8 / 13
変人、到着する
しおりを挟むコーデリアより一足早く王都に到着したキャサリンは、太陽の眩しさに目を細めながら高く聳え立つ学園を見上げた。学園の渡り廊下を通ると寮に入れるような隣り合わせの構造になっており、大変便利だ。
寮の前に行けば直ぐさま部屋に案内される。寮の最上階の角部屋で極上の一室。寮生達の中で1番家の格が高い為だ。
「キャサリン様、アトリエは何処の部屋に致しますか?」
辺りを見渡すキャサリンに声を掛けたのは侍女のスー=カレリアンだ。カレリアン子爵家の三女で貴族令嬢であるスーだが、本人は自分が嫁ぐ家は何処にも無いと早々に諦めた為、結婚適齢期を迎えた現在でも婚約者探しをする事は無いらしい。
「そうね………1番奥の部屋にしようかしら。静かで1番描きやすそうだもの」
「畏まりました」
スーはテキパキとキャサリンの希望通りの指示を男性陣に飛ばし、あっという間に部屋を完成させた。キャサリンは窓際の椅子に腰掛けた後、ほっと息を吐いた。窓からは緑の生い茂った森や透き通った水辺が見える。久し振りに風景画を描こうかしら、と思ったその刹那、不思議な物体が視界に映った。
「ねぇスー」
「はいキャサリン様」
「幽霊はこの世にいると思う?」
スーは主の謎な発言に目が点になった。
「キャサリン様、熱でも「ないから安心して頂戴」」
「………そうですか」
その割にはジト目なのだが。
キャサリンとて普段から頭の可笑しな言動をして――いなくは無いが、それは家族のみだけが知る事で、使用人達には隙の無い完璧な侯爵令嬢仕様だ。
「あそこは……立ち入り禁止では無かったかしら?」
キャサリンの視線の先、森の中の開けている場所――丘の上には、何か黒い物体が転がっている。それが見間違えで無ければ男性のように見受けられるのだが、先程学園関係者に、そこ一帯は立ち入り不可だと説明を受けたばかりだ。スーはキャサリンの後ろから覗き込み、納得したように頷いた。
「あれは……レイゼル公爵家の方のようですね」
「あら、ここからあの方が見えるの?スーの目は良いのね」
キャサリンの感心した様子にゆるゆると首を振ったスー。
「流石にわたくしもレイゼル公爵家の何方かは分かりませんよ」
きょとんと目を丸くして首を傾げるキャサリンに、スーは苦笑した。極一般的な令嬢と違い、令息に興味のない(他人からはそう思われている)キャサリンは、この簡単な判別方法を知らないのだ。相変わらずさっぱりした方だとスーは何処か安心した。
「レイゼル公爵家と言えば黒髪、ですから」
『……レイゼル公爵家の……。………珍しい黒髪を代々受け継ぐ家系で………』
そう言えばコーデリアが身体的特徴を言っていたような気がすると記憶を掘り起こす。
ぶっちゃけてしまえば、キャサリンにとって色味は全く関係ない。如何にして自分の魅力を引き出し、如何にして魅せるか。それを自分で理解している者が光る。それは時に天才肌から生まれ、時に努力の積み重ねによる自信から生まれる。高度の教育を受けた貴族や見目麗しい人間が社交界で輝くのは、極当たり前の事だ。
「へぇ……そうなの」
眠っているのか、あまりその場から動かない黒髪の男。もう直ぐ日が陰る。このまま眠りこけていたら風邪を引いてしまうだろう。立ち入り禁止とは言え、それを放っておく程キャサリンはあっさりしていない。
小さく肩を竦めたキャサリンは、静かに立ち上がった。
「………行くわ」
「畏まりました」
0
あなたにおすすめの小説
所(世界)変われば品(常識)変わる
章槻雅希
恋愛
前世の記憶を持って転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢。王太子の婚約者であり、ヒロインが彼のルートでハッピーエンドを迎えれば身の破滅が待っている。修道院送りという名の道中での襲撃暗殺END。
それを避けるために周囲の環境を整え家族と婚約者とその家族という理解者も得ていよいよゲームスタート。
予想通り、ヒロインも転生者だった。しかもお花畑乙女ゲーム脳。でも地頭は悪くなさそう?
ならば、ヒロインに現実を突きつけましょう。思い込みを矯正すれば多分有能な女官になれそうですし。
完結まで予約投稿済み。
全21話。
悪役の烙印を押された令嬢は、危険な騎士に囚われて…
甘寧
恋愛
ある時、目が覚めたら知らない世界で、断罪の真っ最中だった。
牢に入れられた所で、ヒロインを名乗るアイリーンにここは乙女ゲームの世界だと言われ、自分が悪役令嬢のセレーナだと教えられた。
断罪後の悪役令嬢の末路なんてろくなもんじゃない。そんな時、団長であるラウルによって牢から出られる事に…しかし、解放された所で、家なし金なし仕事なしのセレーナ。そんなセレーナに声をかけたのがラウルだった。
ラウルもヒロインに好意を持つ一人。そんな相手にとってセレーナは敵。その証拠にセレーナを見る目はいつも冷たく憎しみが込められていた。…はずなのに?
※7/13 タイトル変更させて頂きました┏○))ペコリ
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜
水月華
恋愛
レティシア・ド・リュシリューは婚約者と言い争いをしている時に、前世の記憶を思い出す。
そして自分のいる世界が、大好きだった乙女ゲームの“イーリスの祝福”の悪役令嬢役であると気がつく。
母親は早くに亡くし、父親には母親が亡くなったのはレティシアのせいだと恨まれ、兄には自分より優秀である為に嫉妬され憎まれている。
家族から冷遇されているため、ほとんどの使用人からも冷遇されている。
そんな境遇だからこそ、愛情を渇望していた。
淑女教育にマナーに、必死で努力したことで第一王子の婚約者に選ばれるが、お互いに中々歩み寄れずにすれ違ってしまう。
そんな不遇な少女に転生した。
レティシアは、悪役令嬢である自分もヒロインも大好きだ。だからこそ、ヒロインが本当に好きな人と結ばれる様に、悪役令嬢として立ち回ることを決意する。
目指すは断罪後に亡命し、新たな人生をスタートさせること。
前世の記憶が戻った事で、家族のクズっぷりを再認識する。ならば一緒に破滅させて復讐しようとレティシアには2つの目標が出来る。
上手く計画に沿って悪役令嬢を演じているはずが、本人が気が付かないところで計画がバレ、逆にヒロインと婚約者を含めた攻略対象者達に外堀を埋められる⁉︎
更に家族が改心して、望んでいない和解もさせられそうになるレティシアだが、果たして彼女は幸せになれるのか⁉︎
良くある事でしょう。
r_1373
恋愛
テンプレートの様に良くある悪役令嬢に生まれ変っていた。
若い頃に死んだ記憶があれば早々に次の道を探したのか流行りのざまぁをしたのかもしれない。
けれど酸いも甘いも苦いも経験して産まれ変わっていた私に出来る事は・・。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる