転生王女は美味しいものがお好き

紫月

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美味しいは正義

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私はヴァルドネル王国の一の姫、サーシャ・ヴァルドネルだ。
双子の妹姫マーシャとは名前がよく似ているため、混乱する人も多い。
ありがちな話である。
そして私には秘密がある。
何を隠そう、私は転生者だ。
全く異なる世界の記憶があるのだ。
これがラノベや漫画なら乙女ゲームの世界への転生かもしれないが、残念ながら該当する作品を知らない。
普通の転生かと思われる。
もしよくある乙女ゲームへの転生だったら、私はヒロインではないはず。
もしヒロインだとしても、私は王女だから結婚相手の身分がかなり限られてしまうからだ。
攻略相手にはいろんなイケメン男子がいないとツマラナイじゃないか。
つまりこの世界が乙女ゲームの世界だとしても、私がヒロインである確率は極めて低い。
可能性があるとしたら、ライバルキャラではないだろうか?
なんてね。
てか本物のラノベじゃあるまいし、そんな冗談みたいな話はないか。
ともあれ私は今世を楽しむことにした。
今世で新しい野望ができたのだ。
前世での知識を活かし、世界征服をしようと思っている。
そして私は既にこの国を征服している。
全ては私の手のひらの上なのだ。

「おお!今日はカレーライスだな!
この匂いがたまらん!!」
父よ、今日は福神漬けも付けてやったぞ。
ひれ伏すがいい!
「サーシャちゃんの作る食事はどれも最高ですわ!
ああ~ん!また太ってしまうわ!」
母よ、もっと虜になるといい。
私なしでは生きられない身体にしてやろう!
「お姉様……モグモグ……お肉が柔らかくて……モグモグ……絶品ですわ……モグモグ。」
そうだろう、そうだろう?
生のパイナップルを刻んで漬け込むと、酵素の力でたんぱく質を分解し、お肉が劇的に柔らかくなるのだ。
さぁ、たんとお食べ!
私は前世の記憶を駆使し、全国民の胃袋を掴みつつある。
平民、貴族、王族無差別飯テロだ。
私は転生をはたし記憶が蘇ってから、この国の食文化に絶望した。
焼くか茹でるが基本の調理法に、味付けの調味料は砂糖と塩がメインで、素材の味を生かした料理が一般的だ。
これは前世でも言えることなのだが、"うま味"とは日本食にしかないのだそうだ。
昆布や鰹節、煮干しなどから出る出汁にうま味成分のアミノ酸が含まれている。
そして私はそのうま味である出汁も、ついでに醤油も味噌もない人生は耐えられないと判断した。
五才で両親を説得し、試行錯誤を重ねて出汁も醤油も味噌も完成させた。
それぞれの調味料を作れる職人を育成し、流通ルートの確保にも成功した。
前世で美味しいものが食べたくて、いろいろ調べまくって手作りで作っていたのが功を制したのだ。
知識は財産だ。
そして庶民向けの食堂や貴族向けのレストランをオープンさせ、今では大盛況だ。
見たことない料理でも、美味しければ皆そのうち受け入れてくれるものだ。
美味しいは正義だ!
「そうそうサーシャ、結婚決まったから。」
そうそう、結婚が……え?
「隣国との平和条約の証に、お嫁に行ってもらう事になったの。
サーシャちゃんはどこに出しても恥ずかしくない、いいお嫁さんになれるわ!」
お、お母様、私無しでも生きていけるのですか!?
「お姉様……モグモグ……城の料理人に……モグモグ……レシピ残していってくださいね……モグモグ。」
食べるか喋るかどっちかになさい、妹よ。
ショ、ショックだ……。
私は国の食文化の為に貢献してきた。
ついでに国庫も随分潤った。
なのにお払い箱なのか……。
あぁ……私の飯テロ世界征服計画が……。
「あぁ、勘違いしないでね、サーシャ。
貴女はこの国の宝よ。
お嫁に出してしまうのは(胃袋が)凄く淋しいけど、隣国が貴女の料理の腕で豊かになるのは嬉しいことだわ!」
お、お母様!
そこまで私を買ってくれているのか……。
「貴女の料理で、隣国の人々に食べる喜びを教えてくれるわね?」
「はい、お母様!
私が隣国と言わず、世界中の人々に美味しいものを作って差し上げます!」
食こそ生きる喜びだ。
私はこの世に遣わされた使者なのだ!

上手く乗せられた気がしなくもないが、こうやって私は隣国に輿入れすることが決まったのである。





注意※本作品はグルメ小説ではなく、恋愛小説です。
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