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第12話:その背中に、追いつきたい
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「……強くなりたいんだ。」
それはある日の午後、剣術稽古の後にレオンがぽつりと呟いた言葉だった。
クラウスは、一瞬だけ動きを止めた。
その日も剣術場には二人だけ。
レオンの額には汗が滲み、呼吸は浅くなっていた。
何度倒されても立ち上がる姿に、少年の本気がにじんでいる。
「どうして、急に?」
「……別に、急じゃない。前から、思ってた。お前の背中、ずっと遠かったから。」
レオンの瞳がまっすぐクラウスを見据える。
そのライトグリーンの瞳には、幼い頃とは違う、静かな炎が宿っていた。
「俺、お前に守られてばっかだった。今まではそれで良かった。でも……それじゃ嫌なんだ。」
「嫌……ですか」
「うん。俺も、お前の隣に並びたい。ちゃんと、対等に。」
言葉にするのは、恥ずかしかった。
でも、今言わなければ、きっとこの気持ちは伝わらない。
クラウスはしばらく黙っていた。
レオンは不安になりかけたが、そのとき、ふわりと柔らかな声が返ってきた。
「……嬉しいです、レオン様。」
「“様”いらないって言っただろ。」
「それでも、私は、あなた様に敬意を抱かずにはいられません。」
そう言って、クラウスは木剣を構え直した。
「では、改めて申し上げます。レオン、あなたがこの剣を取る理由が、ただ誰かに勝つためではなく、誰かの隣に立つためなら――。」
「私は、全力で教えましょう。」
「……頼む。手加減はなしな。」
「もちろん。」
そして再び、稽古が始まった。
レオンは、倒されるたびに立ち上がった。
クラウスは一度も笑わず、一度も手を抜かず、すべてを受け止めた。
その日から、レオンは剣術だけでなく、学問にも本格的に取り組み始めた。
自ら学ぶことを求め、夜更けまで机に向かう日もあった。
眠気に抗ってペンを走らせるレオンを、クラウスは遠くから、そっと見守っていた。
(きっと、まだ気づいていないんですね。)
(その姿勢そのものが、もう十分すぎるほど“私の誇り”なのだということに。)
レオン・フェルドリン、12歳。
その背中に追いつくための一歩を、自分の意思で踏み出した。
そしてクラウス・イーデン、20歳。
その姿を誇らしく見つめながら、決して“隣”から離れようとはしなかった。
それはある日の午後、剣術稽古の後にレオンがぽつりと呟いた言葉だった。
クラウスは、一瞬だけ動きを止めた。
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何度倒されても立ち上がる姿に、少年の本気がにじんでいる。
「どうして、急に?」
「……別に、急じゃない。前から、思ってた。お前の背中、ずっと遠かったから。」
レオンの瞳がまっすぐクラウスを見据える。
そのライトグリーンの瞳には、幼い頃とは違う、静かな炎が宿っていた。
「俺、お前に守られてばっかだった。今まではそれで良かった。でも……それじゃ嫌なんだ。」
「嫌……ですか」
「うん。俺も、お前の隣に並びたい。ちゃんと、対等に。」
言葉にするのは、恥ずかしかった。
でも、今言わなければ、きっとこの気持ちは伝わらない。
クラウスはしばらく黙っていた。
レオンは不安になりかけたが、そのとき、ふわりと柔らかな声が返ってきた。
「……嬉しいです、レオン様。」
「“様”いらないって言っただろ。」
「それでも、私は、あなた様に敬意を抱かずにはいられません。」
そう言って、クラウスは木剣を構え直した。
「では、改めて申し上げます。レオン、あなたがこの剣を取る理由が、ただ誰かに勝つためではなく、誰かの隣に立つためなら――。」
「私は、全力で教えましょう。」
「……頼む。手加減はなしな。」
「もちろん。」
そして再び、稽古が始まった。
レオンは、倒されるたびに立ち上がった。
クラウスは一度も笑わず、一度も手を抜かず、すべてを受け止めた。
その日から、レオンは剣術だけでなく、学問にも本格的に取り組み始めた。
自ら学ぶことを求め、夜更けまで机に向かう日もあった。
眠気に抗ってペンを走らせるレオンを、クラウスは遠くから、そっと見守っていた。
(きっと、まだ気づいていないんですね。)
(その姿勢そのものが、もう十分すぎるほど“私の誇り”なのだということに。)
レオン・フェルドリン、12歳。
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そしてクラウス・イーデン、20歳。
その姿を誇らしく見つめながら、決して“隣”から離れようとはしなかった。
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