Find me ~俺に近づく三人が明らかに怪しい。~

落光ふたつ

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Epilogue

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「お邪魔いたしますわ!」

 バンッ、と勢いよく扉が開かれて、比良人とエミは驚き振り向いた。
 三付家、比良人の部屋。肩を並べて映画鑑賞をしていたところに、神楽咲咲は現れた。
 仲睦まじい距離感に動ずることなく、咲は溌溂と言い放つ。

「比良人さん、しばらく厄介になりますわ!」
「は?」

 突然の宣言に比良人は当然疑問符を浮かべるが、関係なく咲は比良人の隣に座る。

「叔母と父がか……失踪しまして、それを機に祖母がお母様を引きずり落とそうと動き出しましたの。それでまあ、お母様が実力行使でねじ伏せなくてはならなくなり、現在とても大変な状況なのです。さすがのお母様も少しでもお金が必要みたいで、更にはわたくしの面倒を見る暇もないと、こちらでお世話になることになったのですわ。もちろん、比良人さんのご両親にはお話をつけていますわ」

 事情をまくし立てながら咲はそっと比良人の手を取った。その急な接近に比良人は顔を引きつらせながらも、話は理解したようだった。

「い、一応分かったけど、部屋がないぞ? エミと同室ならいいけど……」

 三付家唯一の空き部屋は、永住居候がほぼ決まったエミに渡されていて空きはない。そう告げると咲は得意げに提案する。

「いいえ、エミさんに迷惑をかけるわけにはいきません。ですのでここは、より気の置けない仲である、比良人さんのお部屋で寝泊まりを!」
「ちょ、ちょちょちょっと待て!? 異性同士だしな!?」
「何をお困りですか? わたくしと比良人さんは、将来を約束した仲ではありませんか?」

 咲の発言に比良人は目を剥くが、それ以上に、隣にいたエミからの鋭い視線と咲とは反対の手を握る力に責められる。

「や、約束したか? 結局返事は出来ていないままだけどっ」
「ええ、返事はまだですわ。ですので沈黙は肯定と受け取ることにしましたの。明確な意志表明をしないのは、都合よく解釈されて仕方ないことですわよ?」
「い、いや……」

 自分にも非があるから比良人は強く言い返せない。
 以前から行われていた求婚に関する返答はずっと考えていた。あれが、家を守るためによるものだけでなく、本音が含まれているというのは気づいていたことだ。
 だからこそ真摯に向き合うべきだと思い、直接話して伝えようとここ一か月、咲に連絡はしていたのだが、毎度忙しいからと顔を合わせられずにいた。
 忙しい理由は家のゴタゴタだとは分かったが、咲のしてやったりと言う表情を見てすぐに作為的だったのだと察する。
 比良人が助けを求めるようにエミを見ると、咲も彼女に視線を向けた。

「エミさん、わたくしからの提案です。わたくしになりませんか?」
「どういうこと?」
「何言ってんだお前?」

「これは運命的な発見ですが、わたくしの咲と言う名前は『エミ』と読むことも出来るのです。つまりはエミさんと同一人物になれる可能性がある! 加えてエミさんには戸籍がありませんし、今後の生活として必要ですわよね? でしたら是非、わたくしと共に、比良人さんの妻になりましょう!」

 いや戸籍ならフリガナも振るだろうし、二人は見るからに別人だし無理があるだろう。
 しかしエミはどことなく瞳を輝かせて顔を上げた。

「……名案かもしれない」
「ですわよね!」
「なわけないだろ!? 絶対上手くいかねぇしっ。それにっ、二人と、結婚、とか……」
「安心してくださいませ。戸籍偽装は経験がありますの。それにしばらく経てばお母様の財力も戻ってきますのでどうとも出来ますわ」

 その咲の自信は確かに頼りがいのあるものだが、それとは別の言葉にし辛い感情がダメだろうと躊躇っている。

「何より、わたくしとエミさんという華を、両手に持てるのですよ?」
「咲なら構わない」
「え、いや……」

 二人が結託したせいで一人追い詰められてしまう比良人。そこへ咲はこれでもかとばかりに詰め寄った。

「比良人さん。わたくしお母さんと約束しましたの。お互い、幸せを掴みましょうと」
「う……っ」

 まっすぐな瞳。強く気高く美しいその輝きに、比良人は確かに見惚れたことが何度もある。
 思わず流れで首を動かしてしまいそうになったその時、

 ピンポーン。

 まるで彼を救済するようにチャイムが鳴った。

「きゃ、客だ!」

 逃げるように比良人は部屋を飛び出す。面倒事は一旦忘れ玄関に出ると、そこにはなじみの顔ぶれがあった。

「神楽咲さんいる!? やっぱり戻らないんだけど!?」
「ごめんねー急にー」

 動転した様子で叫ぶのは、猪皮蒼の体に入る繋。そして隣で平然と笑うのが、夜風繋の体に入った蒼だ。
 あれから一カ月経つのに未だ好転していない状態を悟り、さすがの比良人も自分のことを置いて憐みの表情を浮かべた。
 すると比良人の背後から咲も顔を覗かせる。

「あら、まだ入れ替わったままなのですね」
「そうなの! どうすれば元に戻れる!?」
「やっぱり未来が無くなったんだと思うよ。だから行ちゃんもいないことになってて」
「それはあり得ますわね。でしたらまあ、あとの可能性は一つしかありません」

 と言い切る咲に、嫌な予感がしつつも繋は促さざるを得ない。

「それってちなみに……?」
「物理的に繋が——」
「だだだだから!? まだそう言うのはダメぇ! それに初めてが逆転なんて!」

 咲の提案を繋が叫び声で強引にかき消す。
 とは言え想定はしていることが半ば漏れていて、蒼は少し頬を染めて笑った。

「まあ、ゆっくり探そうよ」
「お、女の子として……されたいのに」

 恥ずかしい部分はゴニョゴニョと誤魔化しながらも隠しきれていない本音が零れる繋。
 打開策が見つからないと分かると、それから二人は踵を返していった。
 その背中を比良人は苦笑いで見送る。

「あいつらも大変だな……」
「一度で全てが片付くものでもございませんしね」
「二人とも帰ったの?」

 玄関扉を閉めると、エミがひょっこりとキッチンの方から顔を覗かせた。どうやら来客用におもてなしを用意していたらしいが、出番がなくなって残念な顔を見せた。
 なら代わりにと三人でティータイムをすることに。

「エミさん、お茶を入れるのお上手ですわね」
「ありがと。お菓子も少しは作れるようになったよ」
「あらあらとても家庭的ですわ。ちなみに比良人さん、わたくしも大体の家事スキルはマスターしていますので、将来に不満ナシですわね」

 話を掘り返され、思わず口に含んでいた茶を吹き出しそうになる比良人。そして追い打ちをかけるようにエミも言う。

「咲すごい。楽しみだね比良人」

 彼女は、すっかり無邪気に笑うようになっていた。
 その笑顔を見ているとなんだか色々考えるのも馬鹿らしくなって。

「本当にお前ら、それでいいのかよ……」
「咲なら、問題なさそう」
「それに、予知夢では上手くいっていたそうですわよ?」

 ため息を吐きながら。
 比良人は、改めて自分が幸せ者なのだと実感していた。
 そうして見つけたなら、決意も自然と固まる。
 離れて行かないよう、その手で固く握った。
 隣にいる幸せを。
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