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第二章 とある男の物語
19 皇帝の長い夜
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武の大国と呼ばれるグレビア帝国はアウラリアの西方に位置し、高い軍事力と温暖な気候が齎す実り豊かな国力を武器に常に強気の外交を展開。容赦のない好戦的な政略で国土を広げてきた歴史を持つ国だ。
先帝であるカリクレア帝は殊に戦を好み、周辺の小国と終始小競り合いを繰り返していた。
そんな中、突如第二皇子が病に倒れる。時を置かず、皇太子である第一皇子も病床に臥した。一年後の八の月、二人の皇子は回復することなくこの世を去って行った。
ところが事体はそれだけで終わらなかった。二人の皇子の死後すぐに、今度は皇帝であるカリクレアが発病したのだ。
翌年五月、そのまま先帝は生前退位。当時二十二歳であった第三王子リアドレスが突如皇帝に即位した。崩御と共に皇帝位が譲位されるのが通例である帝国に置いて、異例の事だった。何より、皇帝に即位したリアドレスは前年十月、年若い妃を出産の折に亡くしたばかり。一年の喪明けも待たぬ慌ただしい即位であった。
怒涛の交代劇から十六年。見事な政治手腕と老若男女問わず魅了する容姿を併せ持つリアドレスは国内外から高い評価を受け、歴代最上の賢帝とまで呼ばれるようになっていた。
粗々しさを男の魅力の一つと位置付けるグレビアに置いて、どんな時も微笑みを絶やさぬ余裕と持ち前の優雅さで人々を魅了してきた皇帝リアドレス。そんな彼が声を荒げたのは、実に三年振りの事だった。
「何だとっ!……一体、一体何の権利があってそのようなことをっ……」
皇帝リアドレスの怒気に第二皇子アルガレルはビクリと肩を跳ね上げたが、顔に浮かべた不満気な表情を隠すことはなかった。
「幾ら父上の寵愛を受けていようと、あのような無礼な態度は許せません。グレビアの王族に対し、敬意の欠片もない。そもそも、何故あのような者を頼るのです。ハイエルフに渡りを付けたければ、もっと然るべき伝手があるはずです」
「何も知らず馬鹿なことを。その然るべき伝手こそがナルジェだ」
「グレビアの皇帝が望むのだから、喜んで力を貸す者が大勢いるはずです。なのに父上は数ある選択肢の中から何故かあの男を選んだ。あの男の色香に惑わされているとしか思えません」
「…何だと」
「あれはたかがエルフの男娼ではありませんか。現に私の……」
「アルガレル、まさかと思うが、お前それを…ナルジェに言ったのか……」
「……私は間違ったことは言っていません」
「間違いだらけだ。穿った見方で俺を批判するのは構わない。だがナルジェを貶めるのだけは許せない。そもそもナルジェは男娼などではないっ!鳥籠も、娼館なのは表向きだっ。……お前を連れてくるべきではなかった」
「それはどういう事です?鳥籠は娼館だと、アウラリアで最も有名な高級娼館だと……」
「下らぬ。誰の入れ智慧だ。そもそもここはアウラリア。この地を一歩踏んだその時から、王族であることは忘れろと言っただろうが。相手が娼婦であろうが物乞いであろうが、理由もないのに罵る権利など誰にも無いわ、愚か者っ!」
「ですが、あの者は……」
「まだ言うか。…出ていけ、今は顔も見たくない」
無言のままアルガレルが部屋を辞すと、グラスの酒を一息に飲み干したリアドレスが荒い息を吐いた。その様子をセドリックは、微動だにせず見つめていた。
「……セドリック」
疲れたように名を呼んだリアドレスの意を正確に察したセドッリックは、事の顛末を淡々と語った。それを聞いたリアドレスが、訝し気な顔で聞き返す。
「騎士を?ナルジェが対価に騎士を一晩所望したと言うのか?」
「左様でございます」
「誰だ?その騎士の名は何という」
「昨年よりアルガレル殿下の護衛騎士を務めているウルド殿です」
「ウルド?闘技場で闘っていたあの男か?何故だ。ナルジェはウルドを知っていたのか?」
「いえ、知っていた様子はありませんでした。殿下がナルジェ殿の肩に触れた時、転倒しかけたところを助けたのがウルド殿です。その時に見染めたようで……」
「見染めた?助けられたことでナルジェが見染め、大勢の前でわざわざウルドを名指しで一夜の相手に所望したと言うのか」
「はい。……もしくは、単なる当て付けかと」
「見染めた……ナルジェは気軽にそのような事をする者ではない。何か意図があったはずだ。気付かなかったか」
「……意図については分りかねます。ただ、殿下に関しては色々と思うことがあったようで、ご立腹の様でした」
「それ程にアルガレルが無礼であったということか?」
「……目に余るものがあったのは確かです」
「そうか、わかった。よく事を治めてくれた。息子が済まなかったな、礼を言う」
「私が付いていながら本当に申し訳ありませんでした」
「あれが勝手にやったことだ。お前のせいではない。もういい、下がって休んでくれ」
再び酒に手を伸ばすリアドレスをもの言いたげな視線で追ったセドリックだったが、何も言わず静かに部屋を後にした。一人残された部屋で、酒を満たしたグラスを手に窓の向こうに広がる景色に視線を向けたリアドレスの口から、深いため息が零れた。
今回のアウラリア訪問の目的はハイエルフに渡りをつける事。国として、皇帝として、なんとしても為さねばならない。だからこそ断腸の思いでナルジェを頼ることにした。
例え如何なる理由があろうと、決して己の都合で利用はすまいと心に誓ったはずの相手を……。
まさかナルジェを守るため情報を伏せていたことが、公然とナルジェを辱め、見当違いな言いがかりをつける理由に使われるなど思いもしなかった。それをしたのが選りに選って自分の息子であるなど、怒りを通り越し情けない。
詰めが甘かった。今回こそはナルジェに会えると、いつのまにか浮足立っていた自分が愚かすぎて笑いが零れる。
ふと、三年前のあの日を思い出し目頭が熱くなる。
なみなみと水の注がれたグラスに白い花弁を一枚浮かべ、片手で弄びながら静かな声で語り出したナルジェの顔は、憂いに満ちていた。
「リアドレス、恋に浮かれた者が見る夢は残酷だ。叶いもしない理想まで叶えられると人に錯覚させる。だがな、現実はいつも容赦ない。ほら、見てみろ。この花弁の様に、水が満ちれば誰もが上を目指す。息が出来なくては恋どころではないからな。苦しみ藻掻けば恋など踏み台にしても上に行くのが人の性だ」
白い指がコトリと一つ大きな氷をグラスに落とすと、水が溢れてナルジェの腕を伝った。ぽたぽたと滴る水などまるで見えていないかのように、あの時、ナルジェはこう続けた。
「そして愛とは沈むと知っても水に留まり、愛しい相手を持ち上げることだそうだ。だが、それではこの氷の様に解けて消えてしまう。愛しい相手に踏まれる者も踏む者も、どちらも救われないと思わないか。……だから俺は、どちらにもなりたくはない。リアドレス、お前はどうだ。例えばこの国に水が満ちても、決して、俺を踏まぬと誓えるか」
言葉に詰まった俺に冗談だと笑った寂しそうな顔を見ていたのに、時間が無いからとその場を後にすることを選んだのは、俺だ。明日になれば時間が取れる、時間が取れたらゆっくり話そう、身勝手にもそう思っていた。
だが、そんな時間がやってくることなど、二度となかった。深夜部屋に戻ると、既にナルジェの姿は消えていた。
あれからもう三年。便りを出しても使いを出しても、何度アウラリアに足を運んでも、ナルジェに会うことは一度も叶わなかった。
ナルジェ、お前を愛していると言った言葉に嘘はない。今もその気持ちに変わりはない。できれば隣に居てほしいと、苦しい程に求める気持ちも……。
けれど明日、俺はリアドレスとしてではなく、帝国の皇帝としてお前に会いに行く。それがきっとお前の言っていた「踏む」ということなのだろう。皇帝になったことを後悔したことはない。だが今ほど自分が皇帝であるということを、腹立たしいと思ったこともない。
同じ街の中、同じ月の灯りに照らされているはずなのに果てしなくお前を遠く感じるのは、明日皇帝として向き会えば、二度と前の二人には戻れない気がするからだ。
目を閉じれば今でもありありと浮かぶ。月光にきらきらと輝く長い髪。嫋やかな見た目と反する強い緑の瞳。滑らかな肌と甘やかな吐息。この腕の中で強く反り返った汗ばんだ背。あの日までは確かにこの腕の中にあった熱が、今、他の男の腕の中にあるかもしれない……。そう考えただけで、震える程の焦燥が湧く。
指先を握り込みゆっくりと目を開けると、窓から差し込む月光の中、浮かび上がったのはあの日と同じ誰もいない寝台。
今の自分があるのは、過去の自分の努力の賜物。やるべき事はやってきたと自負する一方で、これ程までに己の選択の結果に苦しんでいる……。なのに賢帝などと呼ばれ人に傅かれるなど、何と愚かで滑稽な事か。
人生の中で最も大切な選択を、俺はあの日、確かに間違えた。この世で何より優先すべき大事なものを、替えなどきかぬ唯一を、選びもせずに失った。
俺は何も、分かっていなったのだ。
握り込んだこの掌の中には今、何もない……。
グラスに残った酒を一息に飲み干すと、焼けるような熱さが喉を焼いた。空になったグラスを叩きつける様にテーブルに置き、寝台に潜り込む。
硬く目を瞑っても、見えるのはあの笑顔。香るのはあの肌の香り。耳元で、甘い吐息が俺を呼ぶ。
一人寝の寝台はどれ程経っても酷く冷たいままで、月が落ちても眠気など一切訪れなかった。
先帝であるカリクレア帝は殊に戦を好み、周辺の小国と終始小競り合いを繰り返していた。
そんな中、突如第二皇子が病に倒れる。時を置かず、皇太子である第一皇子も病床に臥した。一年後の八の月、二人の皇子は回復することなくこの世を去って行った。
ところが事体はそれだけで終わらなかった。二人の皇子の死後すぐに、今度は皇帝であるカリクレアが発病したのだ。
翌年五月、そのまま先帝は生前退位。当時二十二歳であった第三王子リアドレスが突如皇帝に即位した。崩御と共に皇帝位が譲位されるのが通例である帝国に置いて、異例の事だった。何より、皇帝に即位したリアドレスは前年十月、年若い妃を出産の折に亡くしたばかり。一年の喪明けも待たぬ慌ただしい即位であった。
怒涛の交代劇から十六年。見事な政治手腕と老若男女問わず魅了する容姿を併せ持つリアドレスは国内外から高い評価を受け、歴代最上の賢帝とまで呼ばれるようになっていた。
粗々しさを男の魅力の一つと位置付けるグレビアに置いて、どんな時も微笑みを絶やさぬ余裕と持ち前の優雅さで人々を魅了してきた皇帝リアドレス。そんな彼が声を荒げたのは、実に三年振りの事だった。
「何だとっ!……一体、一体何の権利があってそのようなことをっ……」
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「幾ら父上の寵愛を受けていようと、あのような無礼な態度は許せません。グレビアの王族に対し、敬意の欠片もない。そもそも、何故あのような者を頼るのです。ハイエルフに渡りを付けたければ、もっと然るべき伝手があるはずです」
「何も知らず馬鹿なことを。その然るべき伝手こそがナルジェだ」
「グレビアの皇帝が望むのだから、喜んで力を貸す者が大勢いるはずです。なのに父上は数ある選択肢の中から何故かあの男を選んだ。あの男の色香に惑わされているとしか思えません」
「…何だと」
「あれはたかがエルフの男娼ではありませんか。現に私の……」
「アルガレル、まさかと思うが、お前それを…ナルジェに言ったのか……」
「……私は間違ったことは言っていません」
「間違いだらけだ。穿った見方で俺を批判するのは構わない。だがナルジェを貶めるのだけは許せない。そもそもナルジェは男娼などではないっ!鳥籠も、娼館なのは表向きだっ。……お前を連れてくるべきではなかった」
「それはどういう事です?鳥籠は娼館だと、アウラリアで最も有名な高級娼館だと……」
「下らぬ。誰の入れ智慧だ。そもそもここはアウラリア。この地を一歩踏んだその時から、王族であることは忘れろと言っただろうが。相手が娼婦であろうが物乞いであろうが、理由もないのに罵る権利など誰にも無いわ、愚か者っ!」
「ですが、あの者は……」
「まだ言うか。…出ていけ、今は顔も見たくない」
無言のままアルガレルが部屋を辞すと、グラスの酒を一息に飲み干したリアドレスが荒い息を吐いた。その様子をセドリックは、微動だにせず見つめていた。
「……セドリック」
疲れたように名を呼んだリアドレスの意を正確に察したセドッリックは、事の顛末を淡々と語った。それを聞いたリアドレスが、訝し気な顔で聞き返す。
「騎士を?ナルジェが対価に騎士を一晩所望したと言うのか?」
「左様でございます」
「誰だ?その騎士の名は何という」
「昨年よりアルガレル殿下の護衛騎士を務めているウルド殿です」
「ウルド?闘技場で闘っていたあの男か?何故だ。ナルジェはウルドを知っていたのか?」
「いえ、知っていた様子はありませんでした。殿下がナルジェ殿の肩に触れた時、転倒しかけたところを助けたのがウルド殿です。その時に見染めたようで……」
「見染めた?助けられたことでナルジェが見染め、大勢の前でわざわざウルドを名指しで一夜の相手に所望したと言うのか」
「はい。……もしくは、単なる当て付けかと」
「見染めた……ナルジェは気軽にそのような事をする者ではない。何か意図があったはずだ。気付かなかったか」
「……意図については分りかねます。ただ、殿下に関しては色々と思うことがあったようで、ご立腹の様でした」
「それ程にアルガレルが無礼であったということか?」
「……目に余るものがあったのは確かです」
「そうか、わかった。よく事を治めてくれた。息子が済まなかったな、礼を言う」
「私が付いていながら本当に申し訳ありませんでした」
「あれが勝手にやったことだ。お前のせいではない。もういい、下がって休んでくれ」
再び酒に手を伸ばすリアドレスをもの言いたげな視線で追ったセドリックだったが、何も言わず静かに部屋を後にした。一人残された部屋で、酒を満たしたグラスを手に窓の向こうに広がる景色に視線を向けたリアドレスの口から、深いため息が零れた。
今回のアウラリア訪問の目的はハイエルフに渡りをつける事。国として、皇帝として、なんとしても為さねばならない。だからこそ断腸の思いでナルジェを頼ることにした。
例え如何なる理由があろうと、決して己の都合で利用はすまいと心に誓ったはずの相手を……。
まさかナルジェを守るため情報を伏せていたことが、公然とナルジェを辱め、見当違いな言いがかりをつける理由に使われるなど思いもしなかった。それをしたのが選りに選って自分の息子であるなど、怒りを通り越し情けない。
詰めが甘かった。今回こそはナルジェに会えると、いつのまにか浮足立っていた自分が愚かすぎて笑いが零れる。
ふと、三年前のあの日を思い出し目頭が熱くなる。
なみなみと水の注がれたグラスに白い花弁を一枚浮かべ、片手で弄びながら静かな声で語り出したナルジェの顔は、憂いに満ちていた。
「リアドレス、恋に浮かれた者が見る夢は残酷だ。叶いもしない理想まで叶えられると人に錯覚させる。だがな、現実はいつも容赦ない。ほら、見てみろ。この花弁の様に、水が満ちれば誰もが上を目指す。息が出来なくては恋どころではないからな。苦しみ藻掻けば恋など踏み台にしても上に行くのが人の性だ」
白い指がコトリと一つ大きな氷をグラスに落とすと、水が溢れてナルジェの腕を伝った。ぽたぽたと滴る水などまるで見えていないかのように、あの時、ナルジェはこう続けた。
「そして愛とは沈むと知っても水に留まり、愛しい相手を持ち上げることだそうだ。だが、それではこの氷の様に解けて消えてしまう。愛しい相手に踏まれる者も踏む者も、どちらも救われないと思わないか。……だから俺は、どちらにもなりたくはない。リアドレス、お前はどうだ。例えばこの国に水が満ちても、決して、俺を踏まぬと誓えるか」
言葉に詰まった俺に冗談だと笑った寂しそうな顔を見ていたのに、時間が無いからとその場を後にすることを選んだのは、俺だ。明日になれば時間が取れる、時間が取れたらゆっくり話そう、身勝手にもそう思っていた。
だが、そんな時間がやってくることなど、二度となかった。深夜部屋に戻ると、既にナルジェの姿は消えていた。
あれからもう三年。便りを出しても使いを出しても、何度アウラリアに足を運んでも、ナルジェに会うことは一度も叶わなかった。
ナルジェ、お前を愛していると言った言葉に嘘はない。今もその気持ちに変わりはない。できれば隣に居てほしいと、苦しい程に求める気持ちも……。
けれど明日、俺はリアドレスとしてではなく、帝国の皇帝としてお前に会いに行く。それがきっとお前の言っていた「踏む」ということなのだろう。皇帝になったことを後悔したことはない。だが今ほど自分が皇帝であるということを、腹立たしいと思ったこともない。
同じ街の中、同じ月の灯りに照らされているはずなのに果てしなくお前を遠く感じるのは、明日皇帝として向き会えば、二度と前の二人には戻れない気がするからだ。
目を閉じれば今でもありありと浮かぶ。月光にきらきらと輝く長い髪。嫋やかな見た目と反する強い緑の瞳。滑らかな肌と甘やかな吐息。この腕の中で強く反り返った汗ばんだ背。あの日までは確かにこの腕の中にあった熱が、今、他の男の腕の中にあるかもしれない……。そう考えただけで、震える程の焦燥が湧く。
指先を握り込みゆっくりと目を開けると、窓から差し込む月光の中、浮かび上がったのはあの日と同じ誰もいない寝台。
今の自分があるのは、過去の自分の努力の賜物。やるべき事はやってきたと自負する一方で、これ程までに己の選択の結果に苦しんでいる……。なのに賢帝などと呼ばれ人に傅かれるなど、何と愚かで滑稽な事か。
人生の中で最も大切な選択を、俺はあの日、確かに間違えた。この世で何より優先すべき大事なものを、替えなどきかぬ唯一を、選びもせずに失った。
俺は何も、分かっていなったのだ。
握り込んだこの掌の中には今、何もない……。
グラスに残った酒を一息に飲み干すと、焼けるような熱さが喉を焼いた。空になったグラスを叩きつける様にテーブルに置き、寝台に潜り込む。
硬く目を瞑っても、見えるのはあの笑顔。香るのはあの肌の香り。耳元で、甘い吐息が俺を呼ぶ。
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