素直になりたくて

糸井未華子

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肌寒い朝には。

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『ん…』


くるまった薄い掛け布団だけでは
肌寒くて目が覚めた。


『さみぃな…』


眠い目を擦って時計を見ると、
仕事の時間まではまだ空きがある。
けれど、二度寝するには短い間。

寝起きの気だるい体を起こして、
いつかソファに放ったパーカーを手に取る。

やわらかい生地に手を通した、
その瞬間。

背中がふっと暖かみに包まれた。
薄いパーカーの生地にはない、
ふっくらとした暖かみ。

薄桃色の生地に包まれた細い腕が
たしかな力を持って腰に回される。


『貴女…』

(いつの間に来てたわけ?)


何時ものように続けようとした言葉は
すう…と脳裏にすいこまれて消えた。


『寂しかった…?』


こぼれた台詞は、
自分が思うよりも柔らかく、冷たい朝に響いた。

ぎゅっ…と腕の力が強められるままに、
背中に触れるおでこが強く押し付けられる。


『俺は…』


その次の台詞が言葉になる前に
ふりむいて貴女を抱きしめた。

貴女の艶やかな髪に顔を寄せると、
ほのかに香るシャンプーと貴女の香り。


『俺は、こうしたかった…』


掠れかけた声。
腕の力だけはギュッと強めて。


「かず…くん…」


貴女の小さな声に、柄にもなく
心が締め付けられるような、そんな気がする。

どれほど抱きしめても、貴女が足りないんだ。


「好き…」


あぁ貴女はどこまで、
俺を貴女色に染めたら気が済むんだろう。


「好き…だよ。貴女が好きだ。」


朝の時間はもうすぐ終わり…
心の中でそんな理由をつけて。

好き。だなんて呟かされてしまったのは、
寝起きのせいでも、雰囲気に流された訳でもなく、
貴女のせいだ…

もうきっと、後戻りできない。
それほどまでに貴女にひたすらに、恋をしたんだ…








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