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第4話「五分前」
#1
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——ゴスッ。
「いでぇっ!?」
咲の言い寄りにまんざらでもない気分を味わってしまっていると、突然、背中に打撃を受けた。
それはまるで、人の拳によるもののようで。
しかし、椅子に座っている俺の背後には背もたれがあり、殴打のための隙間など存在はしない。
「今、殴ったか?」
「? 殴ってないけど?」
一応と蒼に尋ねてみれば当然に否定され、咲もどうしたのかと首を傾げていて、わけわかんねぇな、と背中をさする。
気づけば、先ほどの浮いた感情はリセットされていた。
それからも痛みの正体を探していると、右隣に座る蒼が少し距離を縮めてくる。
「えっとさ。ボク、比良人くんのこと、もっと知りたいんだけど、さ」
「彼はわたくしの夫ですわよ」
割って入るようにむくれた顔で咲が言って、その様に、廊下からこちらを眺めていた夜風が苛立たしそうに歯を鳴らしていた。
「イチャイチャしやがって……!」
そうして集まってくる視線には、普通ではない思惑が隠されていて。
日常化する謎に、俺はたまらずストレスを感じ天井を見上げていた。
思い出すのは、三人の怪しい行動の始まり。
咲は中学で出会った当初から。
夜風と蒼はここ最近、まるで連鎖するみたく、人が変わったような言動を取りだした。
三人は、一体俺に何を求めているのか。
生憎と特別な才能もない俺は、結局答え探しを脇に置いて、食事を再開させるのだった。
「ところで、単なる興味なんだけど」
菓子パンをモソモソと食べている蒼が、ふと思いついたように俺を見る。それに俺は、辟易と返した。
「なんだ? 今度はどんな俺の情報を使って悪用したいんだ?」
「あ、悪用なんてしてないよっ! これは単なる興味っ!」
そう言い訳をして、蒼はチラリと咲を横目に見る。その視線に気づいた咲も、一旦箸を止めた。
「比良人くんの好きなタイプって、どんななの?」
唐突な質問に、俺は思わず固まってしまう。
すると真っ先に口を開いたのは咲で。
「まあ、わたくしのような容姿ではないんでしょうね」
これまでのことを思い出しているのだろう、不貞腐れた言いぶりに思わず何かを言いつくろおうとして、けれど俺はふと湧いて出た記憶に動きを止める。
それから数秒。
何も言えず、俺はぎこちない顔を浮かべたままで。
「で、どうなの?」
「わたくしも一応聞いておきたいですわ」
俺の沈黙に、より興味を増した蒼が瞳を輝かせ、咲は興味がないふりをしてこちらをじっと見つめてくる。
問い詰められるような状況に居心地の悪さを覚えながらも、俺はなぜか、律儀に浮かんだ特徴を伝えていた。
「……黒髪で、ショート、かもな」
そう告げると、蒼が目を見開き自分の髪を触る。
「く、黒髪ショートって……」
「や、やはり蒼さんがライバルでしたか!?」
くわっと咲が蒼に詰め寄る。確かに俺の周りで当てはまるのは彼ぐらいだが、さすがにないと思いたい。
でも言い切れないのは、あまりにもぼんやりとしたイメージだったからだ。
……黒髪のショート。
それ以外の容姿はハッキリしない。
けれどもその姿を捉えた日は明瞭に覚えていて。
小学校を卒業する直前のことだった。
俺は不思議な人と出会い、話をした。
何気なく他愛なく、つかみどころのない話。
でもあの時間が、俺を変えたようにも思う。
今の俺へと、作り替えたのだ。
「いでぇっ!?」
咲の言い寄りにまんざらでもない気分を味わってしまっていると、突然、背中に打撃を受けた。
それはまるで、人の拳によるもののようで。
しかし、椅子に座っている俺の背後には背もたれがあり、殴打のための隙間など存在はしない。
「今、殴ったか?」
「? 殴ってないけど?」
一応と蒼に尋ねてみれば当然に否定され、咲もどうしたのかと首を傾げていて、わけわかんねぇな、と背中をさする。
気づけば、先ほどの浮いた感情はリセットされていた。
それからも痛みの正体を探していると、右隣に座る蒼が少し距離を縮めてくる。
「えっとさ。ボク、比良人くんのこと、もっと知りたいんだけど、さ」
「彼はわたくしの夫ですわよ」
割って入るようにむくれた顔で咲が言って、その様に、廊下からこちらを眺めていた夜風が苛立たしそうに歯を鳴らしていた。
「イチャイチャしやがって……!」
そうして集まってくる視線には、普通ではない思惑が隠されていて。
日常化する謎に、俺はたまらずストレスを感じ天井を見上げていた。
思い出すのは、三人の怪しい行動の始まり。
咲は中学で出会った当初から。
夜風と蒼はここ最近、まるで連鎖するみたく、人が変わったような言動を取りだした。
三人は、一体俺に何を求めているのか。
生憎と特別な才能もない俺は、結局答え探しを脇に置いて、食事を再開させるのだった。
「ところで、単なる興味なんだけど」
菓子パンをモソモソと食べている蒼が、ふと思いついたように俺を見る。それに俺は、辟易と返した。
「なんだ? 今度はどんな俺の情報を使って悪用したいんだ?」
「あ、悪用なんてしてないよっ! これは単なる興味っ!」
そう言い訳をして、蒼はチラリと咲を横目に見る。その視線に気づいた咲も、一旦箸を止めた。
「比良人くんの好きなタイプって、どんななの?」
唐突な質問に、俺は思わず固まってしまう。
すると真っ先に口を開いたのは咲で。
「まあ、わたくしのような容姿ではないんでしょうね」
これまでのことを思い出しているのだろう、不貞腐れた言いぶりに思わず何かを言いつくろおうとして、けれど俺はふと湧いて出た記憶に動きを止める。
それから数秒。
何も言えず、俺はぎこちない顔を浮かべたままで。
「で、どうなの?」
「わたくしも一応聞いておきたいですわ」
俺の沈黙に、より興味を増した蒼が瞳を輝かせ、咲は興味がないふりをしてこちらをじっと見つめてくる。
問い詰められるような状況に居心地の悪さを覚えながらも、俺はなぜか、律儀に浮かんだ特徴を伝えていた。
「……黒髪で、ショート、かもな」
そう告げると、蒼が目を見開き自分の髪を触る。
「く、黒髪ショートって……」
「や、やはり蒼さんがライバルでしたか!?」
くわっと咲が蒼に詰め寄る。確かに俺の周りで当てはまるのは彼ぐらいだが、さすがにないと思いたい。
でも言い切れないのは、あまりにもぼんやりとしたイメージだったからだ。
……黒髪のショート。
それ以外の容姿はハッキリしない。
けれどもその姿を捉えた日は明瞭に覚えていて。
小学校を卒業する直前のことだった。
俺は不思議な人と出会い、話をした。
何気なく他愛なく、つかみどころのない話。
でもあの時間が、俺を変えたようにも思う。
今の俺へと、作り替えたのだ。
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