弟妹たちよ、おれは今前世からの愛する人を手に入れて幸せに生きている〜おれに頼らないでお前たちで努力して生きてくれ〜

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第十六章 水の神殿

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 すぐに死ねてよかったと思うべきなのか。

 それとも同時に死にたかったと思うべきなのか。

 あのときの絶望の深さは今だって忘れられない。

 何度、冷たくなったセシルの名を呼んだのか自分でも覚えていない。

 なるべくなら思い出したくない苦い思い出である。

「じゃあオレなんでこんな姿になったんだろう? 金髪はリーンとかイヴ・ロザリア姫を見てるから、まだ納得できるけど、こういう瞳の色ってアリ?」

「いや。なしだ」

 答えてくれる一樹の口調も、とても苦いものだった。

「オレっていったいなんなんだろう」

 ぽつりと呟いた亜樹に、一樹とリオネスとアレスの三人が、気遣うように顔を覗き込んだ。

「とにかくおまえ、なにか食べろ、亜樹」

「は? なんだ、いきなり、それは?」

 すとんと床に下ろして一掛は真面目くさって言った。

「おまえ、ほんとに十五か? ちょっと軽すぎるぞ。腕に腰掛けられるっていうのは」

「うるさいなっ! オレだって気にしてるんだから指摘するな、バカっ!」

 威勢よく怒鳴ったかと思うと、すごい瞬発力で一樹の脚を蹴りあげた。

「いてつ。なにするんだ、おまえはっ?」

「知らないよーだ」

 舌を出して亜樹はそのままどこかに走っていってしまった。

 まるで鹿のように験足である。

 身軽なその動きに啞然としてリオネスがいた。

「亜樹ってもしかしなくてもものすごく運動神経がいいのかな? あの野性児並の一樹を蹴るなんて」

「野性児ってどういう意味だよ、リオン?」

「そのとおりでしょ? 子供のころは手に負えないやんちゃ坊主だったんだから、きみは」

 身長は使いのだが、こういうときのリオネスには勝てない。

 育ての親には勝てないというやつである。

 むすっとしてしまう一樹に追い打ちがかかった。

「確かにマルスが司るものは水。その動きはわたしと互角ぐらいには素早い。それを避ける暇さえ与えないとは、大したものだ!」

「エルダ。おまえ、それは、嫌味か?」

「いや。感心しているだけだ。知れば知るほど変な子供だ。あの大賢者殿は。あれは人間の動きではないぞ? あの小柄で華奢な身体では、あの速度は出ない。いったい何者なのだ?」

「そうね。わたしも兄さまが叫ぶまでわからなかったもの。あっというまだったわ。神に動きを見切らせないなんて一体?」

 炎を司るレダは可憐な性格とは裏腹に、一種やエルダに次ぐくらいその動きは身軽で俊敏である。

唖然としているその様子に、一樹は苦い気分だった。



「どえしょう?」

 感情のままに一樹を蹴り付けて、逃げ出したのはいいのだが、後先を考えずきたばかり所で思いっきり走ったせいか、亜樹は途方に暮れていた。

「大体建物が悪すぎるんだよ。どこを向いても似たような感じで」

 愚痴る声も小さくなっていく。

 さっきから同じ場所をグルグル回ってる気がする。

 認めたくない。

 ものすごくいやだし、この歳になってまさかとも思いたいけどこれは。

「オレもしかしなくても迷子?」

 茫然と呟いた。

「わー。どうしよう」

 あっちこっちの部屋を覗いてみるが、そもそもきたばかりの場所で、おおよその位置がるわけもなく、どこにいるのかすら怪しかった。

 おまけに最高神の神殿だけあって広いのだ。

 それこそリーンの住んでいた公国の城より広いと思う。

 それに水の神殿と呼ばれているせいか、窓から見たときはあれだけ太陽に近かったのに、空気の温度は低い。

 ぞくっとするほどではないが、長時間薄着で出歩く環境ではないのは明らかだった。

 そもそも亜樹以外の者はみんな人間ではないのだし、少々の環境の変化くらいなんともないのかもしれないが。

「水の和殿がこれだけひんやりしてるってことは、正反対の特徴を持つ炎の神殿って熱いのかな?」

 なにか言っていないと気が変になりそうだ。

 静寂って怖いものだったんだと今更のように思う。

 飛び出してから、どのくらい経ったんだろう?

 なんだか水の相殿にいると時間の流れも曖昧だ。

 人の気配も感じないし、なんか薄気味悪くなってきた。

 認めたくない。

 本当に本心がら認めたくないのだが。
「わーん。怖いよ、一揃っ! ここどこなんだよ、一樹っ!」
叫んであるが水に波紋が起きても音がしないように反響するしない。
「見つけてもらえなかったらどうしよう?」

 とほぼな気分で呟いた。




「亜樹の奴。どこまで行ったんだ?」

 亜樹が帰ってくるのを待って、一樹はさっきの場所でボケっとしていた。

 知らない場所だし、そう遠くへは行かないたろうと思ったから。

 暫くの間の監視役は、神殿の位置の関係でエルダがやることになっていた。

 話を終え、食事の手配を終えて亜樹を待っているのだが帰ってこない。
 
 リオネスもアレスも自分の部屋に引きあげたし。
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