憧れの人がおれを口説いてきた件

ほえほえ

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朝食を食べた後は、家を出て、学校へと向かう。
授業を受けて、クラスメイトと他愛ない話をして、昼食を食堂で摂る。

この世界は良い。前の世界とは雲泥の差だ。
生活水準が頗る高い。洗濯も掃除も家電任せで楽だし医療も充実している。
物品も必需品から娯楽品まで溢れ返るほど。
それに遠距離を短時間で済ませられる移動手段がある。
何より子供が労働力として換算されない。教育を受けられる。食事も食べさせて貰える。
治安だって良く、まあ平和でもある。
とはいえ、全くの安全でもないのだが。
それを差し引いても、本当に、天国の様な環境だ。

一日の授業過程が修了すれば。おれは帰りにスーパーに寄って買い物をする。
そして家に戻り、買ったものを片付け、家事をしたり宿題や予習復習をしたりする。
今日は金曜日なので、ダンジョンに向かう日だ。

おれの住んでいる区域には、C級ダンジョンがある。
電車一駅分の距離には、D級もE級もある。片道1時間掛ければ、A級だって。
さて、今日は何処に行こう。
明日、明後日は休みだから、多少遅くなっても大丈夫だ。一泊しても良い。
実入り的にも、A級だろうか。

―――あの人を。一目でも見る事が出来たら、良いんだが。




10年前。7歳の時。おれは両親と、今住んでいる場所ではない処に住んでいた。
近くには、D級のダンジョンがあった。
あまり人気のないダンジョンだった。
出てくる魔物はD級相応ではあるが少々厄介な性質持ち。
ドロップするアイテムはD級よりもE級に近い。
そんなダンジョンが、ある日。沢山の魔物を外に吐き出した。
町中に溢れた魔物は手当り次第に建物を壊し、人を襲った。
そしておれは。其処で両親と左腕と左目を失い。
父方の祖父母に、引き取られる事になった。

スタンピードは、そう頻繁に起こるものではない。
ダンジョン内の魔物の総数をある程度制御、つまり間引けば、それで事足りるからだ。
けれど現存する全てのダンジョンに起こりうる、可能性は常にある。
しかもダンジョンは100年前の出現から、今も尚増え続けている。
故に探索者協会はダンジョン踏破を推奨している。

けれど、事はそう簡単な話でもない。

ダンジョンで産出される素材が、今では人々の生活に根差しているからだ。
電力の代わりになる魔力を含んだ魔石。鉄より頑丈な鉱物。珍味や美味。
医者泣かせと言われる魔法薬類まで。

だから人に有用な素材を出すダンジョンは残される。
例として挙げるなら鉱物類や宝石類を産出するダンジョン。
美味い食材を産出するダンジョン。
ポーションの材料となる薬草が生えるダンジョンなど。

探索者自体の質の問題もある。

ダンジョンを消滅させるには、最奥まで潜って核を破壊しなければならない。
けれど、例えE級でも、ダンジョンは奥へと進めば進むだけ、難易度が上がる。
ならば難易度をクリア出来る高位探索者に踏破させれば、という声も挙がりはするが。
彼らは彼らで上級ダンジョンを踏破或いは間引きをしなければならない。
スタンピードは、低級よりも上級で起こされた方が被害が酷いからだ。

その上、高位探索者は数が少ないという問題もある。
彼らとて人間だ。
わざわざ命を脅かして、旨味も稼ぎも低いダンジョンを踏破する理由も余裕もない。
だから下級の不人気ダンジョンの踏破消滅には。
精々、魔物が溢れない様に間引きつつ、安い依頼料で踏破依頼を出し。
高位探索者がその依頼を受けてくれるのを待つくらいしかない。

おれから色んなものを奪っていったあのダンジョンは。
そんな、高位探索者に踏破依頼が出され、順番待ちの状態だったダンジョンだった。
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