107 / 140
第十三章 禁断の果実
(7)
しおりを挟む
ノックもせずに亜樹の部屋に行くと、裏台に腰掛けていた亜樹が、驚いたような顔をしている。
どう見ても歓迎している顔じゃない。
誤解されている?
「オレ、今日、なにか怒らせるようなことした?!
下から窺ってくるような問いかけに胸を突かれた。
亜樹はどんな気分で一樹の訪れを、受け止めていたのだろう?
意味を理解していなかった?
「なにもなかったらきたらいけないのか、亜樹?」
「別にそんなふうには言わないけど」
言葉では否定しているが明らかに様子を窺っている顔だった。
「なんかあった? いつもなら」
「ちょっと待てよ、亜樹。おれは別におまえを抱くためだけにきていたわけじゃない」
「‥‥‥!」
返事はなかったが顔を赤く染めた亜樹に、ちょっと後悔した。
これは本当に誤解されてうだ。
「ごめん。言葉が足りなかった」
「一樹?」
言わなくてもわかっていたころ。
いや。
口に出してはいけなかったころがあったから、なんとなく気持ちは口に出さない。
そう決意しているところは確かにあった。
なにも言わす行動にだけ移していたら、亜種は自分の身体だけが目当てだと誤解しかねない。
いや。
もうされているのかも。
どう言えば信頼を取り戻せるのかわからなくて途方に暮れた。
「一樹? どうしたんだ? なんか変だよ?」
「エルスたちにまで鈍感だと言われたよ、おれは。どうやらかなり鈍いらしい。散々言われたからな、今」
「そうだね」
あっさり肯定されて沈没しそうになった。
恋人とまでは言わないが、少なくとむ嫌われてはいないと思っていた。
でも、これは。
「亜樹」
「なに?」
「お前もしかして自分の意思じゃなく、仕方なくおれに抱かれてのか?」
「なんて失礼な訊き方するんだよ、お前はっ?」
「だってお前おれがきたらすぐにそういう目的だと解釈するだろ? なんで逢いたいからだって一晩だって離れていなくないだけだって思ってくれないんだ?」
「それはだって一樹が」
困ったような亜樹の言い訳に、リオネスの言葉が蘇った。
『きみがそんな調子だと亜樹だって愛されてる自なんか持てないよっ!』
「ごめん」
強く抱きしめると亜樹は戸惑ったようだった。
「一樹? なんでさっきから謝ってばかりいるんだ? わからないよ」
わからない。
はっきりそう言われることで目が覚めた。
気持ちは口に出さなければ伝わらない。
わかっているつもりでわかっていなかった。
どれだけ身体を重ねても心は遠い。繋がれてもいない。
エルシアたちに指摘されなければ、気づかないまま失っていたかもしれない。
この生命よりも大切な人を。
「おれはただいつも亜樹の傍にいたかった」
「一樹」
「一晩も、いや、一瞬だって離れていたくない。ただそれだけだったんだ。別に怒ってい
編集
道具纜
グラフィンク
フロッピィ
印刷
おれはただいつも亜材の傍にいたかった」
たかった」
「言われないとわからないよ、そんなこと。なんで今になって・・声が震えて泣いているのがわかった。
追い詰めて苦しめていたのだと、今頃になって気づく。遅すぎるのに・
「おれは生まれる前からお前を知ってる」
「え?」
「セシル。おれがマルスだよ」
ビクリと腕の中の華奢な体が震えるのがわかった。
いつのまにこんなに頼りない体付きになったんだろう?
男だったときよりずっと細い。
肩だって頼りない。
おれは一体亜樹のなにを見ていたんだろう。
「お前が夢で見たセシルが抱いていた銀色の獣。それがおれだよ、亜樹」
「嘘!」
「詳しく話すよ。おれたちの出逢いから別れまで。そしておれの正体も」
「正体」
愕然と呟いている亜樹の肩を抱いて、その隣に腰掛けた。
今夜はなにもしない。
そう心に誓った。
「これを言えばお前は苦しむと思ってた。ただでさえ蒼海石のピアスなんてしていて、しかも母親の出自は不明。そこへもってきて前世の話なんて知らせたら、絶対にショックを受ける。そう思って今まで隠してた」
「前世。もしかしてあのセシルって子?」
亜樹の声に小さく頷いた。
「セシルが誰なのか、それはおれも知らない。おれは創始の神々の長子、水神マルスなんだ」
「それって神々で一番偉いってこと?」
「昔の話だよ。セシルと出逢っておれは水神としての立場を放棄したからな」
「‥‥‥」
「まずは御伽話から始めようか。創世のころ、この世にいたのは血族ばかりで成り立っている神々だけだった。はじめに生まれたのがおれ水神マルス。次ぎが風神エルダ。そして海神レオニス。大地の女神、シャナ。炎の女神、レダ。力は産まれた順に比例している。何故かと言うと世界に欠かせない力を持ったものから順に生まれているからなんだ」
「一樹とレオニスとラフィンは同系統の神だよな。三人とも水が関係してる」
「そう。但しレオニスは海を、ラフィンは湖を司ってる。純粋に水を統べているのはおれなんだ。おれが水の司なんだよ」
「だから、エルシアやアレスが、一樹を特別扱いしてたんだ?」
気づいてたのかと笑うと、その位気づくよと亜樹が、ぷうと頬を膨らませた。
なんだが反応が女の子みたいだ。
どう見ても歓迎している顔じゃない。
誤解されている?
「オレ、今日、なにか怒らせるようなことした?!
下から窺ってくるような問いかけに胸を突かれた。
亜樹はどんな気分で一樹の訪れを、受け止めていたのだろう?
意味を理解していなかった?
「なにもなかったらきたらいけないのか、亜樹?」
「別にそんなふうには言わないけど」
言葉では否定しているが明らかに様子を窺っている顔だった。
「なんかあった? いつもなら」
「ちょっと待てよ、亜樹。おれは別におまえを抱くためだけにきていたわけじゃない」
「‥‥‥!」
返事はなかったが顔を赤く染めた亜樹に、ちょっと後悔した。
これは本当に誤解されてうだ。
「ごめん。言葉が足りなかった」
「一樹?」
言わなくてもわかっていたころ。
いや。
口に出してはいけなかったころがあったから、なんとなく気持ちは口に出さない。
そう決意しているところは確かにあった。
なにも言わす行動にだけ移していたら、亜種は自分の身体だけが目当てだと誤解しかねない。
いや。
もうされているのかも。
どう言えば信頼を取り戻せるのかわからなくて途方に暮れた。
「一樹? どうしたんだ? なんか変だよ?」
「エルスたちにまで鈍感だと言われたよ、おれは。どうやらかなり鈍いらしい。散々言われたからな、今」
「そうだね」
あっさり肯定されて沈没しそうになった。
恋人とまでは言わないが、少なくとむ嫌われてはいないと思っていた。
でも、これは。
「亜樹」
「なに?」
「お前もしかして自分の意思じゃなく、仕方なくおれに抱かれてのか?」
「なんて失礼な訊き方するんだよ、お前はっ?」
「だってお前おれがきたらすぐにそういう目的だと解釈するだろ? なんで逢いたいからだって一晩だって離れていなくないだけだって思ってくれないんだ?」
「それはだって一樹が」
困ったような亜樹の言い訳に、リオネスの言葉が蘇った。
『きみがそんな調子だと亜樹だって愛されてる自なんか持てないよっ!』
「ごめん」
強く抱きしめると亜樹は戸惑ったようだった。
「一樹? なんでさっきから謝ってばかりいるんだ? わからないよ」
わからない。
はっきりそう言われることで目が覚めた。
気持ちは口に出さなければ伝わらない。
わかっているつもりでわかっていなかった。
どれだけ身体を重ねても心は遠い。繋がれてもいない。
エルシアたちに指摘されなければ、気づかないまま失っていたかもしれない。
この生命よりも大切な人を。
「おれはただいつも亜樹の傍にいたかった」
「一樹」
「一晩も、いや、一瞬だって離れていたくない。ただそれだけだったんだ。別に怒ってい
編集
道具纜
グラフィンク
フロッピィ
印刷
おれはただいつも亜材の傍にいたかった」
たかった」
「言われないとわからないよ、そんなこと。なんで今になって・・声が震えて泣いているのがわかった。
追い詰めて苦しめていたのだと、今頃になって気づく。遅すぎるのに・
「おれは生まれる前からお前を知ってる」
「え?」
「セシル。おれがマルスだよ」
ビクリと腕の中の華奢な体が震えるのがわかった。
いつのまにこんなに頼りない体付きになったんだろう?
男だったときよりずっと細い。
肩だって頼りない。
おれは一体亜樹のなにを見ていたんだろう。
「お前が夢で見たセシルが抱いていた銀色の獣。それがおれだよ、亜樹」
「嘘!」
「詳しく話すよ。おれたちの出逢いから別れまで。そしておれの正体も」
「正体」
愕然と呟いている亜樹の肩を抱いて、その隣に腰掛けた。
今夜はなにもしない。
そう心に誓った。
「これを言えばお前は苦しむと思ってた。ただでさえ蒼海石のピアスなんてしていて、しかも母親の出自は不明。そこへもってきて前世の話なんて知らせたら、絶対にショックを受ける。そう思って今まで隠してた」
「前世。もしかしてあのセシルって子?」
亜樹の声に小さく頷いた。
「セシルが誰なのか、それはおれも知らない。おれは創始の神々の長子、水神マルスなんだ」
「それって神々で一番偉いってこと?」
「昔の話だよ。セシルと出逢っておれは水神としての立場を放棄したからな」
「‥‥‥」
「まずは御伽話から始めようか。創世のころ、この世にいたのは血族ばかりで成り立っている神々だけだった。はじめに生まれたのがおれ水神マルス。次ぎが風神エルダ。そして海神レオニス。大地の女神、シャナ。炎の女神、レダ。力は産まれた順に比例している。何故かと言うと世界に欠かせない力を持ったものから順に生まれているからなんだ」
「一樹とレオニスとラフィンは同系統の神だよな。三人とも水が関係してる」
「そう。但しレオニスは海を、ラフィンは湖を司ってる。純粋に水を統べているのはおれなんだ。おれが水の司なんだよ」
「だから、エルシアやアレスが、一樹を特別扱いしてたんだ?」
気づいてたのかと笑うと、その位気づくよと亜樹が、ぷうと頬を膨らませた。
なんだが反応が女の子みたいだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?
詩河とんぼ
BL
前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる