好きになんてならないからな!

朔弥

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 何度かコール音の後、新井が電話に出た。
『はい、新井です』
 何とかして新井から薬に関する情報を怪しまれないように聞き出さなければ···と緊張でスマホを握る指に力が入る。
「高瀬です···。あのっ···柚月さんが飲まれた薬は一体···。ヒートに似た症状を起こしているのですが···病院へ連絡した方が良いのではないでしょうか。常務の婚約者の方にもしもの事があれば···」
『必要ない』
 ピシャリと言い放たれ、高瀬は押し黙る。
『そんなことより、常務には連絡をしたのか?』
「は、はい···」
『だったらお前は余計な事はせず、常務の帰宅を待てばいい』
 電話を切られそうな気配に高瀬は「あ、あのっ···!」と、焦った声を出した。
 薬に関して何も情報が得られていない。このままではマズイと高瀬は必死に考えを巡らせる。
「ゆっ、柚月さんの症状はどのくらい持続するのでしょうか···」
『······何故、そのような事を知る必要がある?』
 少し警戒した声で新井は聞き返した。
「その···常務に連絡をしたのですが···外せない仕事があり、こちらへ戻られるまでに時間がかかると言われまして、医師を呼ぶようにと。このまま柚月さんに独りでこの状態でいさせるのは···」
『今日の午前中の仕事に重要な会議が入っているとは聞いていない筈だが···?』
「申し訳ありません。柚月さんのサポートについてからは常務のスケジュールに関しての詳細は聞かされておりません」
 スマホの向こう側で新井が考え事をしている気配が感じられる。
 そして深くため息を吐くと、薬が合わなかった場合と前置きをし、
『···一時的にΩのフェロモンの分泌がヒート時と酷似した状態になるが、数時間で治まる。後遺症も残らないから医療機関への連絡は必要ない。いいな、余計な事はしない方が身のためだ。こちらでも常務にすぐ、帰宅して頂くように連絡をとる。お前はそのまま待機していろ』
 と言うと通話が切れた。
「ゆ···柚月さんが飲まれた薬は躰に合わなければ一時的にΩのフェロモン分泌がヒート時と酷似した状態になるそうです。効果は数時間で切れるそうですが···」
 高瀬は恐る恐る斗真の顔色を伺いながら今、新井から聞いた話しを告げた。
「あくまで抑制剤だったと言い張るつもりか?医師に連絡するなと言う時点で調べられたら不味いからだろうが!」
「で···ですから、私は聞いたままをお伝えしているだけで···あ、あの···私は···これからどうしたら···?」
 斗真のまとう空気がピリピリと張り詰め、高瀬は泣きそうな顔で言った。
「社長に仕えられるよう辞令を出してやろう···」
 斗真は冷ややかな視線を高瀬に向け、ただ···と言葉を続けた。
「秘書として仕えながら簡単に裏切る奴を会長が側に置くとは思えないがな」
 高瀬は青ざめ力なくその場に膝から崩れ落ちた。
 斗真は高瀬のスーツからカードキーを抜き取ると、柚月の待つリビングへと戻っていった。




 リビングのドアを開けると、斗真が出ていった時のままソファーの近くで床に座り込み、熱のこもった浅い呼吸を繰り返していた。


 先程より甘い香りが強くなっている。


 斗真は香りに流されないよう、気を引き締めると柚月に近づいた。
「柚月···」
 斗真の声に柚月はゆっくりと顔を上げた。
「このまま待てば薬の効果は数時間で切れるが···」
「···は?薬の効果···って?抑制剤が合わなかったから···じゃないのか?いや、それより···このま···ま······?」
 柚月は困惑した表情で聞き返す。
 焦れったい欲情が先程から柚月の半身に変化をもたらせ始めており、αである斗真を近くに感じてからはより強く彼を求めるように躰の奥に熱を帯びていた。
 そんな柚月の躰の状態に気づいている斗真は、
「ああ···だが、躰が辛いだろ?」
 と言いながら膨らみを見せる柚月のスラックスの前を手で優しく触れた。
「ぁっ······」
 触れただけだったが、柚月の躰はびくんと震え小さく声をあげた。
「···うなじは噛まない。約束する」
 だから···と、斗真は柚月の耳元に唇を寄せ囁く。



 ── 躰の熱を解放させるのを手伝わせてくれ···




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