NEVER

糸井未華子

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NEVER

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「私、もう終わりにしたいの。さよなら…」





俺の目も見ないまま
ただ一言それだけをキミはあっさり呟いた。

どうして?
俺には分からないんだ。

プレゼントを贈りあったクリスマス
俺らは幸せそのものだったよね?





最後のあの日君に送った

〝いつものカフェで待ってるね😆〟

能天気な俺のLINEのメッセージ
結局今も既読は付かないままなんだ。


〝今どこにいる?〟

〝今度の休みは何するの?〟

〝仕事終わるの何時になりそう?〟


キミとのLINEには
いつも既読を待つキミからのメッセージが
ちゃんと送られて来ていた。

既読を付けることも返信することも
めんどくさがっていたのは
いつも僕の方だったのに。




もうキミの心に俺はいないのかな。




キミが作ってくれたハムエッグ
その味は未だに忘れられないのに
今日もコンビニのサンドイッチを頬張った。




結び目の歪んでいた黒とオレンジの
ネクタイを地下鉄の窓に写して直す。

少し前までお気に入りだった
スカイブルーのネクタイは駅のごみ箱に
丸めて昨日捨ててきた。

キミが家に泊まりに来た朝
器用にタイを結んでくれた指先

あのネクタイを付けた日は指先の白さが
蘇って息も吐けなくなったから。




部屋もあちこち模様替えしたんだ。
キミが選んだカーテンやベッドカバー
その白さも淡さも俺には甘過ぎると
思っていたとこだったんだよ。

ほら、もうここはキミの知ってる部屋じゃない
今さら戻ってくる場所なんて無いよ。

もう俺の色で染めたから。





静寂が嫌でつけた深夜バラエティ
話題の芸人がトークを披露するだけで
スタジオにどっと笑いが起こる。
なのに隣から聞こえてくる
カラコロしたキミの笑い声がなくて。
耳が痛くなるような静けさは大きくなった。
摘まんでいたポテチは
お腹いっぱいになっても無くならなかった。

立ち寄ったファストフード店
ホットコーヒーを注文したのに
蘇ったのはキミの顔。
「ここのコーヒー美味しくなくない?
 オススメはね、アイスティーだよ!」
そうだコーヒー好きのキミは
ここの味じゃ気に入らなかったんだよね。
一口啜ったコーヒーは
ヤケドしそうな程熱くて喉に染みるほど苦かった。




どんなに掻き消しても
俺の中からキミが消えることはなくて
どんどん面影だけが深くなる。
キミを思い出してはセンチメンタルになる俺を
キミはどう思うのだろう。




友人から届いた伝言メモ
再生しようとページを開いて
掌を握りしめた。

キミの声が、残っていたんだ。


「まぁくーん!ハッピーニューイヤー!
 今年もよろしくねっ!」


タップすればスマホから流れるキミの声。
寒々しい部屋の空気を揺らす。


『どうして…何でなんだよっ…
 〝今年も〟って、お前言ってたじゃんっ…』


ボロボロと涙が溢れた。

キミが僕の前から居なくなってから
初めて流した涙だった。

今年も一緒に居よう。
留守番電話じゃなくて直接言えていれば、
運命は変わっていたんだろうか。




震える指先。消去のボタンをタップした。

どうせなら想い出もなにもかも
すべて一緒に消えてくれれば良かったのに。

まだまだ長い間、
俺はキミの抜け殻を見つけてキミを想って
またその度に立ち止まってしまうんだ。




甘い香りのツヤツヤな髪
小さくてすぐ表情を変える顔
クリクリ動く目
おしゃべりなキミの話を作る唇
柔らかくて小さな手


すべてすべて大好きだよ。今もまだ。

キミを想うだけで甘さと苦しさが滲むんだ。

キミの笑顔に会えたあの日に戻って
苦しいと言われるまで
抱きしめたいよキスをしたいよ




だけどもうキミは居ないから。
僕の愛してる、僕を愛してくれる
キミはもう居ないんだ。




この失った恋から
前に進むことの出来た暁には
最高の幸せを手にしてみせる。

キミのことが大好きだったから。
すべてすべてが大好きだった。




愛していました。さようなら。
大好きだったキミ。







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