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裸足の花嫁~日陰の王女は愛に惑う~㉛
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言いかけた彼女に覆い被せるように言う。
「祝言はまだとはいえ、私たちは婚約した間柄です。よそよそしい呼び方ではなく、どうぞチュソンとお呼び下さい」
過ぎる日、吉日を卜して王室から羅氏の屋敷にも婚資が届き、またチュソン側からも王女へと結納の品々を届けていた。この儀式をもって、正式な婚約の成立とされる。
王女が吐息混じりに言った。
「そのお話ですが」
チュソンは次に来るべき王女の言葉を待った。王女がまた視線を白藤に戻した。
「この縁談、あなたから断って下さい」
「ーっ」
チュソンは鋭く息を吸い込んだ。
王女はまるで天気の話をするように淡々と言う。
「何ゆえ、あなたが私を望まれるのかは判りませんが」
堪えに堪えていた激情が溢れた。
「惚れたからです」
王女が眼を見開いて彼を見た。チュソンは一旦うつむき、また顔を上げた。
「あなたに惚れたから、私の父から中殿さまにお願いして翁主さまを賜るお許しを頂きました。それでは、理由になりませんか?」
王女の声が弱々しくなった。
「あなたは今日が初対面ではないとおっしゃいますけど、現実として、私たちは初対面のようなものですし、お互いについて何も知りません。そんな希薄な関係で、何故、好きだ惚れたと言えるのですか」
「ひとめ惚れという言葉もあります」
黙り込む王女に、チュソンは続ける。
「それに、私たちは別の意味でも初対面ではありません。十年前、私とあなたは下町で出逢い、色々な話をしました。私はあなたが白藤を好きなことも知っていますし、亡くなられた母君が白藤を愛されたこと、あなたがお生まれになった朝も白藤が咲き匂っていたお話もお聞きしました」
華奢な女の子なのに、身の危険も顧みず、八百屋にぶたれた年上の子どもを助けようとしたことも、見かけに寄らず、お転婆だったのも知っている。
チュソンは静かな声音で告げた。
「私はここに来るまで、この婚姻について、あなたがどう思われているかを訊くつもりでした。私は確かにあなたをお慕いしていますが、あなたの気持ちは判らない。もし、私の一方的な想いであれば、かえって、あなたを苦しめるだけだから、お気持ちを確かめた上で辞退せねばならないと考えていたんです」
王女が不安げにチュソンを見た。
「では、断って下さるのですね」
チュソンは彼女に視線を当てたまま言った。
「いいえ」
王女が眼を瞠った。
「何故ですか、先ほど、あなたは私が嫌なら断るとおっしゃったではありませんか」
チュソンはきっぱりと言った。
「それは、あなたが央明翁主さまであればの話です」
王女が囁くような声で言った。
「私は央明です」
チュソンは静かに笑った。
「もちろん、知っています。あなたが偽者などだとは思っていませんよ。翁主さま、私がこの縁談を断らないと決めたのは、あなたが央明翁主さまである前に、パク・ジアンだからです」
「ー」
王女がふっと眼をそらす。やはり、自分はこの王女に嫌われているのか? 気弱になりかけた自分を叱咤し、チュソンは続ける。
「私にとって幼い日に出逢ったパク・ジアンという少女は、永遠の憧れなのです。あなたには理解できないでしょうが、馬鹿みたいに何年もパク・ジアンを探し続けました。あなたに出逢った二年後、政変に巻き込まれてしまった父が全州の県監として地方へ下りました。私も父と一緒に都を離れました。それから都に戻るまでの年月はとても長かった。地方にいて都の人捜しはできません。去年、科挙を受験するために全州からはるばる都に出てきた短い滞在でさえ、私はパク・ジアンを探していたんです。祖父には笑われました。受験生なのに、勉学もそっちのけで毎日、外をうろついているとね」
「祝言はまだとはいえ、私たちは婚約した間柄です。よそよそしい呼び方ではなく、どうぞチュソンとお呼び下さい」
過ぎる日、吉日を卜して王室から羅氏の屋敷にも婚資が届き、またチュソン側からも王女へと結納の品々を届けていた。この儀式をもって、正式な婚約の成立とされる。
王女が吐息混じりに言った。
「そのお話ですが」
チュソンは次に来るべき王女の言葉を待った。王女がまた視線を白藤に戻した。
「この縁談、あなたから断って下さい」
「ーっ」
チュソンは鋭く息を吸い込んだ。
王女はまるで天気の話をするように淡々と言う。
「何ゆえ、あなたが私を望まれるのかは判りませんが」
堪えに堪えていた激情が溢れた。
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「あなたに惚れたから、私の父から中殿さまにお願いして翁主さまを賜るお許しを頂きました。それでは、理由になりませんか?」
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華奢な女の子なのに、身の危険も顧みず、八百屋にぶたれた年上の子どもを助けようとしたことも、見かけに寄らず、お転婆だったのも知っている。
チュソンは静かな声音で告げた。
「私はここに来るまで、この婚姻について、あなたがどう思われているかを訊くつもりでした。私は確かにあなたをお慕いしていますが、あなたの気持ちは判らない。もし、私の一方的な想いであれば、かえって、あなたを苦しめるだけだから、お気持ちを確かめた上で辞退せねばならないと考えていたんです」
王女が不安げにチュソンを見た。
「では、断って下さるのですね」
チュソンは彼女に視線を当てたまま言った。
「いいえ」
王女が眼を瞠った。
「何故ですか、先ほど、あなたは私が嫌なら断るとおっしゃったではありませんか」
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「それは、あなたが央明翁主さまであればの話です」
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「私は央明です」
チュソンは静かに笑った。
「もちろん、知っています。あなたが偽者などだとは思っていませんよ。翁主さま、私がこの縁談を断らないと決めたのは、あなたが央明翁主さまである前に、パク・ジアンだからです」
「ー」
王女がふっと眼をそらす。やはり、自分はこの王女に嫌われているのか? 気弱になりかけた自分を叱咤し、チュソンは続ける。
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