクションも増える訳で。

 ザカリーと離れられ、親友とも毎日のように会え、もっと充実した趣味を好きなだけ出来る。こんな素晴らしい選択肢は他に無いのではないか。

 保管庫を開け、丁重に最新作の1枚を取り出したキャサリンは、暫しその絵を見つめる。



「………うふふっ」



 嬉しそうに笑みを零した。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

所(世界)変われば品(常識)変わる

章槻雅希
恋愛
前世の記憶を持って転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢。王太子の婚約者であり、ヒロインが彼のルートでハッピーエンドを迎えれば身の破滅が待っている。修道院送りという名の道中での襲撃暗殺END。 それを避けるために周囲の環境を整え家族と婚約者とその家族という理解者も得ていよいよゲームスタート。 予想通り、ヒロインも転生者だった。しかもお花畑乙女ゲーム脳。でも地頭は悪くなさそう? ならば、ヒロインに現実を突きつけましょう。思い込みを矯正すれば多分有能な女官になれそうですし。 完結まで予約投稿済み。 全21話。

悪役の烙印を押された令嬢は、危険な騎士に囚われて…

甘寧
恋愛
ある時、目が覚めたら知らない世界で、断罪の真っ最中だった。 牢に入れられた所で、ヒロインを名乗るアイリーンにここは乙女ゲームの世界だと言われ、自分が悪役令嬢のセレーナだと教えられた。 断罪後の悪役令嬢の末路なんてろくなもんじゃない。そんな時、団長であるラウルによって牢から出られる事に…しかし、解放された所で、家なし金なし仕事なしのセレーナ。そんなセレーナに声をかけたのがラウルだった。 ラウルもヒロインに好意を持つ一人。そんな相手にとってセレーナは敵。その証拠にセレーナを見る目はいつも冷たく憎しみが込められていた。…はずなのに? ※7/13 タイトル変更させて頂きました┏○))ペコリ

悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜

水月華
恋愛
レティシア・ド・リュシリューは婚約者と言い争いをしている時に、前世の記憶を思い出す。 そして自分のいる世界が、大好きだった乙女ゲームの“イーリスの祝福”の悪役令嬢役であると気がつく。 母親は早くに亡くし、父親には母親が亡くなったのはレティシアのせいだと恨まれ、兄には自分より優秀である為に嫉妬され憎まれている。 家族から冷遇されているため、ほとんどの使用人からも冷遇されている。 そんな境遇だからこそ、愛情を渇望していた。 淑女教育にマナーに、必死で努力したことで第一王子の婚約者に選ばれるが、お互いに中々歩み寄れずにすれ違ってしまう。 そんな不遇な少女に転生した。 レティシアは、悪役令嬢である自分もヒロインも大好きだ。だからこそ、ヒロインが本当に好きな人と結ばれる様に、悪役令嬢として立ち回ることを決意する。 目指すは断罪後に亡命し、新たな人生をスタートさせること。 前世の記憶が戻った事で、家族のクズっぷりを再認識する。ならば一緒に破滅させて復讐しようとレティシアには2つの目標が出来る。 上手く計画に沿って悪役令嬢を演じているはずが、本人が気が付かないところで計画がバレ、逆にヒロインと婚約者を含めた攻略対象者達に外堀を埋められる⁉︎ 更に家族が改心して、望んでいない和解もさせられそうになるレティシアだが、果たして彼女は幸せになれるのか⁉︎

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

良くある事でしょう。

r_1373
恋愛
テンプレートの様に良くある悪役令嬢に生まれ変っていた。 若い頃に死んだ記憶があれば早々に次の道を探したのか流行りのざまぁをしたのかもしれない。 けれど酸いも甘いも苦いも経験して産まれ変わっていた私に出来る事は・・。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

処理中です...