変人悪役令嬢はイケメン探しに没頭する

柊 月

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変人、到着する

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 コーデリアより一足早く王都に到着したキャサリンは、太陽の眩しさに目を細めながら高く聳え立つ学園を見上げた。学園の渡り廊下を通ると寮に入れるような隣り合わせの構造になっており、大変便利だ。

 寮の前に行けば直ぐさま部屋に案内される。寮の最上階の角部屋で極上の一室。寮生達の中で1番家の格が高い為だ。



「キャサリン様、アトリエは何処の部屋に致しますか?」



 辺りを見渡すキャサリンに声を掛けたのは侍女のスー=カレリアンだ。カレリアン子爵家の三女で貴族令嬢であるスーだが、本人は自分が嫁ぐ家は何処にも無いと早々に諦めた為、結婚適齢期を迎えた現在でも婚約者探しをする事は無いらしい。



「そうね………1番奥の部屋にしようかしら。静かで1番描きやすそうだもの」

「畏まりました」



 スーはテキパキとキャサリンの希望通りの指示を男性陣に飛ばし、あっという間に部屋を完成させた。キャサリンは窓際の椅子に腰掛けた後、ほっと息を吐いた。窓からは緑の生い茂った森や透き通った水辺が見える。久し振りに風景画を描こうかしら、と思ったその刹那、不思議な物体が視界に映った。



「ねぇスー」

「はいキャサリン様」

「幽霊はこの世にいると思う?」



 スーは主の謎な発言に目が点になった。



「キャサリン様、熱でも「ないから安心して頂戴」」

「………そうですか」



 その割にはジト目なのだが。
 キャサリンとて普段から頭の可笑しな言動をして――いなくは無いが、それは家族のみだけが知る事で、使用人達には隙の無い完璧な侯爵令嬢仕様だ。



「あそこは……立ち入り禁止では無かったかしら?」



 キャサリンの視線の先、森の中の開けている場所――丘の上には、何か黒い物体が転がっている。それが見間違えで無ければ男性のように見受けられるのだが、先程学園関係者に、そこ一帯は立ち入り不可だと説明を受けたばかりだ。スーはキャサリンの後ろから覗き込み、納得したように頷いた。



「あれは……レイゼル公爵家の方のようですね」

「あら、ここからあの方が見えるの?スーの目は良いのね」



 キャサリンの感心した様子にゆるゆると首を振ったスー。



「流石にわたくしもレイゼル公爵家の何方かは分かりませんよ」



 きょとんと目を丸くして首を傾げるキャサリンに、スーは苦笑した。極一般的な令嬢と違い、令息に興味のない(他人からはそう思われている)キャサリンは、この簡単な判別方法を知らないのだ。相変わらずさっぱりした方だとスーは何処か安心した。



「レイゼル公爵家と言えば黒髪、ですから」

『……レイゼル公爵家の……。………珍しい黒髪を代々受け継ぐ家系で………』



 そう言えばコーデリアが身体的特徴を言っていたような気がすると記憶を掘り起こす。

 ぶっちゃけてしまえば、キャサリンにとって色味は全く関係ない。如何にして自分の魅力を引き出し、如何にして魅せるか。それを自分で理解している者が光る。それは時に天才肌から生まれ、時に努力の積み重ねによる自信から生まれる。高度の教育を受けた貴族や見目麗しい人間が社交界で輝くのは、極当たり前の事だ。



「へぇ……そうなの」



 眠っているのか、あまりその場から動かない黒髪の男。もう直ぐ日が陰る。このまま眠りこけていたら風邪を引いてしまうだろう。立ち入り禁止とは言え、それを放っておく程キャサリンはあっさりしていない。

 小さく肩を竦めたキャサリンは、静かに立ち上がった。



「………行くわ」

「畏まりました」



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