姫は王子を溺愛したい

縁 遊

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16. 贈り物の中身は…

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 濃紺色の箱にオーガンジーの白色リボンがかけられた小さな箱。

 姫野から私へのプレゼント?

「開けてみて…」

 席に着いた姫野が更に私の方に箱を押してきた。

 中を見て欲しいってことなのかな?

「わかった」

 言われた通りに箱を開けてみる。

「え…」

 箱の中にはシルバーの土台にキラキラと輝くダイヤモンドがはめ込まれている綺麗な指輪だった。

 「綺麗…」

 思わず声がでてしまった。

「婚約者なのに指輪が無いのはおかしいと姉さんから言われて…。あまり派手なのは好きじゃないと思ってこれにしたんだけど、どうかな?サイズは大丈夫だと思うけどはめてみてくれる?」

 姫野は言い終わると指輪を手に取りもう片方の手を掌を上にして私に伸ばしてきた。

 これは私の手を姫野の手の上に乗せろということね。

 ゆっくりと姫野の掌の上に自分の右手を重ねた。

「こっちじゃなくて左手出してが良いな」

「あっ…ごめん」

 婚約指輪って左手にするものなんだ…。経験が無いからついつい利き手を出しちゃった。

 姫野が私の左手を優しく包み込み…そして薬指にゆっくりと指輪をはめた。

 そして、指輪をはめた所にキスをした。

「え?」

 予想していなかった事に声がでてしまった。

 こんなのドラマとか漫画とかの中にでてくるキザな男性がする事で本当にする人なんかいたんだ!?…って、あの姫野が!?え~!?

「王子…なんて顔をしてるんだ?鏡見てみろ。口開いてるぞ」

 呆れたような、笑っているような不思議な顔をしながら姫野の手が私の頬に触れた。

「あっ、だってこんな指輪…偽物婚約者なんだから必要なかったのに…高そうだし」

 偽物なんだから、あや姉には適当に誤魔化しておいて買わないって選択肢はなかったのかな。これ凄い高そうなんだけど…私には勿体ないよ。

「…そうきたか」

 姫野が何かを口にしたが店内の他のお客さんの笑い声でよく聞こえなかった。

「え?ごめん、よく聞こえなかったからもう一回言ってもらっても良い?」

「…それは今回の婚約者役を引き受けてくれた王子に感謝の気持ちを込めたプレゼントだから気にしないで受け取ってほしい。それに婚約したんだから毎日指に着けておいてほしい」

 気にしないでって言われても困るよ。だけど感謝の気持ちって言われたのに返します!とも言えないし…。それに頬にある姫野の手が気になって考えがまとまらない!

 頬に触れていた姫野の手が離れ、温度が下がる。その手は私の眉間に今度は触れて…。

「また余計なことを考えてるんだろ?眉間のシワが凄いぞ」

 私は眉間にあてられた姫野の指を自分の手ではらいのけて隠した。

 ちょうどその時、マスターが食事を持ってきてくれたので指輪の話はここで終わった。

 タイミングが良いのか悪いのか…。

 食事をしている間も姫野から貰った指輪が光に反射してキラキラと光っているのが気になって左手をチラチラと見てしまった。

 キラキラ…そうだ思い出した。

「そういえば、今日懐かしい人に会ったの」

「懐かしい人…って誰?」

「柚菜ちゃんのお兄さんの悠人さん。覚えてる?たまに練習に差し入れを持ってきてくれていた人だよ」

「…ああ」

 話した途端に姫野が不機嫌になった。

 あれ?

 悠人さんと仲が悪かったかな?

 そんな記憶は無いんだけど。

「…あの人がどうしたの?」

 さっきまでより少し低くなった声で聞いてくる。話を聞きたいの?

「え…と、今度柚菜ちゃんも一緒にご飯に行こうって誘われたの」

「ふ~ん。その時、俺にも声をかけてくれる?時間があれば一緒に行きたいな」

 作り笑いを見せる姫野。

 悠人さんの事が苦手そうなのに、ご飯にはついてくる?

「わかった。話してみるね」

 とりあえず、柚菜ちゃんと悠人さんに聞いてみよう。

「いや、内緒でお願いしたい。特に悠人さんにはね…」

 この感じ…やっぱり悠人さんと何かあったんだよね。それなのにご飯に連れていっても大丈夫なのかな。不安しかない。

 姫野はグラスに残っていたワインをイッキ飲みして空になったグラスをテーブルにドンッと強めに置いた。

「悠人さんが何か言ってきたら何でもいいから話してくれ。メールでも電話でも良い。後からではなく事前に教えてほしいんだ。王子…約束できるか?」

 私は黙って頷いた。

 報告するぐらいはできると思うけど、なぜそんなに悠人さんにこだわるのかを教えてほしいと言ったら教えてくれるのかな。

「それに…今さらだが、婚約したのにお互いに名字呼びだと怪しまれそうだから今から名前で呼びあわないか?」

「え!?今から!?」

 急すぎるよ!

「まさか俺の名前を忘れてないよね?言ってみてくれないか」

 期待した眼差しで見つめてくる姫野。酔っているの?

「…ゆ…う…」

 長い付き合いだけど名前で呼んだことなんか無いから照れる。絶対に顔が赤くなっているのが自分でもわかるよ!

「照れてて可愛いな光…」

 さらっと光って言った!慣れてる、絶対に女性に慣れてるよね!しかも、右手で私の髪に触れているよ。

 いつもの姫野じゃない!やっぱり酔っている?

 気になってワインのボトルに目をやると…。

 ほぼ空になっていた。

 結局…この後ほろ酔いになった姫野をマスターの力を借りてタクシーに乗せて帰った。

 後日、姫野が土下座して謝りたいと連絡してきたのには笑ってしまった。



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