αで上級魔法士の側近は隣国の王子の婚約者候補に転生する

結川

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第1章

第4話(3)二つの事件

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目の前がクラクラする。
全身が怠くて、一歩踏み出すことさえ億劫だ。

東棟の上空から短時間だけとはいえ、雨を降らせることに成功した。
おかげで火事の勢いは収えられたけれど、今までに感じたことがないほど体が重い。
どうやら魔力切れのようだ。

今にも廊下に倒れ込みそうになるのを堪え、書斎へと足を向ける。
置いてきたアンナ嬢のことが気がかりだった。
「すぐに向かう」と言っていたが、あの後彼女の姿を見ていない。
最後に見た時の顔色は青白く、明らかに体調が悪そうだった。

廊下の先に視線を向けると、半開きの扉が見えた。
書斎の扉だ。
僕が飛び出した時と同じままなのが、妙に胸騒ぎを覚えさせる。
重たい足を引きずるようにして、僕は書斎へ急いだ。

「アンナ嬢…?」

書斎に入ると、僕は目の前の光景に言葉を失った。
そこには、床に倒れ込むアンナ嬢がいた。
その顔は血の気を失い、唇の端からは赤いものが滲んでいる。
――血だ。

「アンナ嬢!」

慌てて駆け寄り、肩を抱き起こす。
外傷は見当たらない。
それなのに彼女の唇は紫がかり、冷たい汗が浮かんでいる。
喉元からは花の香りに混じって、微かに鉄のような匂いがした。

病気?いや、急すぎる。
書斎に現れたときの彼女は、いつも通りに話していた。
あのときは、体調の異変なんて少しも感じられなかったのに。

ふと、彼女の口元に血泡が滲んでいるのに気付き、嫌な予感が胸を刺す。
もしかして……毒?

診断魔法で詳しく確認しようと魔力を巡らせるが、何の反応もない。
それも当然だ。自分はとうに魔力切れを起こしているのだから。
それでも諦めきれず、今度は治癒魔法を試みる。
けれど、光の一筋すら生まれなかった。

「誰かを呼ばないと…!」

立ち上がろうとしたその瞬間、背後から甲高い悲鳴が響いた。
振り返ると、数人の令嬢たちが立ち尽くしている。
彼女たちの視線は、倒れたアンナ嬢と、その傍らにいる僕に向けられていた。
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